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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
未踏階層到達編

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青龍

 激しい危機感を覚えて、慌てて皆の様子を確認してみたものの、まだ誰も慌てた様子はない。まだ上空高くを降下している状態なので、きちんと青龍を視認しているのは僕だけのようだ。


 とはいえ、あの速度で降下しているとなると、皆の視界に収まる頃には取り返しのつかない状態にもなりかねない。ここで取るべき選択肢は一つだけしかありえないだろう。


「みんな、ガイア・クロウラーの事は忘れて全力で戻って!」


「は!? いきなりどうしたってんだよ。戦闘準備する話はどうなったよ」


「いいから早く! 説明は後でいくらでもするから」


 ジークが当惑した顔を見せながら僕の方を見て疑問を口にしているが、現状では既にのんびりと説明している暇はない。


「よくわかんねえが、わかったぜ!」


 僕とジークとのやり取りを見たことで、僕の慌てぶりが皆に伝わったのか、その後は誰も文句を言うこと無く、先程までいた建物に向かって全力で走り始めた。


 ……まさか、皆が気の操作を覚えて初のお披露目が全力での逃亡になるとは思ってもみなかった。


 走っている間も数回振り向きつつ青龍の様子を確認してみたが、幸いな事にこちらに対して意識は向いてはいないようだ。あくまでも地面から飛び出したガイア・クロウラーを目掛けて降下している。




 ようやく建物まで駆け戻り、入り口の扉が正常に開くことを確認する。幸いなことに扉が開かなくなるといった事は無かったようだ。


 退路の確保が出来た事で、ひとまずの安心を確保できたので再び上空の青龍へと視線を戻す。既に皆の視力でも視認が可能な距離まで降下してきていた。


「な、何なのあれは!?」


「ものすごく大きな蛇? 外見はドラゴンに似ているけど、ちょっと違う」


 マリナさんもエリーシャも見た目では判断がついていないようだ。以前、第十五層で玄武を見かけた時には、エリーシャやジークは玄武の事は知っていたが、その姿形に関しては知らなかった。恐らくだがマリナさんも同様なのだろう。


「……あれは青龍だよ」


「は!? マジかよ。しかも今回は玄武のときと違ってめちゃくちゃ怒ってんじゃねぇか」


「うん、怒ってるね」


 青龍といえば東方の自然豊かな土地に生息していた霊獣で、その属性は木だ。


 玄武のときも遭遇した場所が砂漠だったことで思ったが、今回の青龍に関しても持っている属性とは正反対に属する不毛の土地である。温和な玄武とは異なり、ただでさえ荒ぶる心を持った青龍が激怒していたとしても何ら不思議ではない。


「あの状態の青龍と戦ったら、皆無事ではすまないと思う」


「あたりめぇだろ、あんなのと戦えるかよ」


「私も戦ってみる気も起きないわ」


 パーティ内で割りと好戦的なジークとマリナさんもさすがに青龍の危険性は理解してくれているようだ。


 ……しかし、これからどうするべきだろうか。


 この階層に青龍が存在する以上は、出歩くことすらままならないし、野営なんて以ての外である。


 ガーディアンが近くにいれば良いが、少なくともここから視認できる距離には存在していない事はわかる。


 ダニスさん達が早々に諦めてしまったというのも十分に理解できるというものだ。まさに百聞は一見にしかずといったところだろう。


 少々途方に暮れながら、青龍を眺めていると先程までとは少し動きが変わった。


「そろそろ射程に入ったかな?」


「射程、ですか?」


「うん、青龍がブレスを吐く体勢に入った」


「逃げなくて大丈夫でしょうか?」


「この距離ならこちらには影響は無いはずだから大丈夫だよ」


 アリスと話しながら、青龍が大きく開いた口に強力な魔力が収束していく様子を見続ける。


 ――そして間もなく、青龍の口から強大なエネルギーが放出され、ガイア・クロウラーへと向けて一直線の軌跡を描いた。


 一般的なドラゴンのブレスは放射上に広がる為、影響は広範囲に及ぶが威力自体はそれなりに分散される。しかし青龍のブレスは細く収束された状態で到達するため威力も高い。


 ガイア・クロウラーに直撃した高出力なエネルギー波は、着弾とともに爆音と大きな輝きを発したため視界が一瞬真っ白に染まる。離れた場所から伝わってくる振動が身体を突き抜けるように感じた。


 そして光が収まった後にはガイア・クロウラーの姿は跡形も無くなっていた。


「も、物凄い衝撃だったわ」


「あのブレスは衝撃だけじゃないよ、ほら」


「……これはどういうこと?」


 驚いた声を上げたマリナさんに答えながら、着弾点を指差して皆の視線を集める。


 あれだけの衝撃が伝わったにも関わらず、直撃したはずの地面には窪み一つ見当たらない。


 すると、着弾地点の地面から幾つもの緑色の物体が物凄い勢いで伸び上がる。


「青龍のブレスが着弾した場所は、ああやって緑生い茂る土地に変化する」


 しかし、成長した木々や草に待っていた運命は、僕の想定していたものとは大きく異なった。なんと、伸び切ったはずの植物が突然火に包まれて燃え始めたのだ。


 最終的に燃え尽きて灰になった木々は程なくして跡形もなく消え去ってしまった。


「燃えちまったな」


「燃えたね。草木一本生えていない理由はこれかな」


「てか、更に輪をかけて怒ってねえか?」


 ジークの言う通り、青龍は一度大きく咆哮して先程よりも大きな怒りを身に宿したようにも見える。間違いなく原因はその光景を目の当たりにした為だろう。


 そして、青龍の視線が地面から別の場所に向けられる。――そう、僕達だ。


「来るよ、いつでも建物に入れるように準備しておいて。いや、やっぱり先に入っておいて」


「……かしこまりました。バーナード様は?」


 アリスが心配そうにこちらを見つめている。だからアリスの瞳を見つめ返す。


「僕は一つだけ確認しておきたい事が出来た。それだけ確認したら中に入るよ」


「かしこまりました」


「絶対に無理はすんなよ」


 アリスの返事に被せるようにジークが僕の背中を軽く殴りつけた。




 皆が建物の中に入った事を確認し、一旦入り口の扉を閉める。そして青龍の方へ振り返ると、こちらに向かって移動を始めたところだった。


 今、この場には青龍とそして相対して立っている僕だけだ。


 どうしても確かめておきたかったこと、それは先ほどの青龍が放ったブレスを見たことで生まれたものだ。


 以前、死にそうになって素材を採取した時に体験したブレスに比べて、先程見たブレスは明らかに威力が低かった。これは僕の力が上がったことで相対的にそう感じたというわけではない。


 一番に考えられる可能性としては、この地形による影響だろう。


 この階層の異界を一つの世界として考えるならば、この世界には青龍の力の源泉である自然が存在していないということになる。


 つまり、この底意地の悪い異界で遭遇する限りにおいて四神は本来の力を十全に発揮することが出来ないという可能性が非常に高い。


 これから行うことは簡単に言ってしまえば、青龍のブレスを食らうということである。当然、そのまま受けるわけではなく全力で対策させてもらう。



 アイテムポーチから取り出した月詠を両手に持ち、青龍の動きを見据えながら腰を落として下手に構える。そして集中に伴って月詠の刀身が薄っすらと光を帯びていく。


 射程距離に入ったことで、青龍は先ほどと同じように口を大きく開き強力な魔力が収束されていく。――そして怒りのためだろうか、先ほどよりも遥かに早く放たれた強大なエネルギーが僕に向かって軌跡を描いた。


 青龍の口から放たれたブレスが目前に迫ったのに合わせて構えた月詠を振りかぶり、自分を中心に半円を描くように地面を斬りつける。


 硬い地面がえぐれる音を発するとともに、切り裂いた地面の割れ目から垂直に放出されたエネルギーが、僕の前に壁となりブレスの直撃を受けた。直後、爆発するような音と衝撃が僕の身体に伝わってくる。


「……やっぱり青龍は弱体化している、か」


 周囲を埋め尽くした光が収まり始めると、視界の先に薄っすらと青龍の影見えた。予想していた通りの結果に戸惑いを覚えつつも、僕の頭の中は今後の方針を模索し始めていた。



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