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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市のスタンピード編

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お祭り騒ぎ

 魔道具の設置に関しては、意外なほど簡単に片がついた。これには少々驚いたが、シェリルさんが見せたこれまでの反応からすれば、確かにおかしな話では無い。


 ただ、予定が変わってしまった事もある。今回錬成する魔道具は若干大きめになると思うので、シャーロットの手助けを期待していたのだが、それは叶わなかった。シェリルさんに聞いたところ、シャーロットは今回のスタンピードで、多数集まるであろう重点素材の錬成という重要な役割を担っているとの事だった。


 まあ、よくよく考えてみれば、素材を集めるということは、その素材を使って錬成した魔道具やポーション類が必要とされている訳で、スタンピード期間は超絶多忙なシフトが予定されているらしい。……あとで色々と差し入れしてあげようかな。僕も手伝えって?




 さて、そんな訳で既にスタンピード期間に入っているので、これから多くの探索者がこぞって異界探索を行うことだろう。それは良いが、実際にどうやって魔物を大量発生させるつもりなのだろうか? 異界の特性を利用するというのは分かった。しかし、探索者達はもともと探索の為に天獄塔の異界に挑んでいる訳で、この人数が突然増えるというわけではないだろう。それでは、増える魔物の数などたかが知れている。


 では、いったいどんな人達が増えるというのだろうか? その答えはこれまた意外なほど簡単に判明することとなった。


「は? 天獄塔の異界探索体験ツアー?」


「はい、市場でお店のおばさまがそう教えてくれました。確かに街中の色々な所に募集の張り紙がされていました。皆さん普段は縁遠い異界を体験できるとあって、とても人気のツアーなのだそうですよ」


 アリスが市場へ買い出しから帰ると、そう教えてくれた。市場の方もお祭り騒ぎのお陰で皆、財布の紐が緩んでいるようで、普段よりも多くの人が買い物に来ていたし、商品も飛ぶように売れているらしかった。重点買い取り素材に関係のないところでも、大きな経済効果が期待できるようだ。


「でも、一般市民の異界探索体験ツアーってなると、必然的に場所は第一層ってことになるよね?」


「そうなりますね」


「魔物はどうするんだろうか、普通に危ないよね?」


 平常時でさえ、探索者となるにはトライアルを突破する必要があるのだ。そこに一般市民を大量投入すれば、魔物の数も大幅に増える。当たり前だが一般市民にとっては、とてつもなく危険な空間となるはずだ。


「そこは護衛兼引率として、探索者ギルドから多くの魔術師が動員されるようです」


「はは、本当にお祭り扱いなんだね。まあ、セオドールに教えてもらったようなスタンピードが発生して、大惨事になることを思えば、大歓迎って感じはするね」


「そうですね、今日は特に皆さん機嫌が良くて、色々サービスしてくれましたよ。今から夕ごはんの準備をしますね」


 そう言って、アリスはアイテムポーチから今日の戦利品を取り出す。その笑顔から察するにとても良い食材が手に入ったということなのだろう。今日はいつもにも増して美味しいごはんが食べられそうだ。ブリジットが喜ぶ姿が目に浮かぶようだ。




 アリスがキッチンに向かったので、僕は僕でやらなければならない事を行うことにする。


「セントラル、ジーク達の家に繋いで」


『かしこまりました。接続を行います――呼び出し中です。しばらくお待ちください』


 呼び出しのコール音が耳に届く。……ジーク達の予定を確認していなかったが、そろそろ夕飯時なので誰かは出るだろう。


「はぁい、もしもし、バーナード様ですか?」


「ああ、エステルか。ジークかエリーシャは居るかな?」


「いますよぉ。呼んできますから、ちょっと待っててくださいね」


「うん、おねがい」


 一旦、エステルの声が遠のき、その後でドタドタと駆け寄る音が聞こえてくる。とてもわかりやすい。


「バーナード兄! 俺たちもスタンピードでガッツリ稼いぐからな!」


「って、ランディスか!? えっと、ジークを呼んでもらったはずだけど……」


「コラァ! 勝手に出るんじゃねえ!」


「えー、ちょっとくらい良いじゃんよ! 俺だって一回使ってみたかったんだよ」


 予想外の展開に驚いてしまったが、直後に通信機から聞こえてきた怒鳴り声は、間違いなくジークのものだ。何とも言えないやり取りが、通信機の向こう側で繰り広げられ、僕はしばらく蚊帳の外に置かれてしまった。


 とても臨場感のある、二人のやり取りが一旦落ち着き、部屋からランディスが出ていったことで落ち着きを取り戻した。その後、ゴホンと大きな咳払いが聞こえた。


「もしもし、すまねえ待たせちまったな」


「ああ、まあ良いよ。ランディスも悪気があったわけじゃないだろうから」


 このタイミングでも、もしもしを忘れないところは少々面白い。


「まったく。誰に似たんだか」


 ……もちろん貴方だと思いますよ。


「まあ、それよりも直近の探索に関してなんだけど」


「おう、スタンピードだな! もう近所はお祭り騒ぎだぜ」


「そっちもか、大通りの市場とかもすごい事になってるみたいだ」


 やはり、もう街中が同じような状態になっているようだ。探索者ギルドもスタンピードで相当な人員を計上しているようだが、あまりそちらにばかりリソースを割いていて大丈夫なのかなあ。


 まあ、国王陛下の宣言で始まったスタンピードに、水を指すような輩はそうそう居るものでもないか。ただ、多少は警戒しておいたほうが良いかもしれないかな。


「まあ、そりゃあそうだろうな。んで、俺達はここで一儲けするってことだな! まさか、こんなに早くスタンピードに参加できるとは思ってもみなかったぜ!」


「あ、やっぱりジークは知ってたんだ」


「あったりめーだろ。異界都市のスタンピードと言えば超有名だろ! エリーシャも相当楽しみにしてたぜ」


 通信機越しにだが、ジークが喜ぶ様子が手に取るようにわかる。異界都市のスタンピードが本当に一般的なお話なんだと実感する。


「まあ、僕達も浮かれすぎないようにしないとね。お祭りだからといって異界が安全になることは無いし」


「もちろんだぜ! むしろ魔物の量は普段よりも相当増えるはずだからな。その分探索者も増えるだろうが、俺たちは上層だからな」


 いや、まだ半分も到達していない事を忘れないようにな。まあ良いけど。




 それから雑談を交えつつ、今後の探索方針を話し合った。途中、何度か子どもたちの割り込みがあったが、それは予定調和のようなものだろうか。


「――それじゃあ、後でエリーシャにも伝えておいてね」


「おうよ! それじゃあ、明日だな!」


「了解、さあ頑張って稼ぎますか」


 ジークとの通信を終えた後、同じようにマリナさんへ連絡を行う事にした。しかし通信には出てくれたのだが、マリナさんの口調からは相当な忙しさが伝わってきた。そういえば、マリナさんは探索に出ていない時は教会の仕事を手伝っているんだったか。


 あまり邪魔になってもいけないので、なるべく簡潔に探索の予定を告げるのみとした。まあ、現状はクローツ教自体が、僕達との探索を奨励している形となっているので、本来であればこういった通信も優先的な扱いとなるらしい。


 それにもかかわらず自分に厳しいのは、実にマリナさんらしいと言えるだろう。伊達にぼっちで探索はしてない。




 一通りの連絡も終わったので、とりあえず探索の準備はだいたい終わった。あとは残りの時間を何に利用するか、かな。


「んー、食事が終わったら研究でもするか」


 結局、いつもと変わらないなあ。


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