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出来すぎたタイミング

ついに二百話になりました!

これからもよろしくお願いします。m(_ _)m

 なるべく急いで屋根を駆けたお陰で、ジーク達の孤児院に着くまでにそれほど時間はかからなかった。特に予期せぬ衝突事故も発生しなかったのは日頃の行いが良いからだろう。


 ひとまず路地の影に降り立ち、かくれんぼ君を脱ぐ事にする。孤児院内で脱げば良いのかもしれないが、姿隠したまま孤児院に入るのはさすがに気が引けてしまうので仕方がない。


 孤児院の玄関をノックするとそれほど待たずに扉が開かれた。中から姿を表したのはエリーシャだったが、少々元気が無さそうにも見える。まあ、ランディスの一件が関係しているのは間違いないだろう。


「ジークから簡単な話は聞いたよ。……ランディスは?」


「探索者トライアル登録を報告したきり、鍵をかけて部屋に閉じこもってしまってるわ。さっきからずっとジークが話しかけているのだけど、全然反応なし」


 エリーシャはそう言うと、元気のないため息をつく。……思っていたよりも落ち込んでいるように見えてしまう。


「とりあえず話を聞きに行ってみるよ」


「そうね、最近は鍛錬に付き合ってもらっていたし、もしかしたらバーナード君なら何か聞き出せるかもしれないし」


「はは、あまり期待しすぎないでね」


 親しいという意味ではジークやエリーシャのほうが遥かに親しい。その二人に話していないということは鍛錬に付き合っている程度の僕では少々荷が重い。とはいえ、先日の約束のこともある。ひとまずは問いかけるだけ問いかけてみよう。


 階段を上り二階に上がる。廊下に出ると突き当たりの部屋の前にジークの姿が見えた。


 部屋のドアをドンドンと何度も叩いて呼びかけてはいるが反応があるようには見受けられない。





「ランディス、僕だ。理由を聞かせてもらえないか?」


「……バーナード兄、悪いけど帰ってくれ」


「そういうわけにはいかない。真面目な君が約束を破るくらいだ。何かやむを得ない事情があるんだろ?」


「俺は――いや、何でもない。俺が悪いんだ。ゴメン」


 一瞬何かを言いかけたあと、ランディスはそれをすぐに否定して謝り始めた。謝るくらいなら説明して欲しい物だが、……話しかけたということは聞き方次第ではもしかしたら何か聞けるのかもしれない。


「仕方がないな、ちょっと部屋の中に入るよ」


「ダメだ中から鍵が掛かってんだよ。ランディス! 出てきやがれ!」


 その勢いでドアを叩き続けていたらその鍵も一緒に壊れてしまいそうだが。まだ建ててから間もない施設だ。出来ることなら壊さずに何とかしてやりたいところだ。


 対策を講じるために、小声でセントラルへ指示を出す。少し驚いてもらって畳み掛けてみよう。


 セントラルからの準備完了を受け、プランを実行に移すことにする。ドアの前に立つジークを手で制して少し離れさせる。そして――


「ちょっと入るよ」


「いや、だから! って、あれ?」


 ジークが目の前で起きた出来事に驚き妙な声をあげる。急に発せられた変な声のおかげだろう。部屋の扉に背を向けていたランディスが咄嗟に振り向いた。


「え、うおっ! なんでバーナード兄が部屋の中に居るんだよ!」


「いや、だから入るって言ったじゃないか」


「いやいやいや、言ったじゃないか、じゃなくて鍵かかってただろ!」


「掛かってるみたいだね」


 そう言って扉に掛けられた鍵を指差す。確かに鍵は掛かっているようだ。だからどうしたというのだろうか?


「別に、部屋の外から中に転移しただけだよ」


「……ど、どこからツッコんでいいかわかんねーよ」


 ジークとランディスは驚いてくれたようだ。だが、ポータルやテレポートの魔術であればともかく、短距離の転移であれば一人前の魔術師であればそれほど難しいものではなかったりする。その為、重要な施設では短距離転移への対策はきちんと成されているほどだ。昔であればそれ用の近代魔道具が存在していたが、現在であれば魔術師が定期的に魔術を行使することになるのだろう。


 当然のことながらこの建物はその手の対策はされていない。というより対策の必要性自体がない。もともと魔術師は高給を得ているので孤児院に盗みに入る必要などもともとない。


 それに扉の向こう側への転移と言うのも割りとリスキーだったりする。見えない場所へ短距離転移する場合、転移した先に物が置いてあった場合は大変なことになる。セオドールの言葉を借りるなら「いしのなかにいる」というところか。


 もちろん僕はセントラル経由で何もないことを確認しているから何の心配もない。


 閑話休題、部屋の真ん中辺りまで歩き、そこからランディスを手招きする。ランディスはそれを訝しがりながらも促されるまま歩み寄ってくる。


「パリス」


「えっ!?」


 部屋の外に聞こえないよう、努めて小さな声でそうつぶやくと、あからさまにランディスが動揺を見せる。素直なことだ。


 ……あまりに出来すぎたタイミングだったのでまさかとは思ったが、やはり二つのトラブルは無関係ではないようだ。


「ど、どうしてその名前を知ってんだ?」


「先日、たまたま面識ができてね。利発そうな良い子だったよ。それで今朝、人づてに聞いた話なんだけど、昨日探索者トライアルに登録してしまったらしいんだ。どこかで聞いた話と同じだね」


 そう言うとランディスの表情が少し曇ってしまった。


「……ごめん」


「約束を破ったのは感心しない。でも、事情があるんだよね? まずはその話を聞かせてくれないかな」


 ランディスは一旦話し始めようとして、再び躊躇するような素振りを見せた。が、決心をしたのだろう、僕の目を正面から見ながら口を開いた。


「実は――」


 ランディスの話によると、実は以前から時折話に出てきていた、一緒に探索者になる約束をしていた仲間というのがパリスのことだったらしい。ランディスが仲間って言うくらいだからてっきり男だと思っていたよ。


 パリスが魔術師の養子になってからは、お互いに探索者の話はすることは無かったらしいが、その理由がお互いにズレてしまっていたということらしい。


 ランディスはパリスが魔術師の養子になったことで安定した生活基盤を手に入れたのだから、探索者になるわけがないと思っていた。反対にパリスは当然探索者になるつもりだったので改めて話すことでもないと思っていたようだ。


 そんな中、僕が説得したことでランディスは探索者になる前に十分に鍛錬をする事になったわけだが、当然パリスはそのような事情は知らない。


 パリスよりも先に成人することは知っていたため、ランディスがもう既に探索者になっているものだと思い込み、成人になってすぐに後を追うように登録をしてしまった。……実際は追い抜いてしまったわけだが。


「なんでだよ。安定した生活手に入れたのに探索者に……なんで」


 それはパリスがランディスのことを好いているからに決っているからなのだが、それはシェリルさんから書き置きの内容を聞いていたからわかっただけの話だ。恐らく気が付いていないであろうランディスに教えるべきではないだろう。パリスは頑張って鈍感にもわかるようにアピールしてやってくれ。


「まあ、何にしても探索者トライアルに登録してしまった以上は、将来に渡り生き残れる探索者になってもらわないといけないな」


「う、ごめん」


「謝るのなら心配を掛けてしまったジーク達に謝って欲しいかな。僕には謝らなくても良いよ、ただ色々と覚悟だけはしてもらうけどネ」


「なんかすっげえ怖いんだけど」


 ランディスが苦笑いをしながら引きつった顔をしている。でも先程よりも少しだけ元気が出てきたようにも見える。


 すんなりと聞き出せたのはシェリルさんの事前情報のおかげというところだろう。今朝発生した馬車の一件はともかくこっちに関しては感謝しておくことにしよう。


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