協力関係(二)
「……話が突拍子もなさすぎて、どう返したらいいものなのか全く解らないわ。それが本当の事なら錬金術排斥派の魔術師はとんでもないことをしでかしたことになるもの」
僕の話がひと通り終わった時には、シェリルさんは血の気が引き苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
それもそのはず、かのセオドールの一件が冤罪であっただけでなく、錬金狩りすら錬金術排斥派魔術師連中が扇動していたと言われたのだから。
「ですがこれが真実です。無理矢理にでも理解して頂く他ありません。だからこそ錬金術排斥派には最大限の注意が必要ということです」
「そうねバーナードくんの協力を仰ぐ以上は、これを真実として理解する他ないものね。私は貴方の言葉を信じるわ。センスライの魔術を使わない事で信頼に代えて貰えると嬉しいわ」
「僕は使ってもらっても構いませんよ?」
「そんな無粋なことはしないわ……それでバーナード君達は今後どうするの? こちらで探索者をしなくても十分な金銭を用意することは可能よ?」
シェリルさんは無理やり自分を納得させると、僕達の今後の方針を確認してきた。
彼女的には本当は今すぐにでも全リソースを近代錬金術の研究に向けて欲しいのだろう。しかし僕達の意思は尊重してもらえるようだ。
僕としては協力するに当たり相応の報酬は頂くつもりではあるが、今後も天獄塔には登らざるをえない事は確定している。
「僕たちはこのまま探索者を続けながら、シェリルさんの協力をしていきたいと思っています。僕の資産を他の誰にも渡すつもりはありませんから。それに……」
ふとアリスに目を向ける。《完全なるホムンクルス》の錬成に必要となる賢者の石を、もう一度錬成するためには多くの要素が必要となる。
アリスはそんな僕の視線に気づくと、シェリルさんに向き直り口を開いた。
「……私からもシェリルさんに聞いていただきたいことがあります。宜しいでしょうか?」
「アリスちゃんが? ……わかった、聞かせてもらうわ。」
「ありがとうございます。私は……人間ではありません。私はバーナード様によって生み出されたホムンクルスです。こんな私ですが変わらず友人として接していただけますか?」
「当たり前じゃない。アリスちゃんは私の大事な友人よ」
アリスは恐る恐る自身の秘密をシェリルさんに伝え始めた。
アリスの告白に目を見開き驚くシェリルさんだったが、すぐに姿勢をただしアリスの事を友人と言ってくれた。
その言葉を聞いたアリスの目から涙が流れる。
当たり前だがホムンクルスも生命であること。そしてその生命には心が存在することを改めて認識させてくれた。
「良い友だちができてよかったねアリス。 もちろん僕もアリスのことは大事に思っているよ」
「はい! 二人共ありがとうございます。ぐすっ」
アリスは本当に嬉しかったのだろう。溢れだした涙が落ち着くまでにしばらくの時間が必要だった。
その後は再びガールズトークが始まってしまい。僕は再び蚊帳の外に置かれることになる。
「それではそろそろお暇させていただきますね。帰りは馬車で送って頂けるのでしょうか?」
「それはもちろんよ。バーナード君達のことは最上級の客人としてもてなすよう伝えておくわ」
「あ、いやそれは悪目立ちするので、公にはこれまで通り探索者ギルド職員の友人ということでよろしくお願いします」
シェリルさんに協力するとは言っても、まだ天獄塔に登らなければならないということは変わらないのだ。
再び明日から天獄塔の異界を探索しなければならないのだから、領主の贔屓だなどと目立つ訳にはいかない。
また誰かに罠にはめられたり襲われたりしては困ってしまうのだ。
次回またシェリルさんの屋敷を訪ねる事になったら、その手段を考えておいたほうが良いかもしれないな……。
あ、そういえばシェリルさんに一つお願いごとをしなければいけなかったのだった。
「シェリルさん、もう一つお願いが――」
「バーナード様、何か凄く嬉しそうですね」
シェリルさんの屋敷を離れ、帰りの馬車の中でアリスにそう話し掛けられた。そんなに嬉しそうにしていたかい?
「うん、いくつか近代魔道具を借りることができたからね。その中でもほらっ」
アイテムポーチからひとつの魔道具を取り出しアリスに見せびらかす。
「袋……でしょうか?」
「そう袋だよ。でもただの袋なんかじゃない。これはアイテムポーチだ」
実は帰り際にシェリルさんの近代魔道具コレクションをいくつか借りてきたのだ。
案内されていた時に幾つかめぼしいものに目を付けておいたのだが、どうせ僕以外には直すことはできないからと、快く貸し出してくれることとなった。
このアイテムポーチはその中の一つで、なかなか腕の良い錬金術師が作ったようで二部屋分くらいの容量があることがわかった。
これを改造して借りている間だけは僕のアイテムポーチの一部とつないでしまおうと思っているのだが、それが楽しみでしょうがない。
僕じゃなくても自然と表情もほころんでくるというものであろう。
早く宿につかないかなぁ、ってあれ、このまま宿に送られたら目立ってしまわないか?
あ、そうかシェリルさんにとってはこのくらいは目立っている認識は無いのかもしれない。
「すみません。御者さんちょっと確認したいのですが――」
やはりというか当然というか、御者さんはこのまま馬車を宿に横付けするつもりだったらしい。
新人探索者御用達の宿に貴族仕様の馬車が横付けされた日には一気に話題になってしまうので、宿から離れた目立たない所で下ろしてもらうことにした。
シェリルさんのような身分の人は常識が違う可能性が高いので、これからも油断できないな……。
翌日、僕たちは昨日分の素材換金をするためにパーティ全員で探索者ギルドに集まっていた。
昨日はシェリルさんに拉致されてしまったし、シェリルさんの屋敷を出る頃には結構遅い時間になってしまったので、結局換金は今日に持ち越したのだ。
まあそれでも昨晩はかなり有意義な錬成時間を過ごすことができたので僕は非常に上機嫌である。亜神の力万歳だ。
「あら、何だか機嫌が良いわね。バーナード君、昨日のお食事会はどうだった? 私もジークも一応心配はしてたのよ」
「ああ、昨日は非常に有意義な時間を過ごすことが出来ましたよ。二人には逃げられたわけですが別に気にしていませんから」
「私も有意義でした。昨日のことでシェリルさんとは、よりお近づきになれたと思います。二人には逃げられましたが気にしていませんよ」
エリーシャのわざとらしい質問に対して、僕とアリスはジャブを織り交ぜながら回答をする。
二人共多少はバツが悪いと思ってはいるようで苦笑いをしている。
いきなり強引に馬車で連れて行かれたわけだから、逃げたくなる気持ちも解らなくもないか……。
「あ、アリスさんまで……、すまねぇエリーシャの口車に乗っちまった」
「あ、こら! 私だけのせいにしないでよ」
「だから気にしていませんから。ジークがちょっと男らしくないとは思いますが……」
「ジーク、男らしくないですよ」
アリスにも否定され力なく地面に突っ伏すジーク。
急に人のせいになんかするからだ。大人しく反省してなさい。
「まあ冗談はその辺にして、詳しい話は天獄塔の異界に入ってから説明しますね。この広場では耳が多すぎるので」
「ああ、そうね、バーナードくんの場合は聞かれたら不味い話も多いでしょうしね」
「とりあえず、さっさと昨日分の素材を換金して探索を再開しますか……」
無事に昨日分の換金が終わったので分配してから一度解散することにした。
僕は利用するつもりはないが、探索者ギルドにはお金を預けることができる仕組みがあるので、各自準備をしてから再び広場に集まることにしたのだ。
二人共、流石に天獄塔の異界に全部持っていくわけにはいかないらしい。
さて、今回はそろそろ本腰入れて第一層を探索したいところだ。
最低でも第一層の全容はつかめるようにしたいかな。可能であればガーディアンも討伐したいところだけど……。




