錬金術研究所へ
結論だけ、書く。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した、僕は失敗した。
まあ冗談はともかく、僕は今とあるカフェで休憩している。
本来ならば教会でマリナさんに訓練用の魔道具を手渡せば、今日の要件は全て終了だったわけだが、予定外というか予想通りというか、見事に受け取りを拒否されてしまった。
エリーシャの一件があったので多少の覚悟はあったのでそれほど堪えてはいないのだが、それでも多少はヘコむ。
エリーシャに訓練用魔道具を引き渡した後、マリナさんに訓練用魔道具を渡すため、教会まで行ったのだが――
「悪いけど私は宗教上の理由でそれを着ることはできないわ」
「え、でも気の概念は知らないって言っていませんでしたか?」
教会内の厳かな雰囲気のある応接室で僕は小さく驚きの声を上げる。
ちょっとした疑問点を確認しただけなのだが、もしかしたら少し不満を持っているように見えてしまったかもしれない。
それを敏感に感じたのか、マリナさんは一度視線を斜め上に寄せた後、こちらに向き直り申し訳無さそうにする。
「ああ、ごめんなさい。ちょっと誤解を与えてしまったみたいね。正確には私はその意匠の服を着ることができない、ということよ」
そう、今回の話をしたところ、最初は強くなれる可能性を示したことで、マリナさんは割りと乗り気だったのだ。しかしながら、実際に物を見せたところ見事に手のひらクルーっと拒否されてしまったのだ。
テーブルの上に広げた鮮やかな黄色の魔道具が何故か寂しげに見える。
「……そういうことですか。いえ、多少は予想していたことなので、それほど大きな驚きは無いので気にしないでください」
こちらとしても先程エリーシャの一件を経験したばかりなので、実際にそういうこともあるかもしれないと思ってはいたのだ。
何と言ってもマリナさんはこの最高神であるクローツ教内において、信託に関わる以上それなりに重要視されている立場なのだから。
「はて? そのような――」
「グレゴワール様! 何もご心配はありません! そうよね、バーナード君!?」
実はこの席には僕達三人だけではなくグレゴワールも同席している。保護者のような立場なのだろうか?
マリナさん自身はすでに成人しているので違和感が無いこともないが、教会組織の内情に関わることかもしれないので気にしないことにしたほうが良さそうだ。
それぞれの位置関係は僕とアリスがソファーに座り、テーブルを挟んで対面にグレゴワールとマリナさんが座っている。
先程までなるべく沈黙を続けてきたグレゴワールが何かを口にしかけたところを、マリナさんが慌てた様子で被せ気味に話をすすめてくる。
マリナさんの僕を見るその瞳からは何やら力強い意思が感じ取れるほどだ。
もしかしたら、グレゴワールを怒らせないためにマリナさんが場を取り持ってくれようとしているのかもしれない。
確かに最高神たるクローツ教の常識に近い、もしもこのデザインが禁忌に近いような事柄であったとしたなら、僕の立場は危ういものとなりかねない。
……ここは間違えた選択をしないよう、大人しくマリナさんの話に乗っておくべきだろう。
「え、あ、はい。出来ればそちらから一着提供してもらえればと思っています、が」
「そうよね! そうよね! それじゃあ急いで持ってくるわ!」
そう言うなりマリナさんはその勢いのまま応接室を出て行ってしまった。
グレゴワールも少々驚いたようでなにか声を掛けようとしていたが、マリナさんの迅速な行動はそれすらも許すことは無かった。
さすがにグレゴワールも苦笑いを隠しきれていないようだ。
それほど急ぐ必要のあったものだったのか多少の疑問はあるが、普段から難しい立場にいるマリナさんとしては気にしなければならないことが多いのかも知れない。
あまりマリナさんに迷惑を掛けてしまうのもいけないので、深く詮索するべきではないだろう。
まあ、取り敢えず服は確保できそうなので錬成に使える部屋を借りて、ちゃっちゃと仕上げてしまおう。
「グレゴワール司祭、誠に申し訳ないのですが少しの時間、錬成用に部屋をお貸しいただくことは可能でしょうか?」
「部屋、ですか? ……申し訳ありません。本日は様々な要件が立て込んでおりまして、どこにも空きがないのです」
グレゴワールは少し考えた後、僕に深々と頭を下げた。あれ? やはり使徒って勘違いは未だに尾を引いているのだろうか?
あまり謙られても、こちらとしては逆に申し訳ない気持ちで一杯になってしまうだけなのだが……。
とはいえ、どれだけ否定しても変わらず「わかります」なので、僕がどうにか出来る話しでは無かったりはする。
まあ、こればかりは考えてもしかたがない。そのうち時間が解決してくれるだろう。……解決してくれるよね?
「そうですか。そういうことでしたらどこか別の場所で作ってきますので気になさらないでください。……できれば今日中にお渡ししたいので、作り終えてから後でもう一度伺います」
「わかりました。それではいつでも受け取れるように指示を回しておきます」
――とまあ、その後はマリナさんが服を持ってきたかと思ったら、その服を受け取ると半ば急かされるように教会を出ることとなった。
教会を出た後、少し歩いたところにあるカフェで一息つき、これからの事を思案する。
「さて、と。どこで作業をしたものかな?」
「一度孤児院に戻って部屋を借りてはいかがでしょうか?」
「んー、さっき出たばかりだからなあ。ちょっと出戻りみたいでバツが悪いかな」
つい先程と同じ内容で出戻りましたというのは、さすがに少々言いづらい。
実際にほぼ無策で挑んだのは、問題がなければそれで良し、もしダメでも一部屋くらいなら借りれるだろうという打算もあったわけで……。
「そうなると一度家に戻りますか?」
「いや、それはさすがに時間が勿体無いよ。……となると錬金術研究所、かな。ちょっと面倒だけど仕方がないか」
「確か先日、管理事務所の隣に併設された施設ですね。シャーロットがそこに出入りすることになったのは聞いています。が、面倒ですか?」
アリスが不思議そうに首をかしげて、僕の返答を待っている。
「……あそこにはフィリップがいるんだよ。質問攻めに合いそうで少々面倒かな」
「ああ、そういえばそのような話を聞いた気がします。あまり興味がなかったので忘れていました」
うん、そうだろうね。
そしてアリスは僕の面倒という言葉を額面通りに受け取っているように見える。生理的に合わないというやつなのだろうか?
僕としては現段階においてフィリップに関しては別に嫌っているわけではない。
フィリップの錬金術への熱意は非常に好ましい物があるし、知識を貪欲に吸収していくさまは見ていて面白い。
とはいえ、まだ彼は近代錬金術の入り口に立ったばかりである。つまり、現状彼から上がってくる質問はどれも近代錬金術においては初歩の初歩ばかり。
そんなこともあって、フィリップがそれなりの知識を身に付けるまではシャーロットに対応をお願いすることにしたわけだ。
フィリップも現状を満たせる知識を得られる事に不満は無いようなのだが、僕を見かけるとどうにも色々と聞きたくなってしまい我慢ができなくなるようで、その度に質問攻めになってしまう。
「今日は火急の要件があって訪ねる体で行こうと思う。面倒だけど彼の質問を回避することは出来ると思う。よし、そうしよう」
そう言って、善は急げとばりに目の前のカップに入っている紅茶を飲み干して立ち上がる。
「あ、まだ頼んだケーキが来てませんよ?」
あ、ごめんなさい。




