はぐれエルフ
珍しく少し書けたので、初の一日二回投稿になります。
いつもより文字数少ないですが、ご容赦ください。
「う……ん、ここは?」
「目が覚めたみたいですね。ここは安全なので安心してください。って、待ってください!」
テントから声が聞こえてきた。目が覚めたみたいだな。何かアリスが慌てているがどうしたんだろうか?と思っていたら、テントからエルフが勢いよく飛び出て凄い剣幕で食いかかってきた。え、何!?
「さっきは私の事を見捨てようとしたわね!?」
おぉ、その事か……それは誤解だよ。最終的にはちゃんと助けたじゃないか。いや、それ以前に……。
「そもそも助けられて当然と思ってるのがおかしくないですか? 森の中で偶然トロールに遭遇して捕まってしまったのならともかく、貴方の場合は自分の意思でここに来たのでしょう? 助けたことに感謝されることはあっても、非難されるいわれはありませんよ」
「そ、それは確かに助けてくれたことは嬉しいわよ。で、でもそれならなんで最初に見捨てようとしたのよ!?酷いじゃない!」
頭では助けられたことを理解しているようだけど、怒りの感情が先に出てしまっているのだろう。とりあえず落ち着いてほしい。
「貴方には悪いと思いますが、先程のトロールが知能を有していたら貴方を助けるつもりはありませんでしたよ。まさか見知らぬ貴方一人のために人間とトロールの種族間で戦争でも起こせとは言いませんよね?」
「それは……、そういうつもりは……」
「お、おい、いくらなんでもそれは考えすぎじゃねぇか?」
ジークは軽く考えているようだが、実際のところは考えすぎでもなんでもない。
これはあまり知られてはいない話だが、過去にはエルフの集落の付近に迷い込んだ人間の男がトロールに食べられそうになったエルフに一目惚れをし、そのエルフを助けるためにトロールを殺してしまった事で、人間とトロールの間で戦争になりかけたことがあるのだ。
しかも助けたエルフの住んでいた集落の族長には、感謝されるどころか厄介事を起こしたと責められ、人間とエルフの間も険悪になってしまった。
結局その時は事態を重く見た人間側がトロールを殺した人間を処罰することで、トロール達に許して貰うことが出来たらしい。
たまたまその男が犯罪者だったことで処罰しやすかったのだが、もしもこの男が犯罪者ではなかった場合は問題が長期化して、本当に戦争が起きてもおかしくなかったらしい。
恐らくだがこの子はその事を知っているのだろう。言葉に詰まり言い返すことが出来なくなっていた。
「さて、そろそろ君の名前を聞かせてもらっても良いかな。僕の名前はバーナード。見ての通り探索者見習いをしています」
「いや、その格好見てもわかんねぇだろ。俺はジークだ」
「アリスです、バーナード様の従者をしています。以後お見知りおきを」
「あ、すみません! 助けてもらったのにまだ名前も名乗ってなかったですね。私の名前はエリーシャと言います。ご存じとは思いますがエルフで探索者になるために、このトライアルに参加しました」
都合が悪くなったせいか先程までの剣幕はどこへやら、非常に礼儀正しく名乗ってくれた。流石にエルフはこういうしぐさが様になるな。
なんでもエリーシャさんはここからかなり北の森に住むエルフの集落に住んでいたらしい。はぐれエルフらしい考え方の持ち主で、閉鎖的なエルフの生活に嫌気が差し外の世界を見るために森を出て、何年もかけて世界中を回ったそうだ。見た目よりかなり年齢は行っているのだろう。
そんな旅の中で異界都市アミルトの噂を聞き、天獄塔の異界というものに興味を持ち、探索者となるためトライアルに参加したらしい。
ちなみにこのような考え方をするエルフは少数派ではあるが、世界規模で見ると結構存在していて大きな街であればエルフを見かけることも少なくはない。
実はエルフの探索者も結構いたりするのかな?
「それでエリーシャさんはこれからどうするんですか? 僕たちはこのままトライアルを続けなければいけないので、入り口まで送ってあげることは出来ませんが一人で戻れますか?」
「エリーシャで構わないわ。ああ、その事でお願いがあるんだけど、もし迷惑で無ければこのまま私も同行させてもらえないかしら。こう見えても精霊魔術の腕には自信があるの。見たところ貴方達の中に魔術師はいなさそうだし、決して損はさせないと思うわ」
無い胸を張りながら自信満々に語るエリーシャ。そんな自信があるのに、なんであの程度のトロールに捕まったのだろうか?不思議だ。もう怪しさ大爆発だ。
そんな僕の懐疑的な視線に気付いたのか、慌ててトロールに捕まった経緯を説明し始めた。
「あー、トロールに捕まってしまったのはちょっと理由があって――」
なんでもエリーシャはトライアルにギリギリ滑り込んだこともあって、パーティメンバー探しをする時間が取れず、この現地で慌てて即席パーティーを組んだらしい。
第一層は苦戦しながらもなんとか突破することが出来たが、ガーディアンとの闘いでかなりの痛手を負ってしまったらしい。
パーティーに治癒術師なんていう高級職もいないし、急造のパーティのため自前のポーションを融通し合うようなこともできなかったそうだ。
その結果、前衛は満身創痍で第二層に挑むことになり、そのため第二層でトロールに襲われたことで前衛が崩壊、退却して態勢を整えようとするも即席パーティーに信頼関係など期待できるべくもなく。仲間に裏切られ一人取り残されそうになったが、たまたま退路にあった木がトレントだった事もあり、裏切って逃げていった仲間は全滅、エリーシャは一人遅れたことで命拾いをしたものの一人になってしまった。
怪我をしながらも逃げ続けたが、多勢に無勢でトロールからは逃げきることはできず、ついには捕まってしまったということだった。叫びながら助けを呼んでいたが半分諦めかけていた時に僕達と遭遇。その後は僕らが知っているとおりである。
エルフが高級食材であるため、トロールがすぐにエリーシャを殺さなかったのは運が良かったというべきか。
「風の精霊よ力を貸して」
説明が終わるとエリーシャは見えない精霊に話しかけた。言葉を発すると周りに風が吹き始め、風の壁がエリーシャを包みこんだ。風の精霊魔術を使えるってことかな?
ほとんどのエルフは精霊魔術を行使することができるが、その属性は個人の資質によるらしい。メジャーなところはやはり風や木の精霊だろうか。
森の守り手であるエルフには火の精霊魔術を行使できるものはほとんど居ないと聞く。つまりはわりと普通のエルフということだろう。
「この壁はそこいらの魔術や矢くらいならびくともしないわ」
魔術は怪しいが矢くらいなら確かに防ぐことは可能だろう。かなり自信があるようだがこの壁、多分ジークの剣で一撃粉砕が可能だ。
ジークやアリスもそれを感じたのかさほど驚きを見せなかったため、エリーシャは少し落ち込んでしまった。
まあ、あの魔道具の威力見た後ではあまり説得力無いよね。
さほど役に立つような気はしないが、とはいえせっかく助けたのに置いて行って死なれても寝覚めが悪い。
もしかしたら何かの役に立つ可能性だって全く無いとは限らないし、ひとまずはパーティを組んでも良いかもしれない。
「わかったよ。それじゃあひとまずは共闘するということで、暫定的にパーティに入ってもらっていいかな」
「ありがとう。きっとそう言ってもらえると思ったわ」
エリーシャは感謝の言葉を口にしながら僕に抱きついてきた。綺麗な女性に抱きつかれて嫌な気はしないが視界の端でアリスの殺気が膨れ上がったような気がした。
「エリーシャ、バーナード様にあまり馴れ馴れしくしないようにお願いします」
「あら、もしかして嫉妬かしら? バーナード君は嫌そうにしていないわよ」
エリーシャはアリスの反応が楽しかったのか、アリスに見せつけるように抱きついてくる。役得だがこれは非常に危険だ。
今まさにモノクルに表示されているメッセージは「消して良いですか?」だ。落ち着けアリス……。
エリーシャがパーティに入りましたが、いつまでいるかは決めていません。
いきあたりばったりだなぁ自分。f^_^;




