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帰還

 しばらくテントで休憩していると、先ほどの職員が呼びに来てくれた。どうやら探索者ランクアップの準備ができたようだ。


 ギルド職員に連れられて着いた先は、先程までとはまた違い綺麗で大きなテントだった。

 テントの中に入ると机と椅子が複数用意してあり、その机の上には探索者ギルドで見た登録台と同じようなものがおいてあった。


 すでに先客がおり、丁度手続きが終わったところのようだった。わざわざこのタイミングで連れてきたということは恐らく軽く顔合わせをさせる為なのだろう。

 特に挨拶がしたいわけでは無いが出て行く際にすれ違ったので軽く会釈だけはしておいた。


「それでは探索者ランクアップの手続きを始めます――」


 登録を行った時と行うことはさほど変わりなかったが、出来上がった探索者証に刻まれたランク1の表示を見ると流石に実感が湧いてくる。


 ふと周りを見ると、皆一様に嬉しそうに探索者証を眺めていた。あ……いや、アリスだけは自分の事はどうでも良さそうだ。僕のクリアを喜んでくれている。

 探索者ランク0とランク1では大きな差があるのだろう。職員の対応もトライアル前の扱いとは違い一転、非常に丁寧に対応をしてくれるようになった。


(探索者ギルドからすれば、探索者になれない見習い探索者が何人死のうが関係ないわ。王国にとって莫大な利益をもたらす塔とその探索者のみが大事なのよ。探索者志望なんてそれこそいくらでもやって来るから)


 急にトライアル前のシェリルさんの言葉を思い出すが。今の職員の対応も確かにそう感じられた。


「ところで、現在トライアルをクリアしていない人たちはどうなるんですか?」


「クリアできるまで粘るも良し、途中でリタイアするも良し、そのまま中で野垂れ死ぬのも自由です」


「でも、リタイアしても街には戻れないんですよね? それは何故でしょうか?」


「……そうですね。探索者を志す者は全員例外なく天獄塔がもたらす富を目標としています。その中で探索者になれないような、力なき欲深きものが街に残ると何が起きるか? 一人や二人であればさほど影響は無いでしょうが、アミルトにはそのような者が次々と押し寄せます。それらが徒党を組むようなことがあれば、その先に待っているのは治安の低下です。我々は街を守る義務がありますからそれを善しとはしません」


 職員は難しそうな顔をしながらも、丁寧に説明をしてくれた。確かにこの職員の言うとおり、治安の低下は免れないだろう。それどころか正規探索者の足を引っ張り、果てには邪魔をし探索活動を妨害する。

 実際に王国から彼等に課せられているプレッシャーも相当なものなのだろう。街を守るという行為にそれだけの必死さがうかがえる。




「えー、それでは探索者になれたことを祝って、かんぱーい!」


 森の異界で行われたトライアルも無事クリアすることができたので、該当者全員の探索者ランクアップ手続きも終わり、僕たちは再び異界都市アミルトに戻ってくることができた。


 今現在の時刻は帰還から明けて翌日のお昼で、現在の場所はアミルトの繁華街にある飲み屋の中である。夜ではない。間違いなく昼だ。


 昨日は時間が遅かったので、翌日改めてパーティの面子で集まり今後の事を話し合おうということになり別れる事になった。


 翌日探索者ギルドの前で集まったのだが、集まるなりエリーシャからトライアルを無事に突破した記念に皆で飲もうという提案があったのだ。

 手持ちのお金が少なかったので断ろうと思ったのだが、エリーシャが発した「トライアルの戦利品を売れば良いじゃない」の一言で全員賛成で開催が決まった。


 善は急げとトライアルの戦利品を売りに行くと、これが想像をしていた以上に高値で買い取りしてもらえた。

 特にトライアル最後のガーディアンであるデスアントリオンの素材をほぼ無傷で採取することができたため、非常に高い値段で買い取ってもらうことができたのだ。

 どれくらいの高値かというと、素材の一部を今後のために残し、それを差し引いて売って尚且つパーティーメンバーで分配しても当面の生活費を心配する必要はまったく無くなったくらいだ。

 その際にアリスが分配されたお金を僕に全て渡そうとしてきたが、それは自分で好きなことに使うようにと、受け取りを拒否しておいた。


 その後は、エリーシャのオススメだという飲み屋に席を取り、そして今に至るというわけだが……。


「こんな時間から飲んじゃって良いのかなぁ……」


「祝の席だし良いんじゃねぇか? 俺はこういうの好きだぜ」


 まあ、めでたい席なのでこういうこともあるか。特にジークは夢への第一歩が叶ったわけだし、うかれてしまうのも仕方がないか……。

 ジークは探索者になれたことが本当に嬉しいようで、昨日からずっと高いテンションのままだ。……嬉しい空気に水を指すのも無作法か。


「よし! じゃあ折角の祝の席だし、時間のことは忘れよう!」


「さすがバーナード君、そうこなくっちゃ。お兄さんお酒追加で!」


「エリーシャは酒のペースが早いね、お酒に強いって言うとドワーフのほうが印象が強いんだけど、エルフも強いの?」


「そうね、ドワーフほどじゃないけど人間に比べれば強い方かしら。あいつら本当に馬鹿みたいに飲むから勝負にならないわ」


 エリーシャは少し嫌そうにそう言いながら料理を頬張った。あ、そうかエルフとドワーフって仲が悪いんだっけか。

 詳しい理由は知らないのだが、大昔からずっと仲が悪いということは皆が常識として知っているくらいには有名だ。


 とはいえ、お互いの領分に関しては認め合っているようで、仲が悪いからといって戦争を起こすわけでもなく不干渉を守っている。こういうところは人間にも見習って欲しいところだ。

 などと余計な事を考えながら、テーブルに次々と置かれる料理を眺める。


「この店の料理は美味しいね。この金額で店をやっていけるなんてすごいよ」


「確かに美味しいですね。後でお店の方に色々聞いてきますね。バーナード様がいつも美味しい料理が食べられるよう頑張ります」


「ははは、そんなに気にしなくていいよ。ここの料理が食べたければまたここに来ればいいだけだから」


「いえ、バーナード様が異界の探索中の野営で食べたくなった時に必要ですから」


 アリスは「頑張ります!」と意気込みを見せながら、料理の味を確かめている。確かに野営の事は考えてなかったな。

 店の人が簡単に教えてくれたりはしないと思うが、アリスのがんばりは見ていて微笑ましいな。


「でもアリスちゃん、食材の運搬はどうするつもりなの?バッグに入れてたらすぐに痛んじゃうわよ?」


「ああ、それはアイテムポーチで運ぶから問題ないよ」


「そういやバーナードのバッグはよくわかんねぇもんが一杯入ってるよな。トライアル最後の大量に水出してたやつとかよ、あんなもんどうやって入れてんだ?」


 アリスの代わりに疑問に答えたのだが、エリーシャではなくジークが話に乗っかってきた。エリーシャは近代錬金術を知っていたので、アイテムポーチの存在を知っていてもおかしくはないが、ジークは知らなくても不思議ではない……か。


「僕の持っているアイテムポーチはだいたい家一軒分くらいは物が入るんだ。でもって、入れてる間は殆ど劣化しないから食材入れておいても何の問題もないよ。あと、最後に使ったのはただの浴槽だよ」


「ただの浴槽からあんなにドバドバと水が出るかよ。それも例の近代魔導具ってやつなのか?」


 ジークはどうしても古典魔導具の印象が強いようで、あまり納得ができていないようだが、最終的にはそういうもんだと割りきったようだ。

ひとまずこれで第一章探索者トライアル編が終了です。

次話で幕間を挟むかそのまま次章に入るかは未定です。


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