皆を呼んできますね
フィリップ副司祭に対して簡単に説明する。彼は疑問に思った部分は手元の紙に書き出しながら、時折頷きながら小さく感嘆の声を漏らす。
説明しながら、これは後で質問攻めかなあなどと思いつつも、こうやって前のめりに聞いてくれることに嬉しくなってしまった。
「こんな感じで、貴方が提案したアイディアも、しっかりと反映させてもらってますよ」
「うむ、そのような形にまとまるとは思っていなかった。他の者達も面白いことを考えつくものだ」
採用されたアイディアの中でも、フィリップ副司祭が提案したものは比較的大きな割合を占める。実に彼らしい内容だったので、僕も採点の際に解答用紙を見て、採用を前向きに考えさせてもらった。
他の生徒たちも残念ながら採用には至らなかったものもあるが、それぞれ面白い視点を持っていたので、採点作業は実に有意義だったと思う。
「多分、転移陣の修復完了に合わせて、こちらも除幕式を行えると思います」
「何、そんなに早いのか!?」
「それだけ皆の解答がよく出来ていたってことですよ」
「これはますます楽しみになってきたな」
上機嫌なフィリップ副司祭を見て小さく笑みが漏れる。
「――あれ、なにか賑やかだと誰かと思ったら、先生来てたんですか? 部屋の外まで聞こえていましたよ」
「ん? ああ、メディナスも調子良さそうだね。こんにちは」
後ろから掛けられた声に振り向くと、部屋の外からメディナスがこちらを見ていた。……そういえば扉を閉め忘れていたな。
「男性の部屋を覗くのは――って、男同士だし関係ないか」
「むー、私は心は女性のつもりですけど」
そう言って、メディナスが頬を膨らませて怒る仕草を見せる。
「これは失言だったね。ごめん」
「まあいいですけど」
そんな仕草が若干あざとく目に映る。多分本人はあまり意識しているわけではないのだろうとは思うが、これにころっとやられる男性も多いことだろう。
……そういえば服装が今までとはちょっと変わっているな。これまではきつめのピンク基調でフリフリだったのだが、今はもう少しだけ研究者っぽく見えなくもない服装に変わっていた。
「その白衣は自分で用意したの? ワンポイントが入ってて可愛いね」
「お、そこに気が付きましたか。実は行きつけの服屋でデザインしてもらったんですよ」
メディナスが嬉しそうにくるっとターンすると、ひらひらの付いた白衣がふわりと浮く。……行きつけの店って、メディナス御用達のフリフリ服の店か。いや、普通の白衣にはワンポイント入ってないからね。
もともとが色白な上に、髪の毛の色もほとんど白髪と読んでいいほどの薄い青なこともあり、ワンポイントのデザインがより目立って見える。
よくよく見ると白衣も薄っすらとピンクがかっているようだ。今までの服装は鮮やかなピンクだったので、これだけでも相当に落ち着いて見えてしまうので不思議だ。
フィリップ副司祭はメディナスの服装にも慣れているようで、特に動揺することなく視線を向けていた。
「そんなところに立ってないで、中に入ってきたらどうだ?」
「そうですか? それじゃあ遠慮なく」
「いつも大して遠慮などしていないだろう」
僕も立ったままなんですけどね。
ついでなので、メディナスが入ってきたどさくさに紛れて近くのソファーに腰掛けると、二人共慣れた様子で僕の対面に腰掛けた。学園の講師として接していたので、どうしても対面を位置取ってしまうようだ。
「それで、先生は何の要件でこちらへ?」
「フィリップ副司祭にお願いした、転移陣の復旧プランの進捗確認だよ」
「そのついでに、バーナード殿が担当するプロジェクトに関して聞かせてもらったぞ」
「あー、自分だけずるいですよ!」
フィリップ副司祭が余計な一言を入れたせいで、メディナスが声のボリュームを上げる。
「まあまあ、落ち着いて。別に限定した話じゃないんだから、メディナスにも説明してあげるから」
「本当ですか!? あ、それじゃあ、他の皆も呼んできたほうが良くないですか?」
「な、ちょ、ちょっと待て。この研究室はお前たちのたまり場ではないぞ」
話の流れで、いい事を思いついたとばかりに、メディナスが嬉しそうに提案する。それを聞いたフィリップ副司祭が若干抵抗するが、メディナスはフィリップ副司祭とのこういったやり取りに慣れているようで、結局は押し切られる形となった。
「――それじゃあ、皆を呼んできますね!」
「そんなに急がなくても、逃げないから大丈夫だよ」
僕の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、メディナスからの返事はなかった。丁寧に扉を閉めたので、多分わざと聞かないふりをしたのだろう。
それから数分待った辺りで、メディナスがフィリップ副司祭の研究室へと戻ってきた。
残念ながら、一人しか捕まえることが出来なかったらしい。メディナスの後ろにはメガネを掛けた中肉中背の女性がついてきていた。
髪の毛はメディナスと同じく青系統なのだが、薄くて白髪に近いメディナスとは異なり、緑がかった青色で後ろは低めにお団子のように巻かれている。全部を巻かずに少し後れ毛を散らしているのが、余裕のある大人っぽい印象を与える。
年齢は二十代半ばくらいで、服装は少し緩めの髪型とは対象的にきちんとしたもので、色合いもシックにまとまっている。
実はちょっとズボラなところもあるのだが、普段はそれをあまり感じさせない。
これは生徒たちから伝え聞いた話なのだが、身なりもきちんとしていて、そのうえ才女なこともあり、生徒たちの中にも結構ファンが多いらしい。
「こんにちは、先生」
「こんにちは、パトリシアも元気そうだね」
「ふふ、まだ最後にお会いしてから、少ししか経っていませんよ」
「そうだったね。ここ数日は研究にのめり込んでいたせいか、時間の感覚がおかしくなっているのかも」
興味深いテーマが目白押しだったこともあり、天獄塔の異界探索以外は研究三昧だったのだ。ちょっと度が過ぎてしまっていたのか、アリスにも体調を心配されてしまったくらいだったりする。
「それじゃあ、せっかくだから講義の形をとろうか。そこのボードを使わせてもらうよ」
「うむ、わかった。では、皆配置換えを手伝ってくれ」
フィリップ副司祭が指示を出し、メディナスとパトリシアはソファーをボードが見やすい位置に移動させる。その間に僕は、ボードに書くペンのインクを確認しておくことにする。
そして皆が準備を終えたので、ボードの前に立ちペンを右手に持つ。
「それでは特別講義を始めます」
「「「よろしくおねがいします」」」
三人が声を合わせて一礼する。その表情は嬉しさと申し訳無さが混ざっているようにも見えた。
ああ、そうか。
「今日居なかった二人には、後で録画データを渡して見てもらうつもりだから、ひとまず二人のことは意識しすぎないようにね」
その言葉を聞いて三人が安堵した様子で顔を見合わせた。
これで集中してくれるかな?
「では、まずはじめに――」
それから少しの間は僕が一人で話続け、一段落ついたところで順次質問時間を設ける。案の定、三人から質問攻めに合うわけだが、フィリップ副司祭だけは先程質問に対応したこともあり、一歩引いてメディナスとパトリシアに譲る様子を見せた。
それから小一時間くらい経った辺りで、今回の特別講義が終了した。
「「「ありがとうございました」」」
「どういたしまして」
皆がそれぞれ興味のある部分を解決出来たようで、一様に満足げな様子を見せる。
僕としても三人に説明する中で、より深い知識を得られてのではないかと思う。




