ならないですね
マリナさんが僕の言葉の真偽を確かめるようにじっと見つめてくる。
グレゴワールの名前を出したことで驚きはしたものの、その分真剣に考えてしまっているのだろうか?
しばらくの間、マリナさんは僕を見つめていたが、一度目を閉じて一つ息を吐く。
「……まあ、それは今は良いわ」
今は、ね。ということは、そのうち問いただされるという事なのだろうか? いや、そんなこと考えるだけ無駄か。なるようにしか成らないよね。
「それよりも、他にも聞きたいことはあるんじゃないですか」
「んー、そういえばバーナード君の口ぶりからすると、光剣のオプションパーツは他にも種類があるってことなのかしら?」
マリナさんは少し悩んだ後、思い出したような口ぶりで質問してきた。マリナさん自身何を聞いたものか、どんな情報が必要なのか悩んでいるのか。
まあ、知らないことが多すぎるせいか、暗闇に矢を撃ち込んでいるような気分なのかもしれない。
「そうですね、今回渡したパーツは光銃というものなんですが、他には光盾とかもありますよ。そっちはドラゴンのブレスが直撃してもびくともしません」
「そ、それはちょっと凄い話だけど、何だかどんな形か想像がつかないわね。そういえばこの光銃っていうの? ものすごく硬い素材で作られているように見えるのだけど」
「素材はミスリルをベースにレアアース・エレメンタルから採取した幾つかの素材を混ぜた合金なので、素のミスリルと比べても相当硬いと思いますよ」
マリナさんが「へぇー」と言いながら、光銃を持って足元の岩にコツコツとぶつけ始めた。丈夫だから問題は無いが、もう少し丁寧に扱ってもらえまいか?
「ってことは光盾も同じミスリルの合金なのかしら?」
「ちなみに光盾もミスリル合金ですが、多分イメージしているものとは少し異なると思います。こちらは作っている最中なので近いうちに、というか早ければ明日にでも披露できると思いますよ」
「光盾があればパーティの壁役が出来るわね。飛び道具にもなって盾にもなるなんて、本当になんでもありね」
そう答えるあたり、マリナさん的には光銃よりも光盾の方に興味があるようだ。確かに戦闘スタイルは避けるよりも受ける方に偏りがちだ。
光盾さえ使いこなせるのであれば優秀な壁役になることは間違いないだろう。
「様々な戦況に即時に対応出来る、というのがその魔道具《あの手この手君》の売りなんですよ」
実際にセオドールはそのような事を言っていたし、確かに戦況に合わせて使い分けていた。
絶望的にセンスのないネーミングは別として、近くで見ていた身としてはちょっとばかり格好良いなとも思っていたくらいだ。
僕の戦いかたとは相性が良くなかったので、セオドールの真似をすることは無かったが、マリナさんはアイテムボックスの使い方にも慣れていそうなので合うとは思っている。……のだが、実際のマリナさんの反応は――
「あー、でも残念だけどこれには一つ大きな欠点があるわね」
僕が思っていたものとは少しばかり異なっていた。
そう口にしてから、マリナさんは先程までの期待を感じさせる様子から打って変わって、言葉の通り残念そうな表情をしていた。
……はて、これまでセオドールが使っているところを幾度と無く見てはいるが、欠点らしい欠点は特に見当たらなかったのだが?
マリナさんの言う欠点に対して、イマイチ考えが至らず、しばらく考えこむ僕の様子を見てマリナさんが一つため息をついた。
「むぅ、全然思いつかない」
「もう、仕方がないわね。良い? 大きな欠点というのはこのオプションパーツの使い方よ」
マリナさんが少々呆れ気味にそう言い放つ。その様子から鑑みるにまるで確信しているかのようだ。
使い方に問題が?
ますますわからないな。
言っている意味が理解しかねるため、首を傾げているとマリナさんは説明を続けた。
「例えばこの光銃だけど、利用するためには取り出す、取り付ける、使用するという手順が必要となるわ」
「ならないですね」
「そう、それが……って、え?」
「え? ならないですよ」
僕が発した回答が想定していなかった回答だったせいか、マリナさんは驚いた表情で口をパクパクさせながらこちらを見ている。
確かにマリナさん以外の者があの手この手君を使用するには、今マリナさんが言った通りの手順が必要となることだろう。
しかし、マリナさんにはセオドール愛用のアイテムボックスがあるのだ。それならば何の問題も無いだろうに……。って、もしかして。
「そのためのアイテムボックスです、が……もしかしてマリナさんアイテムボックスを使いこなせていないのではないですか?」
「そ、そんなことないわよ。……ほら、ほら」
少々慌て気味に返事をしつつ、僕の目の前でマリナさんはアイテムボックスから幾つかのポーションを取り出す。……うん、確かに使えてはいるけど、きちんとは使えていない。
マリナさんが見せてくれている使い方も、確かに正しい使い方なのだが、今回の用途に合わせた使い方では無い。
「アイテムボックスにはもう一つ別の使い方があるんですよ」
「もう一つの使い方?」
「はい、もう一つの使い方です。これは説明するよりも実際に見てもらったほうが早いし、感覚もつかみやすいかな。ちょっと手袋を貸してもらってもいいですか?」
「え、良いけど丁寧に扱ってね」
マリナさんは少しだけ戸惑いながらも、自身にとって生命線とも言える魔道具を僕に手渡してくれた。まあ、色々と装備に手を入れているので今更ではあるか。
森の異界で剣を突きつけられた頃からは想像もできない変化だと言えるだろう。
マリナさんから手袋を受け取り、そのまま身につけて手のひらを何度か閉じたり開いたりする。
さすがに自己修復が付加されている魔道具だけあって、非常にきれいな状態が保たれている。まるで新品の魔道具を見ている気分になる。……セオドールが初めてこいつを披露した時のことが思い出される。
「えっと、見せてくれるんじゃないの? 急に嬉しそうな顔になってどうしたのよ?」
「え、ああごめん。ちょっと懐かしくってつい。ははは」
変な返しだったせいか、マリナさんは怪訝そうに僕を見つめてくる。顔に出やすい癖はなんとかしなければならない、のはわかっているのだが、この先中々治るものでもないだろう。
さて、と。
脱線気味な気持ちを切り替えて、過去のイメージを頭のなかで再生する。
セオドールが使っていた場面は何度も見ていたが、実際にアイテムボックス使うのはかなり久しぶりだ。そのため感覚をきちんと覚えていないので、少しだけ緊張する。
目をつぶり一つ深呼吸をする。瞼の裏を見ながら予定の動きをイメージをしてからゆっくりと目を開く。
「それじゃあ見ててくださいね」
そう言って、目の前に作り出した空間の入り口に何も持っていない右手を入れて――その空間を抜け、その先の出口から出た右手に握った光剣をマリナさんに見せる。
その様子を見ていたマリナさんは言葉を忘れたかのように、ただただ呆然としていた。
「と、まあこんな感じで使うんですよ」
と、さも出来て当たり前の体で言ったものの、実際は距離感が掴めなかったため、実のところ内心うまくいくかどうかひやひやしていた。結果的に取り出した右手に握られていた光剣を見てホッと胸をなでおろす。
「あとはこれを応用すれば――、こんな感じで瞬間的に換装出来るわけです」
僕の右手がアイテムボックスを通過する度に、取り出される光剣はオプションパーツの有無が切り替わる。
その様子をマリナさんはただただ見つめ続けていた。




