百の武装
ジークとエリーシャの宿替えも無事終了し、今日からようやく天獄塔の異界に挑戦することになった。
とはいえ、一先ずは天獄塔の第一層の調査というか様子見にとどめておく予定ではある。
宿の前で皆と待ち合わせをし、それから天獄塔に向かう。
「おう、そこのにいちゃん。そんななりじゃまともに探索できやしないぜ?」
声のした方を振り向くと探索者用の道具の露店で見覚えのあるおっさんがニコニコしてこっちを見ていた。
その話しかけ方はネタなのかな?
「ああ、ダニスさんご無沙汰しています。おかげさまで無事探索者になることが出来ましたよ」
「先日はお世話になりました」
僕とアリスが挨拶すると、ダニスさんは嬉しそうに頷きながら、同行している皆の様子を観察しているように見ていた。
「あら、ダニスさんと言いましたか? 女性の身体をそんなに見つめるのは行儀悪いわよ」
「おっと、これは失礼。いや何、皆ちゃんと装備品は足りているのか心配でな」
ダニスさんはエリーシャに少し叱られて、バツが悪そうに言い訳をしていた。
以前も思ったがいい人なんだろうな、ただもしかしたら装備品にしか興味が無かったりするのかも知れないが……。
「――ん、もしかして、そのバックパックはダミーか?」
突然の質問に少しドキッとした。今回もトライアルの時と同じように、バックパックの中にアイテムポーチを入れてごまかしていたのだが、どうしてバレたのだろうか?
とりあえずベタだがごまかしておこう。
「いやなんのことかよくわかりませんが、見ての通りバックパックですよ」
「隠すのが下手だな、俺も同じようなもん持ってるからわかるんだよ。一番は重心だな、バックパック持ってるわりには前過ぎる。見た目はダミーで中に小さめのアイテムポーチ入れてるだろ?」
やっぱりダメか。でも同じような物ってのは興味があるな。そう考えているとダニスさんが後ろの露店から大きなバックパックを取り出して見せびらかしてくる。
見たところ確かにアイテムポーチらしき物だった。中々の大きさだが、これなら家数軒分の収納が期待できるかもしれない……。ダニスさんはこのアイテムポーチをどこで手に入れたのだろう。
「やはり気になるか? 実はなこいつもアイテムポーチなんだよ。このサイズで十倍もの収納量があるんだぜ、異界で手に入れた時は思わず神様に感謝してしまったぜ」
自慢気に語るダニスさんと、その話にさほど驚かない面々。それはそうだろう、僕のもつアイテムポーチの性能を先日説明してしまったばかりなので、余計に際立ってしまうのは仕方がない。勿論便利なことには変わりはないが質としてはそれほど高くない。
「こういうものを持ってる人は多いんですか?」
「ここは異界都市だからな、俺のアイテムポーチ程じゃないが、いない訳じゃないよ」
ということは、性能を落とせば多少の流通なら可能かもしれないな。デビューしてすぐにってのは不自然だから暫くは後になるのは仕方ないか。
それにしてもさっきからジークが大人しいな、って思いジークを見ると何か驚いた表情であわあわしていた。
そんな僕の視線に気付いたジークが慌てた様子で耳打ちしてきた。
「おい! バーナード、お前ダニスさんと知り合いなのか!?」
「知り合いというか、先日アリスのトライアル用装備をダニスさんに見繕ってもらったんだよ。値段のわりに良い装備が買えたから感謝だね。何、ジークはダニスさんと知り合いなの?」
「ば、ばか!知り合いなわけねぇだろ。あのダニスさんだぞ!?」
あのって言われてもなぁ、どのダニスさんだ。首を傾げていると、ジークは溜め息をつきながら説明をしてくれた。
なんでもダニスさんはジークと同じく副都出身の探索者で、この異界都市に於いても相当に有名な人らしい。
百の武装という二つ名を持つほどなのだとか。
得意な武器があるわけではないが、状況に合わせて多彩な武器を扱うらしい。ああ、それであのアイテムポーチというわけか……。
「ジークも折角だから挨拶くらいしたら良いんじゃないかな。さっきから一言も話してないし」
「そ、そうだった。は、初めまして、ジークといいやがります! 俺も副都出身です」
「おう、そうか。死なねぇように、がんばれよ」
「は、はい!」
また変な言葉だが、ちゃんと伝わったみたいだから問題はないか……。ジークは元から言葉遣いが汚いが、緊張するとさらにおかしくなる傾向がある。
分からないでも無いが、少し落ち着いたほうが印象は良いと思うよ。
ジークはダニスさんと話すことができて感動しているのか、これまでよりも更にやる気が出たようだ。
空回りだけはしないように注意して見ておこう……。
ジーク達の話も一段落したので、ダニスさんと別れて天獄塔の入り口を開け塔の中に入った。目の前に広がるのは前回と同じく受付とポータル、そしてそれを守る護衛だった。
今回は探索者証もあることだし、堂々と受付に向かい探索者証を提示して、ポータルを使用するための手続きをはじめることにする。
やはりというか、まあ予想通りだが初めての利用になるので、ポータル使用の手続きには多少時間がかかるらしい。隣の受付に案内され手続きを始めたが、その間にも何組かのパーティが中に入っていった。
「皆様は初めての利用になりますので、簡単にではありますが説明をさせていただきます。わかっているとは思いますが――」
まず一番に異界に入る際に起こることはあくまでも自己責任であることを改めて強調された。
探索者ギルドが適正のない者をトライアルで排除はしているが、それによって異界が安全になるわけではない。これはその辺りを再認識させたいのだろう。
他には探索中に手に入れた素材の買い取りに関して、探索中に手に入れた素材は自分で売りさばくも良し、消費するも良し、当然だがギルドで売買しても構わないようだ。
極稀にだが、ギルドから緊急依頼で半強制的に素材の買い取りを行うこともあるとの事だった。これは、王国内で伝染病が流行ったりした際に、薬草類を確実に確保するための施策らしいが今のところ実際に行われたことは無いとの事だった。
他には異界につながるポータルの説明だった。なんでも一度到達した階層にはポータルで直接移動することが可能なのだそうだ。
なぜそのようなことが可能なのかギルドにも理由はわからないようだが、これはただ僕が設定した機能だ自分は楽に上まで上がりたいが、この塔を初めて訪れる人達にはこの塔の素晴らしさをわかってもらうためだけにこんな機能を付けたのだ。
異界化したことでその機能が使えるのか心配だったが、変わらず利用できるようで安心した。
もしかしたら一気に家に帰ることができるかもしれないのだから。
その他にも色々と説明されたが内容が多かったので全部は覚えきれなかった。全然簡単じゃないじゃないか、本当に皆こんなことを覚えているのか?
と思っていたら、一応ギルドの窓口で質問や相談ができるとの事で、最初から全部覚えられるような人はそうそういないらしい。やはりそうだよね。
「――以上で説明を終わらせていただきます。トライアルを突破した方たちであれば大丈夫だとは思いますが、森の異界と天獄塔の異界との違いに戸惑って些細なミスから大怪我をしてしまう例も報告されていますので充分注意してください」
締めの言葉を聞いてダレかけていた空気がピッと引き締まったような気がした。
皆一様に真剣な表情をしていた。
ポータルは二人ずつくらいなら一度に転送することができる。まずは僕とアリスがポータルに入ることにする。
試しに自室への転送を試みるが、自室に転送されることはなかった。
あー、ダメだったか。少し期待していたのだが……。
恐らくだが、亜神になったことで別の存在だと見なされてしまったのだろう。残念だが順番に登っていくしか無いということなのだろう。
諦めてそのまま第一層へと足を踏み入れる。さて、天獄塔の異界はどんな場所かな……。
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