古代エルフもどき
ジークの一撃で押し返された古代エルフもどきは、その力を殺してふわりと着地する。そして、そのまま斜め後ろへと跳ねると一旦距離をとった。しかし、先程見せた古代エルフもどきの動きからすれば、この程度の距離はほとんど無いようなものだろう。
大振りの一撃だったとは言え、その衝撃を受け流すには相応の技術が必要となるはずだが、見たところダメージらしきものは確認できない。足元もおぼつくことなく、古代エルフもどきは手に持った小ぶりの片刃剣を器用に振り回し、こちらの動きを窺っている。
剣さばきの技量のほどは未確認ではあるが、五対一というこちらとの戦力差からすれば、油断しなければそれほど苦労する相手でも無さそうだ。理由はわからないが、相手が単独行動をしてくれていたのはありがたい。いや――。
「そういうわけにもいかないか」
「……どういうこった?」
ジークが疑問の声を上げる。敵から一番近くに居るジークは、古代エルフもどきから視線を切らすことなく注意深く構えている。
「前方からニ体の気配が近づいてきます」
「一応は囲まれたわけでは無さそうね」
そんなジークへ情報を共有するようにアリスとエリーシャが声をあげた。ジークは一つ頷くと近づいてくる気配に合わせて場所取りを変える。
「――危ない、気をつけて!」
マリナさんはエリーシャに向けて警戒の声を上げると、側面をかばうように位置取る。そして手元の空間に手を入れ光盾に換装した。その直後、光盾に数回にわたり何かがぶつかる音がする。
足元には光盾に激突し砕けた木の実らしきものが散らばっていた。……木の精霊魔術か。
モノクルに映し出される魔力の残留から側面の射線を確認すると、こちらに近づいてきたものとは異なる一体の古代エルフもどきへとつながる。気配を殺していたのだろうか? いや、そんな技術を持ってはいなかったはずなので、森が一部の気配を消していた?
「どちらにせよ、木の精霊が奴らの味方をするとなると、この森全体が敵となる可能性があるということか、これは骨が折れそうだ」
「もどかしいわね」
僕の言葉にエリーシャが悔しそうに反応する。エリーシャからすれば森の加護で他の種族に負けているというのは、僕達の感覚とは異なるということなのだろう。
実際に古代エルフもどきはこの森に生息している。つまり、この森で生きていけるだけの加護を受けているということになる。その上、精霊魔術の威力から推測するに木の精霊との相性も抜群に良さそうだ。その考えを肯定するかのように、古代エルフもどきが近づくと木々が僅かにうねるのが確認できた。
……見たところ個々の影響範囲は小さいようなので、木々から離れれば問題は無さそうだ。とはいえ、周囲を草木に囲まれている以上、簡単に引き離す事はできそうにない。
戦闘圏内に入った古代エルフもどきは、初めに遭遇した個体を合わせて総数4体。数だけで言えばこちらのほうが多いが、古代エルフもどきが周囲の木々も駆使する事を考えれば、数の差はひっくり返される。それに、こいつらとの戦いが長引いてしまえば、さらなる増援が湧く可能性も否定できない。
「早めにケリを付けたほうが良さそうだぜ」
ジークが皆を急かすようにつぶやいた。……それ僕が今言おうとしたのに。
少しの間互いに様子を窺っていたが、先にしびれを切らしたのは古代エルフもどきの側だった。三体が前に飛び出し、一体が後ろで何やら不思議なジェスチャーをしている。後ろにいるのは先程精霊魔術を放った個体か。……精霊と話しているのだろうか? そう思いエリーシャへと視線を向けると、僕の視線に気がついたエリーシャは小さく頷いた。
迎え撃つこちらは、僕とアリスそれにジークが飛び出してきた前衛と接敵する事になった。マリナさんは光銃で牽制、エリーシャは精霊魔術で皆を支援しながら弓矢で隙を狙う。この動きが号令なしに出来ると言うのはとても安心感がある。
先程と同じく、素早い動きで近づいてきた古代エルフもどきが、片刃剣を振りかぶってアリスへと斬りかかる。アリスがその剣筋を待ち構えていたように、左手のマン・ゴーシュで捌きながらもう一方の手にもつレイピアで突きを放った。しかし古代エルフもどきは驚きの表情を見せながらも、体を捻り紙一重でかわす。そして古代エルフもどきが倒れ込むように地面に手をついた瞬間、魔力の高まりを感じた。
「くっ!?」
「アリス!?」
アリスの足元から木の根っこが棘のように心臓へと伸びた。一瞬声をあげたアリスだったが、後ろではなく半身前に出ながら紙一重で避けると、その勢いのままに回転するように横から一閃、青白い輝きをまとったレイピアが見事に古代エルフもどきの右足を切り裂いた。
今の棘は僕も驚いた。しかし一瞬の攻防だったが、アリスのほうが一枚上手だったようだ。既に機動力が削がれた以上、油断さえしなければ負けることはないだろう。
そしてワンテンポ遅れて、残りの二体が僕とジーク、それぞれに飛びかかってくる。
先程のアリスほどではないが、僕も何とかなりそうなのでアリスはジークのサポートに回ってもらうことにした。
数回の攻防の中で、首を傾げるような仕草を見せながらも猛攻を続ける古代エルフもどきだったが、それほど長くもない片刃剣では僕の薙刀の間合いに入ることができずにいた。少々歯ごたえがないが、わざわざ時間を掛けるようなものでもない。
決着を着けるべく一歩踏み出す。一気に間合いを詰め一撃を見舞おうと振りかぶった時、なぜか目の前の古代エルフもどきは避けようとせず、苦悶の表情を見せた。そしてその肩越しに奥でニヤリと嫌な笑みを浮かべる別の個体の姿が目に入る。――次の瞬間、眼の前で笑みを浮かべる古代エルフもどきの背後から気配が生まれる。
生まれた気配は魔力を伴い、古代エルフもどきの体を貫き僕の心臓を目掛けて伸びると、なぜか直前で停止した。体を貫かれた古代エルフもどきはわずかに身動ぎした後に絶命する。仲間ごと狙ってくるとは恐れ入った。
奥でニヤリと笑みを浮かべた古代エルフもどきだったが、その奇襲が不発に終わったことで表情は驚きに変わった。本来ならば先の尖った枝が伸び、僕の体を貫き通す予定だったのだろう。……しかしそれは果たされなかった。
「……もしかして僕には攻撃できない?」
先程から戦っていて違和感があったのだが、その理由にようやく気が付いた。木々の攻撃がどういうわけか僕には向くことがない、ということだ。
「神気、か?」
そう考えれば入口での出来事が記憶に新しい。石祠から放たれた光を避けるように道が開かれた。
エレメンタルのような具現化した存在とは異なり、精霊魔術によって影響が及ぶ程度の存在は、亜神である僕へ強い干渉を行うことができないのではないだろうか?
アリスとジークを横目で確認すると、ちょうどジークのバスタードソードが古代エルフもどきの体を右肩から真っ二つに切り伏せたところだった。……となると、残りは奥の一体のみ、か。
奥の個体は、枝から枝へと軽快に飛び移りながらエリーシャとマリナさんの攻撃を避けながら、こちらへと攻撃を続けていた。
「ダメね、すばしっこくて矢がほとんど当たらないわ」
「あーイライラする!」
二人の苛つきがこちらにもしっかりと伝わってくる。特にマリナさんは分かり易いが、エリーシャの方も相当なレベルかもしれない。言葉はマリナさんほど汚くはないが、声のトーンは怖い。
このままだと余計な時間を食ってしまいそうだ。そう思った瞬間、先程の出来事が脳裏をよぎる。……あれを利用すれば面白いかもしれない、と。
古代エルフの視線がエリーシャ達に向いていることを確認してから、木の陰に隠れながらアイテムポーチに手を入れて、とある魔道具を探すことにした。




