招かれざる客
いよいよ、本日7月10日に第二巻が発売します!
書籍版にはWEB連載版とは少し流れを変えた展開や、追加エピソードが収録されています。
是非是非読んでください。
簡単な説明を聞いたパトリシアは、料理への期待からかなんとも言えない喜びの表情を見せている。逆にメディナスの表情はすぐれない。
「辛いのはパトリシアが食べる分だけだから、メディナスは安心していいよ」
「た、助かったぁ」
あからさまにホッとした様子で、メディナスが料理を見つめる。僕も辛いのは得意な方ではないのでパトリシアに合わせてチャレンジするようなことはするつもりはない。
ちなみに、基本的に中り屋の料理はチューカ料理がメインになっている。その中でもシセンという料理はしびれるような辛さが特徴らしいが、あいにく僕は食べたことは一度もない。
セオドールは味覚がおかしいのかシセン料理を顔色一つ変えずにぺろりと食べていたが、挑戦した客には完食できない者も少なくはなかったことを思い出す。
そうこうしているうちに配膳が終わったので、三人一緒に食べ始めることになった。
一口頬張った直後、一瞬だけ顔をしかめたパトリシアを見て、メディナスが恐る恐る口を開く。
「……パトリシア、どう?」
「んー! 確かに辛いけど、このしびれる感じは癖になりそうです!」
メディナスの心配を他所に、パトリシアが自身の前にある赤々しい料理を絶賛する。そのまま感想を述べながら食べ続ける様は、まるで何かの解説者か何かのようだ。不死鳥のようななんちゃらとか口走っているので、何を言っているのかよくわからないが、気に入ってくれたのは間違いないようだ。
……これで多少はストレスも減ってくれれば良いのだが。
全員無事に全ての料理を平らげて、三者三様の喜びに浸っていた。
「最初は驚きましたけど、これは人気がでるのもよくわかりますよ。大満足です!」
「私も同じ意見です」
メディナスにもパトリシアにも十分に満足してもらえたようだ。これだけ良い反応をしてくれるなら、二人をここまで連れてきた甲斐があったというものだ。
改めて店の中を見回す。建物の都合上、元々あまり多くのお客が入ることは出来ないが、それでもなかなかの回転率で混み合う時間帯も順調に回っているように見える。さすがはヨランダさんだ。
本人曰く、アミルトでも忙しい店で務めていたようなので、これくらいはそれほど苦にもならないということだったが、その言葉の通りだ。
僕たちの席は今日に限り終日予約席として確保してくれていたので、食べた後もゆっくりさせてもらうことにしよう。
――そんなことを思っていた直後、店の入口のあたりが少しざわつき始めた。……なんだ?
疑問に思って見ていると、入口のドアが勢いよく乱暴に開かれた。幸い、ドアが壊れるようなことはなかったが、開いた勢いで円を描いて壁にぶつかった音に、店の中にいる全ての客の視線が一点に集る。
そんな視線を気にもかけずに、数人の男たちが店の中に入ってきた。……いかにも乱暴者という身なりの男たちと、その男たちに囲まれるように入ってくる恰幅のよい男性。……妙に鋭い目をしているが、何者だ?
「……まったく、汚い店だ。ここは豚小屋か何かかね?」
そして誰に問いかけるでもなく。開口一番、失礼極まりない言葉を発した。ああ、多分こいつがこの店の敵で招かれざる客、レヴァンガーということか。
そのレヴァンガーらしき男性は、イヴェットちゃんを一瞥してニヤリと笑う。それを見てイヴェットちゃんは怯えた様子を見せる。
イヴェットちゃんはレヴァンガーには直接会ったことがないはずだが、彼の取り巻きが見せる威圧感に耐えるのは厳しいようだ。
「二人共、少し待っててもらってもいいかな?」
「は、はい。私は構いません」
「私も」
このままではイヴェットちゃんに何かしらの危害を与えられかねない。一応、この店のオーナーという立場を維持しているのは、今日のようなことが起きたときのためだ。正直なところ僕がいる時間帯に訪ねてきてくれて助かった。
席を立ちレヴァンガーに歩み寄る。それにつられて取り巻きの男たちがこちらを睨みつけてくるが、その視線を無視するようにレヴァンガーだけを見続ける。
少ししてようやく僕の存在に気がついたのか、レヴァンガーがイヴェットちゃんから視線を外してこちらを向いた。
「お客様、当店に何かご用でしょうか?」
「……誰だ、お前は?」
「僕はこの店のオーナーですよ。それで、当店に何かご用命でしょうか?」
僕が発したオーナーという単語に疑問を持ったのか、レヴァンガーの顔からはわかりやすく不快感が見て取れる。
「料理を食べに来たに決まっているだろうが」
「てめえ馬鹿じゃねえのか?」
言葉を発しないレヴァンガーを代弁するかのように、取り巻きの男たちが威圧してくる。だがそれは悪手だ。
「豚小屋で? お客様方は変わった趣味をお持ちのようですね」
「て、てめえ!」
「お前たちは黙っていろ」
「れ、レヴァンガー様……」
殺気立った取り巻きたちだったが、レヴァンガーの一言でその勢いを失ってしまった。……影響力は大きい、か。
そして何事もなかったかのように軽く店内を見回した後、レヴァンガーが口を開いた。
「そこの空いている席に座らせてもらおう。料理は何でもいい」
「……お食事でしたら、一旦外の行列に並び直していただけますか?」
「なぜだ? 席は空いているぞ」
本気で疑問に思っているのだろう、レヴァンガーは不機嫌そうに問い返してきた。確かに空いているかも知れないが、その席はお前のために空いているわけではない。
「申し訳ありませんが、長い時間並んで待っているお客様がいらっしゃいますので、お待ちのお客様を優先させていただいています」
「待っている客? ……お前か?」
そう言って入り口を振り返る。そこには行列の先頭に並ぶ一人の男性が立っていた。レヴァンガーと目があったであろう男性は恐れを抱いたのか、すごい勢いで首を横に振る。
「だそうだ。座っていいか?」
「……はあ、仕方がないですね。それではどうぞ、そちらの席に座ってください」
お客さんには是非とも抵抗してほしかったところだが、さすがに無理があったようだ。この町では結構な影響力があるようだし、それこそ逆らったら命に関わるだろう。まあ、仕方がないかな。
レヴァンガーを席に案内した後、この一件で客足が遠のいてしまわないように、店先で待っていたお客様全員に一食分の料理代を手渡して謝罪を行うことにする。
……さて、と。
再びレヴァンガーの席へと戻ると、苛立ちを隠さない取り巻きとは対象的に、レヴァンガーは目をつぶってじっと待っていた。
「お客様、料理はどうされますか?」
「何でもいいと言った」
「……かしこまりました」
何でもいいのであれば、僕を待たずに注文しておいてくれ。そう言いたいところをぐっとこらえ、奥の厨房へ向かう。
そこではヨランダさんが不安そうな顔をして店内の様子を窺っていた。
「ヨランダさん、オーダー入りました」
「オーナー、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、多分。それよりも注文ですが――」
せっかく何でもいいと言われたので、僕の独断と偏見でオーダーを入れさせてもらう事にした。
注文を伝えてから店内へと戻ると、先程までの賑やかな雰囲気はどこへやら。重々しい空気が場を支配していた。……迷惑なことだ。
仕方がないので、固まったように立っているイヴェットちゃんに耳打ちする。
「お客様に迷惑かけちゃってるから、帰りにサービスしておいてくれないかな。あと、あのお客さんは僕が対応するから、イヴェットちゃんは近づかないようにね」
「は、はい!」
「ごめんね」
ようやく常連さんたちのことを思い出したのか、イヴェットちゃんも少しだけ元気になってくれたようだ。




