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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
未踏階層到達編

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違うんだ

 ランディスの訓練も終わり裏庭から孤児院の中に戻ると、ちょうどエステルが子供達と遊んでいる最中だった。


 盛り上がっている子供達に悪いとは思ったが、エステルを呼び止めてジークとエリーシャの様子を聞いたところ、一応事前に予想していた通り二人共特に体調不良に陥るようなことは無いとのことだった。


 とりあえずは安心することが出来たので、これ以上の邪魔にならないよう長居はせずに孤児院を後にする事にした。


 その後は特にこれと言って用事もなかったので、自宅に戻り日常の習慣である研究をして朝を迎える事にする。これが一番落ち着くしね。




 翌日を迎えて昨日の朝と同様、自室の窓から見える朝焼けを眺めながら、しかし酔い覚まし用のポーションではなく香りの良いハーブティーを飲む。


 最近はこの自室から見る夜明けも割りと好きになってきた。塔の上層階から見る景色には大きく及ばないが、こういった素朴な景色というのも中々に良いものではある。


 ようやく今日から天獄塔第二十五層の探索を始めることとなる。さて、そこには一体何があるのだろうか。


 これまでも何度かダニスさん達に軽めに探りを入れてきたのだが、結局のところ「実際に自分の目で見てみればわかる」の一点張りで新たな情報は一向に得られなかった。


 確かにダニスさん達は多少は努力をしたものの、割りと早々に諦めてしまったようなので、参考になるような情報といえるほどの物を持ち合わせていないとも言っていた。


 どうも様子を見る限りでは、別に僕達に対して嫌がらせをしているわけではなく、先入観無しに見て欲しいというのが大きな理由なのだろう。


 まあ情報が足りない以上はあれこれと考えるだけ無駄だろう。




 朝食後は少し予定よりも早いが天獄塔へ向かうことにする。


 いつものようにアリスと一緒に歩いていると、アリスの様子がいつもとは少しだけ異なるように感じた。はて?


 少しの間アリスの様子を窺っていると、どうも通りを行き交う人々や見慣れない店に興味を持ったようだ。普段から頻繁に一人で出歩くようなことをしないので仕方がないかもしれない。


 この都市が錬金都市と呼ばれるようになってからと言うもの、新たにこの都市を訪れた人達が様々な産業に参入を始めている。先程からアリスがチラチラと見ているのはそう言った店ばかりだ。


「……天獄塔には寄り道でもしながらゆっくりと向かうことにしようか」


「え、どこか具合が悪いのですか?」


 僕の言葉を聞いてアリスは少し心配そうな顔でこちらを見ている。まあ、普段は探索予定日の朝に寄り道するようなことはあまり無いから仕方がないかな。


「いや、そういうわけじゃないよ。ただ時間が早いから急いで向かっても待つ時間が伸びるだけだからね。どこか寄ってみたい店はあるかい?」


「そう、ですね。いくつか気になるお店はありますが、よろしいのですか?」


「うん、構わないよ」


「ふふ、かしこまりました。それでは――」


 アリスは安心したのか嬉しそうに返事をすると、気になっていたであろう店をいくつか指差した。


 まあ時間には余裕があるので大丈夫だろう。




 ――などと思っていた頃がありました。


 幾つかの店に寄ってみたところ、思いの外興味を引くものが多かったため、ふと気がついた頃には待ち合わせ時間にギリギリ間に合うかどうかというくらいの時間になってしまっていた。


 僕とアリスは慌てて店を飛び出して、そのまま阿吽の呼吸で屋根の上へと駆け上がり、大幅にショートカットしながら一直線に広場へと疾走することとなった。


 急いだおかげか、皆と待ち合わせをしている塔の入り口付近にはなんとかギリギリ間に合わせる事が出来た。当然ながら皆は既に集まっていて、僕達が最後になるわけで。


「はぁ、はぁ、ま、間に合った」


「どうしたんだ、これから探索だってのに息なんか切らせてよ。また忘れ物でも取りに帰ってたのか? もう少し早く家を出たほうが良いんじゃねえか?」


 到着するなりジークに掛けられた言葉がそれだった。……違うんだ。一応、家を出た時間は早かったんだ。早くてもダメだったんだ。




 皆が集まったので、いつものように天獄塔一階のカウンターで受付を済ませてポータルへ向かう。


「それじゃあ第二十四層後のポータルを抜けた先の部屋に移動しようか」


 皆が頷いたのを確認して、ポータルへと足を踏み入れる。――眼の前の景色が切り替わり、塔の一室へと移動した事を確認する。


 僕に続いて移動してきた皆はそれぞれ一定の距離を取って座り、荷物の最終確認を始めた。さすがに手慣れたものだ。




 皆の準備が整ったので、第二十五層につながるポータルの前に向かう。そしてポータルの前に立ち、一つ深呼吸をしてから後ろを振り向かずに口を開く。


「行こうか」


 返事を待つこと無くポータルに一歩踏み出す。


 再び景色が切り替わり、まず目の前に見えたものは石造りの壁だった。周りを見渡した限りではドーム状になっている部屋の中のようだ。窓は一つも無く、唯一正面に頑丈そうな扉が見える。それにも関わらず部屋の中は薄っすらと明るいのは、壁を構成している石のいくつかが淡い光を放っている為である。恐らくは普通の石では無いということだろう。


《淡輝石》


 うん、そのままの名前だ。でも、これまで見たことのない石であることは間違いない。何か使いみちがあるかもしれないから少し拝借しておいても良いかもしれない。


 そう思い壁に近づき石を削り取ろうとしたところ刃物は全く突き立たず、見えない何か阻まれてしまった。改めてモノクル越しに注意深く見ると壁の表面に何か薄い層が出来ているようだ。


 非常に安定した魔力で覆われているので、魔力をかき乱そうとしても上手くいかなかった。全てを確認はしないが、ドーム状の壁は全て覆われていると考えて間違いは無いだろう。


 それなら床はどうだろうかと思い、刃物を突き立ててみるとこちらはあっさりと突き立てる事が出来た。とは言っても床に淡輝石は埋まっていないので全く意味はなさない。


「バーナード様、どうされました?」


 壁際で色々と試しているとアリスに声を掛けられた。少々挙動不審だったかもしれないな。


「ん、壁で光っている石を採取しようとしたんだけどダメみたいだ」


「この石の事ですか? 神秘的で素敵な光ですね」


 答えながら壁を調べ続けていると、アリスも淡輝石に興味を持ったようで、僕の隣に立ち石を見つめ始めた。


 横目に映るアリスは淡い光に照らされて、こちらも神秘的な美しさを感じてしまう。


 一瞬見惚れてしまったが、ふと我に返り少々恥ずかしくなってしまった。慌てて皆の様子を窺うと、各々が思い思いに部屋を見て回っているようで誰もこちらには気がついていないようだった。……良かった。


 いや、一人だけ見て回っていなかった。マリナさんは部屋の中心にあるポータルから一歩出たところで片膝をついて両手を組んで目を閉じている。一見すると祈りを捧げているようにも見えるが、……まあ、多分その通りなのだろう。


 クローツ教的には天獄塔の異界を神聖視していたりするのだろうか?


 これまで聞いた限りでも、天獄塔の異界に関しては何回も登場してはいるので、こういった神秘的な物を感じる場所では別におかしな行動でも無い。


 先に進もうと皆に声を掛けようとも思ったが、さすがにマリナさんが真剣に祈っているのを見てしまうと今すぐというのはためらわれる。先を急いだところで大きく変わるわけでも無いので少し待つことにしよう。




「――そろそろ先に進もうか」


 しばらくの間、皆が思い思いに淡輝石を見つめていたが満足出来たようだ。先のこともあるので新たに気持ちを入れ替えて部屋を出ることにする。


 淡輝石には少々未練もあるが、今日の目的とは異なるのでまた別の機会に挑戦することにしよう。


 部屋の一か所にだけ設置されている扉に手をかける。少し重たいが鍵は掛かっていないようで、押すと開いた隙間から光が差し込んだ。


 部屋の外は廊下などがあるわけではないようで、そのまま外につながっていたようだ。


 さあ、外には何が待ち構えているのだろうか。


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