ちょっと見てくるよ
森がガーディアンを隠しているのか? それとも、ガーディアンの領域が進入時まで隔絶しているからなのかはわからない。
少なくとも、モノクル越しに見えている領域内には魔物の存在は表示されていない。とはいえ、ここがガーディアンの領域である以上、何もいないということはさすがにありえないので、まだ見えていないというだけだろう。
これまでの経験から言えば、ガーディアンは僕達が侵入するまでは動くことは無かった。魅惑の邪眼のような例外はあるが、それでも動かないという点においては変わらない。
少しだけ距離を取って、ガーディアンの領域を眺めながら思案する。
「このまま無策で飛び込むのはリスクが高過ぎないかしら」
「だが、このまま立ち往生してても、どうにもならねえぜ?」
エリーシャが慎重な意見を口にするが、それを聞いたジークが若干苛立ち表情を見せながら否定する。ジーク自身も危険であるということは十分理解はしているのだろう。だからと言って、何か有効な手段が思いつくわけでもない自身に苛立っているのだろう。
リスクを認識した上で、それを背負いつつ進まなければならない事もよくある話ではある。しかし、このまま無策というのもダメな気がする。何か良い方法は無いものだろうか?
現時点で最も大きな問題と言えばやはり、ガーディアンを視認できていないということだろう。この第二十六層を踏破するためには、この領域内に居るガーディアンを倒さなければならない。しかし、ガーディアンに関する情報はまだ殆どまったく得られていない。
そして次に大きな問題は、ガーディアンの領域が草木に覆われてしまっているということだ。侵入経路はいくつか見受けられるが、これまでの自由度からすれば非常に制限が大きい。領域の中にはいくつか開けた場所があるようだが、それでも全方位を森に囲まれているというのは脅威である。もしガーディアンの情報を得られることができたとしても。この領域内で戦う事は非常に困難であることが予想される。
ひとまずは、この二つさえなんとかすることができれば、これまでのガーディアン戦とそれほど変わらないレベルまでリスクを下げることが可能であるといえるだろう。
……仕方がない、か。
「バーナード様?」
先程見て回った時よりも更に領域へと歩み寄り、境界ぎりぎりまで近づくと、その行動に疑問を抱いたのか後ろからアリスが声を掛けてきた。そんなアリスへ振り向いて目を見る。
「ちょっと見てくるよ」
「バーナード様、お待ち下さい!」
「そ、そんなことしたら危ないじゃない!」
アリスへと返事をすると、マリナさんも慌てて止めに入ってきてしまった。
「大丈夫ですよ、かくれんぼ君・改もありますから。領域内に入った時点でガーディアンは動き出します。しかし、こちらがかくれんぼ君・改を使う以上は姿が見えないのは向こうも同じですよ」
「そ、それでしたら私が」
「互いに見えないとは思うけど、もし不測の事態に陥った時には、僕のほうが対応に慣れているでしょ? 大丈夫、アリスが心配してくれるのは嬉しいけど、このまま待っていても何も進まないからね」
それから少しの間話し合ったが、ひとまず二人共渋々納得はしてくれたようだ。さて、と。
一つ深呼吸をしてから、首にスカーフを巻き付ける。これで、ガーディアンからこちらの事を見つけることはできなくなったはずだ。後ろから誰となく息を呑む音がする。
「大丈夫」
そう一言だけ声を掛けてから、ガーディアンの領域へと一歩踏み出す。すると、領域の中でガーディアンのものと思しき叫び声が上がる。……動き出したか。
モノクルに表示された地形情報を確認する。今、聞こえてきた声から逆算すると、ガーディアンは当初の予定通り、領域の中央付近の広場に陣取っているということがわかった。しかし、未だ地図上にはガーディアンの情報は確認できない。領域が隔絶されていただけというわけではなかったようだ。
ということはつまり、この領域を覆う森がガーディアンの存在を隠蔽しているということである。……そうそう簡単には先へと進ませてはくれないようだ。そう思った瞬間、モノクルに別の反応が生まれた。どういうことだろうか?
反応が現れた場所は、僕から見て右手に位置する。僕が侵入し進んでいる方向とは異なっているので、古代エルフもどきかその亜種だとすれば、これまで通り森の中を移動しているのだろう。反応が示す動きからすると、幸いなことにこちらの気配がバレているわけでは無さそうだ。
この反応がガーディアンなのか? それとも異なるのか? これまでの傾向から言えばガーディアンは一体のみだった。しかし、はじめから領域内にガーディアンが存在していたのであれば、離れた場所に突然反応が生まれるのはおかしい。となると、広場にいるのがガーディアンで、生まれた反応は配下といったところか?
どちらにせよ、このまま戻っても情報としては足りていない。ひとまずはこのまま先を進むしか無いだろう。反応に近づくのはその後でも十分だ。
そのまま道なりに進むが、新しい情報は得られていない。もう少し進めば開けた場所に出るが、せめてその場所だけではなく、道なりに抜けて領域の反対側まで通り抜けたいところだ。
……この先を曲がれば開けた場所に出る。そう思い若干緊張をしつつ足を止める。改めてモノクル上の反応を確認すると、僕が通ってきた通路の中間地点の辺りを徘徊しているようだ。一度戻って確認してくるのもありだろうか? いや、ひとまずは目前の広場にいるであろうガーディアンを確認することが先かな。
――よし。
声に出さないよう心のなかで一つ頷き、慎重に歩を進めて少しだけ顔を出して広場の様子を窺う。その僕の視界にまず入ってきたのは――黒い矢だった。
「え!?」
タイミングを図ったかのように目前に迫る黒い矢。倒れ込むように体を横に倒すと、仰向けになった僕の目の前を黒い矢が通り過ぎた。……ぎりぎり避けることができたが、今のは危なかった。倒れ込んだ勢いで前に出てしまった。突然の出来事で止まりそうになる体を無理やり捻り、立ち上がり広場へと視線を向ける。改めてそこに見えたものは――
《古代エルフ・族長+1》
今もなおモノクル上に反応は存在しないが、僕の目の前には確かに存在する魔物。そして表記に現れているプラス表記。つまり、こいつが第二十六層のガーディアンだ。
古代エルフ・族長は再び手にした弓に矢をつがえると、気配を隠しているはずの僕へと狙いを定めた。……やつには見えている、か。
射掛けられた矢を避けながら、状況の確認をおこなう。事前に確認できていた地形のとおり、広場は僕達が戦うために十分な広さがあることが確認できた。敵が敵だけに木々の枝や根が邪魔をしてくる可能性は否めないが、はじめから草木で埋め尽くされているよりはマシだろう。
古代エルフ・族長が弓を肩に掛け、腰に帯びていた短剣を抜く。くるか? このまま一人で戦うわけにはいかないので、ひとまずは撤退することにする。ガーディアンの視界から逃れる為に曲がり角を戻り、全力で駆ける。そしてモノクルに表示されていた反応の現在地を確認すると、通路をこちらに向かって進んでいる最中だった。
……挟撃か。ということはガーディアンの領域に入った時点でこちらの動きはバレていたと考えるべきか。このまま通路を戻れば間違いなく鉢合わせてしまうだろう。反応がガーディアンのように僕の気配がわかっているのか、それとも?
とはいえ、ここまでの道筋は一本道だった。僕に与えられた選択肢は来た道を戻ることだけだ。
互いに移動していることもあり、モノクル上の反応はすぐ先にせまっていた。そしてその反応が示す通り、僕の視界にもう一体の魔物が現れた。




