天獄塔・第一層(四)
再び天獄塔の異界第一層に入る。
今回は数日は野営が可能なように皆に準備をしてもらっている。
とはいえ、ほとんどのリソースは僕のアイテムポーチに入れているため、各自は万が一はぐれてしまった場合などのために準備をしている程度である。
本当はパーティメンバー全員にアイテムポーチを配れば良いのだが、先日シェリルさんに借りたアイテムポーチ等の魔道具はあくまで、僕とアリスが使う場合のみという条件で借りているので皆に配ることはできないのだ。
「それじゃあ今回は前回の川を経由して、上流の岩山を目指してみようか」
「かしこまりました」
「川を通るってこたぁ、またユニコーン・バッファローに追い掛け回されるのかよ……うんざりするな」
「追われるのはジークだけだから何も問題は無いんじゃないかしら。ねぇ、アリスちゃん」
「ジークは嫌ですか?」
「そ、そんな訳がねぇぜ! アリスさんのためなら何匹相手でも走り回ってやるぜ!」
相変わらず、うちのパーティは定常運行中だけど、まあメンバーの仲が悪いわけじゃないから特に気にすることもないか。
皆の漫才を尻目に今回の探索の為に用意した魔道具をアイテムポーチから取り出して起動する。
すると魔道具から低い音が鳴ると共に、小さな物体が大量に飛び出し四方八方に分散していく。
「うお! な、なんだこの音は!? ん、……離れていった?」
「ああ、ちょっと魔道具を起動しただけだから気にしなくていいよ」
音は聞こえたものの飛び出していった物体は見えていないようだ。まあ、認識阻害が掛けてあるから気付かなくても仕方がないか。
今回起動した魔道具は複数個で合わせて使用することで本来の役割を果たすことができる。
その名前は未踏地形探索魔道具……、簡単に言ってしまえば自動で未踏地域の地図を作り出すことができる魔道具だ。
四方八方に分散した子機が地形情報を計測し、その情報を親機が集約することで地図になるのである。
この魔道具の凄い所は平面だけでなく立体的に地図を作り出すことができるという点にある。
まさに異界の探索のためにあるような魔道具である。
シェリルさんのコレクションにこれを見つけた時は、思わず小躍りしてしまいそうになったほどだったのは秘密だ。
昨夜、家に帰宅してから最優先で修復を行ったので、今回の探索にはなんとか間に合わせることができた。
早速地形情報が集められ始めている。
地図を作り終えるのにどれくらいの時間がかかるか実際に待ってみないとわからないが、全てを自分たちで回ることを考えれば圧倒的にコストの削減になる事は間違いないだろう。
「それじゃあ、そろそろ行くよ?」
――あっという間に時間が経ち現在は岩山地帯に入る前辺りで野営の準備中である。
今日も相変わらずジークがユニコーン・バッファローに追われるハプニングは起こったが、あくまで想定通りだったので角の収集を行わせてもらうこととなった。
「明日はいよいよ岩山地帯に突入することになるわけだけど、どんな魔物が出てくるかな?」
「さあな、岩山ってぐれぇだからロックゴーレムとかいるんじゃねぇのか」
「ゴーレムは魔術師が使役するものだから魔物じゃないでしょう」
「そ、それくらい知ってるぜ! ちょっと言ってみただけだろうが」
「まあ、天獄塔の異界だから妙な分布になっていたとしてもおかしくは無いから、推測はするだけ無駄かな」
「そうですね、これまでも法則性がなかったですし……」
岩山の魔物……か、よく知られているのはグリフォンとかハーピー辺りが定番かな?
異界に出る魔物は亜種が多い印象があるが、……さて、何が出るか。
しかしそれよりも問題があることを先ほど思い出した……。
「今日は寝ないといけない日だったのを忘れていた……」
「うへ、ってことはヘタしたら午後出発かよ。まあ急いでるわけじゃねぇから構わねぇけどよ」
「ふふ、こればかりはもう、完全にバーナード君の体質みたいなものだと思って諦めるしか無いわね。異常に強いバーナード君にも可愛いところがあって良いんじゃないかしら」
「準備は全て私に任せて、バーナード様はごゆっくりお休みください」
「皆にはいつも迷惑かけちゃうね」
最近は二日徹夜して三日目に寝るという生活を維持している。
皆そろそろ慣れてきたのか、対応もあっさりとしたものだ。
ジークもエリーシャも探索者になれた事で、わりと毎日が充実しているのだろう、比較的余裕を持って生活ができているようだ。
「あ、そうだ忘れていたけど皆に地図情報を共有しておくね」
そう言いながら未踏地形探索魔道具の親機をアイテムポーチから取り出して起動する。
すると親機の上部がうっすらと光り始め、闇夜に浮き上がるように立体的な地図を写しだした。
「何だこりゃ!? すげぇな、さっきの口ぶりからすると、これはもしかして第一層の地図だったりするのか?」
「そうみたいね、どうやって写しているのかしら」
「まあ、魔道具のことじゃなくて地図のことを見てくれるかな? さっきジークが言ったようにこれは第一層の地図であっているよ」
「これを見る限りでは恐らくガーディアンは岩山の山頂辺りになりそうですね」
「うんアリスの推測であっていると思う。多分だけどこの山頂付近かな。これなら後一泊か二泊で済みそうかな」
翌日、昼が過ぎた辺りからようやく岩山の探索が始まったのだが、探索開始間もなく魔物に遭遇してしまった。
ちなみに遭遇した魔物はストーン・ハーピーの群れだった。
目の前では十匹のストーン・ハーピーが僕達の様子を窺うように取り囲んでいる。
少しの間様子を窺っていたが近づいてくる気は無いようで、遠巻きに羽を飛ばしてきた。
ストーン・ハーピーの羽は石のように硬いので、このまま遠巻きに狙われると厳しいかもしれない。
「アリスはなるべく回避をしながら近づいてくるストーン・ハーピーがいたらそれを迎撃! エリーシャは遠巻きに狙って、ジークはエリーシャを援護!」
「かしこまりました」
「わかったわ」
「おう! バーナードはどうすんだ?」
「僕はちょっと行ってくる」
「行ってくるって何処にだよ!?」
さて、周りに探索者も見当たらないことだし、久しぶりに試運転と行きますか。
走りながらブーツに仕込んだ魔道具を起動して前に飛ぶ。
そのまま空中に着地しながら次々と飛び、一番近くにいたストーン・ハーピーに近づき斬り伏せて蹴り落とす。
ストーン・ハーピーはまさか空を飛んで近づかれることを予測していなかったのか、連携が乱れて慌て始めた。
「今、空中で飛ばなかったか!?」
「あんな魔道具まであるのね……。あ、でもそういうことなら私も行ってくるわ。折角バーナード君に武器を強化してもらったのだもの。風の精霊よ力を貸して!」
そう言い放つとエリーシャも腰のレイピアを抜き放ち、風の精霊の力を借り空を飛ぶと向かってくる羽を避けながら、ストーン・ハーピーに近づき羽を切り飛ばした。
「エリーシャは飛べるのか、精霊魔術も凄いね」
「魔術師の飛行魔術程は速くないけど、これくらいなら行けるわ。それにしてもストーン・ハーピーを切っても刃こぼれしないとか凄いわね」
「しっかり強化したからね。よし、じゃあ一気に片付けますか!」
二人で手分けしたので、全てのストーン・ハーピーを討伐するまでに余り時間は必要なかった。
今回はアリスとジークの出番は全くなかったせいで、二人は機嫌が悪かったが飛べないから仕方が無いだろう。
「バーナード様、今度私にもそのブーツを用意していただけませんか?」
「ああ、俺にも用意してくれねぇか?」
「はは、簡単に言うなあ。まあ素材が集まったら用意するよ」
「なんかそれこないだも聞いたな、まさかまたドラゴンとか言わねぇだろうな?」
「いや、グリフォンの羽があればなんとかなると思うよ。もしかしたらこの岩山でグリフォンが出現する可能性もあるからなんとかなるかも」
「それじゃあ私もお願いしても良いかしら、風の精霊の力を借りれば飛べるのだけれど疲れるのよ。なんか私だけ仲間はずれも嫌だしね」
……何か近代錬金術が便利屋になってないか?
まあ、天獄塔の異界でグリフォンが出れば素材の質も良いだろうから空中で加速とか格好いいかも、僕のブーツも強化しても良いかもしれないな。
グリフォンでないかなー。
「また何かロクでもねぇこと考えてやがるな……」
……失敬な。
話のつじつまあってるかなぁ……。




