遅くなっちゃったね
衛星中継都市サテラが生まれ新たな役割を得ることで、王国の経済は次のステージを迎えることができた。
近代魔道具が失われてから百年。その力に頼ること無く強靭に発展してきたものが、復活した近代錬金術によって更に一歩進んだものとなったことで、さらなる発展を迎えてくれるのではないかという希望や期待が国内を駆け巡ったのだと、シェリルさんから教えてもらった。
そんな変動からおよそ一週間ほど経った日のこと。
少し遅れた朝食を食べながら、アリスと今日の予定について話をする。
「今日は探索もお休みだし、アンダーストリートの様子を見に行ってみない?」
「ああ、良いですね。私はまだ行ったことがないので楽しみです。この一週間でかなりの人達が利用しているみたいですね」
「本当はもっと早く行けると良かったんだけど、探索もあったしその準備をアリスにお願いしてたから遅くなっちゃったね」
「私なら大丈夫ですよ」
アンダーストリートは先日の転移陣再稼働と同じく、多くの人々がその便利さに喜んでくれていたりする。これまでは王都からアミルトへの道程にはそれなりの期間が必要だった。それが一気に解消したことで往来する人たちも一気に増大したのだ。
情報隠蔽の必要も無くなったので、人々の往来に比例して様々な物資のやり取りも加速し、中継地点であるサテラの再開発も急ピッチで進められる事となり、特需が発生していたりもする。
悪いほうに影響があった町もあるが、そのあたりは国が様々なサポートを予定しているらしい。
「今の時間だともう人が多くてびっくりすると思うよ」
「ふふ、もうすぐお昼ですしね」
「あー、ごめん。ついつい熱中しちゃってさ。食器の洗い物は僕がやっておくから、アリスは出かける準備をしててもいいよ」
今朝はついつい研究が盛り上がってしまったので、朝食がこんな時間になってしまった。朝食というか早めの昼食と言ってもおかしくない。
実はシェリルさんからの依頼で、サテラの再開発に向けて色々な施策を試みるために国家錬金術師達の意見を取り入れて魔道具の開発を行っていて、それがまた楽しいのなんのって――ついつい思考が脱線してしまう。
「食器はすぐに洗い終わりますから大丈夫ですよ。それにバーナード様のほうが準備に時間がかかりそうですし」
「え、僕ならすぐにでも出かけられるけど?」
「昨夜は研究に没頭していましたので、お風呂に入っていませんよ?」
「あー、すっかり忘れてた。ごめん、今から入ってくる。それじゃあ食器洗いはお願いしても良い?」
「はい、かしこまりました」
くすっと笑いながらアリスが食器を片付け始めるのを見て、いつもと少しだけ差を感じる。
――ああ、時間が遅いからか。
「そういえば、ブリジットはお店?」
「はい、朝から張り切って出かけていきましたよ」
「お休みなら一緒に行けたのにね。ブリジットももっと休みを取れば良いのに」
「天国塔の広場に行くのが毎日楽しみみたいですよ」
ブリジットに頼んでいる露店は、相変わらずブリジットの人気のおかげもあってかなりの数の固定客が足しげく通っているらしい。ブリジットが楽しみにしているのは間違いなく固定客たちからの差し入れだろう。
「まあ、本人が楽しんでいるならそれで良いか」
「ふふ、そうですね」
「あ、風呂に入らなきゃ」
結局、いつもと同じようにアリスに片付けをお願いして、食卓を後にする。そのままお風呂に行ってみると、すでに湯船にはお湯が張ってあった。いつのまに……。
アリスが準備をしてくれていたおかげで、すぐにお風呂に入ることができた。なるべく急いでお風呂からあがって戻ると、すでにアリスの準備も終わっていた。
「おまたせ、それじゃあ出かけようか」
「はい」
家の外に出ると少しだけ暗く感じた。見上げると空には雲がかかって太陽の光が遮られてしまっている。
「夕方頃には雨が降ってしまいそうですね」




