孤児院の子供達
なんとか間に合いました。
魔道具を目にしたジークの表情は驚愕の色に染まっていた。それほど大きなインパクトをこの魔道具から感じたということだろう。それにしても――
「また?」
「あ、いや、なんつーか……そのデザインなんだが、また凄いな」
ああ、そういうことか。
「今回は自分が身に付ける魔道具ではないからね。満足してもらえるようにデザインには以前から熟考に熟考を重ねていたものを使ったんだ」
漠然とした評価を行ったジークに対して僕は力強く答える事で、この魔道具に詰めたこだわりを伝えることにする。
今、言葉にしたように今回の魔道具は特にデザインにも力を入れたのだ。
自分用の魔道具を作る際には、どうしても機能を詰め込みすぎてデザインは二の次になってしまうことが多い。
そしてそれは特に厳しい環境下で使用される魔道具には顕著に現れる。
デザインを気にしていては四神に挑むことなど出来ないのだ。
しかしながら今回のように緊急性自体は低い、機能を絞ってつくり上げる魔道具であれば話は別だ。
どこに出しても恥ずかしくないデザインに仕上げる事は必然といえるだろう。
今回は特に微弱な呪いで気の流れを作りつつ抜き取るという性質上、どうしても密着度を上げる必要があった。そしてそのままではどうしてものっぺりとした見た目になってしまう。
そこを燃えるような赤色で統一し、さらに簡易な防具を追加しアクセントとしたことでシャープな陰影を作り出している。
「これを着るってことか……」
「そうだね、出来れば初回は一度着用したら丸一日は着たままで効果を試してほしい」
「ま、丸一日……だと!?」
このタイプの魔道具は時間帯による効果に差異があるかも知れないので、特に初回は正しく測定するために丸一日は着用してデータ取りをしてもらうことが好ましい。とはいえそれでは必然的に着用者に負荷を掛けてしまうのは間違いない。
「ジーク達は日頃から相当に鍛えているから問題は無いと思っていたのだけど……流石に丸一日連続着用の負荷はジークでも厳しいかな?」
「あ、いやそういうわけでは。……これを……丸一日、か」
「ジーク、男に二言はない」
「ぐ!? も、もちろんだぜ」
少々尻込みを見せていたジークを見て、先程まで沈黙を貫いてきたアリスがダメ押しの一言を発する。
そのダメ押しでジークは決心をすることが出来たようだ。
「それじゃあ、早速装着してみてくれるかい?」
「い、今すぐか!?」
「そうだね、できれば明後日の探索前には一度目の結果はほしいかな。休息時間を考慮すると早いに越したことはないと思う。善は急げってやつだね」
今回の魔道具は流石に探索に装備していく事は厳しいと言うこと、そしてあわよくば一度目の使用で気の操作を習得してくれれば、次回の探索時には非常に心強い。
「わ、分かった。だが今すぐは難しい、ぜ。今日中には装着することは約束する。……だから少しだけ時間をくれ」
「そうか、わかった。それじゃあエリーシャを待っている間、奥で子どもたちと遊んでいようかな。アリスはどうする?」
「私もご一緒します」
アリスは微笑みながら頷き、席を立った。
僕も席を立ちソファーに座ったままのジークに再び目を向けるが、一向に立ち上がる気配がない。
「ジークは?」
「ああ、少し考え事を……な」
ジークは机の上に置かれた魔道具を見つめているが、その表情は真剣そのものだった。
彼のことだ、きっと良い結果を出してくれるのではないかと思っている。
そんなジークに見送られて奥の部屋に向かう事にした。
相変わらず奥からは元気な子供達の声が聞こえてくる。日頃からジーク達が頑張っている証拠だろう。
子供達は年齢は五歳から十四歳、その種族も様々で人間や亜人、獣人と様々である。
成人が近い子供達は将来をどのように考えているのだろうか?
このまま孤児院の運営を支援して生活していくという道もジークたちは想定しているようだが、本人たちの意思は尊重したいとは言っていた。
閑話休題、僕はエリーシャの帰りを待つ間、エステルとアリスを交えて子供達と遊んでいた。
エステルは伊達に毎日ここで生活しているだけあって、子供達からは非常に人気があるようだ。
見た目がアリスたちと同じく十五歳程度であることも大きいのかもしれない。
色々な話を話して聞かせているエステルの周りには多くの子供達が囲んでいた。
エステルはセントラルにアクセスして様々な童話や神話を毎日子供達に話して聞かせているようで、子供達はそれを心待ちにしているようだ。
アリスの周りにも数人の子供達が集まって楽しそうにしている。
アリスは子供達に料理やお菓子の作り方を教えているようだ。
やはり食事をより楽しくするためには、美味しい物を作れるようになるのが一番だ。
特に十歳より上の女の子達は熱心に話を聞いている。
……さて、そして僕の周りはというと……一人の少女が熱心に話を聞いてくれている。
錬金術に興味がある子には実のある錬成の話を。錬金術に興味がない子には錬金術の魅力を説いていたわけだが、気が付くと僕の周りにはこの少女だけになっていた。
……一体何が悪かったというのだろうか?
やはりアリスやエステルのような綺麗な女性には敵わないということなのだろう。
この少女、名前をシャンナといい、年齢は九歳と若いが非常に知識の吸収が速い。
将来は領主の推し進めている近代錬金術の普及に携わりたいと、非常に立派な目標を持っている。
勤勉な性格のようなので、きっとこの子なら目標に向かってひた走っていくことだろう。
ふとシャンナから視線を外して、部屋の片隅にいる一人の少年に向ける。
この少年はどこの輪にも入らずに、部屋の隅で一人黙々と筋トレをしている。
浅黒い肌と耳が印象的で、その瞳は鋭く力強い光を灯している。
年齢は子供達の中では最年長の十四歳で、確か一週間後には十五歳になる予定の成人間近の少年である。
名前はランディス、以前本人に聞いた際には探索者になりたいと言っていた。
そのランディスが時折、チラチラとエステル達の集団に目を向けては目を逸らす事を繰り返していた。
少しだけ興味が湧いたので彼に話しかけることにする。
「シャンナ、ちょっと離れるね。さっき説明したところを勉強しておいて」
「はい、先生」
シャンナは元気よく返事をして、再び机に向かって集中を始める。
シャンナを自習させたのでランディスの近くに行って話しかけることにする。
「頑張ってるね、ランディス」
「バーナード兄。ああ、俺は探索者にならないといけないからな」
そう言ってランディスは強い決意を持った目でこちらに頷いた。
この決意には先ほどの目線が関係しているということなのだろうか?
「ランディスはどうして探索者に成りたいんだい?」
「俺は頭が良くないからな。身体を使って生きていくしか無いんだ」
「なにも探索者だけが身体を使う仕事ではないよ? 探索者は日々の探索で命の危険にさらされ続けなければいけない」
「……それはわかってるつもりだ。成人になったらすぐにでも探索者になってやる」
「いや、それは全然わかってないってことじゃないか」
思わずため息が漏れてしまう。
探索者は非常に過酷な仕事だ。傭兵として多くの実績を作ってきたジークや、各地を旅してきたエリーシャでも探索者としてデビューするだけでも非常に困難だった程だ。
間違っても成人間近の少年になんとか出来るものではないだろう。
いくらランディスが天性の身体能力を持つ黒豹獣人と人間とのハーフだからといってもそれは変わることはない。
素材は良いので時間を掛けて鍛え上げればきっと探索者になることは出来るとは思うが、今すぐというのは流石に無理があるというものだろう。
「今のランディスでは絶対に無理だよ。何故そんなに急ぐ必要があるんだい?」
僕がそう言い放った直後、こちらを睨んでいたランディスの視線が一瞬動いた。
――そういうことか。
僕はランディスの耳元に顔を寄せ、小さな声で一人の女性の名前を口にする。
「エステル」
その名前を聞いた瞬間、ランディスの目が大きく泳いだ。
俺、参上! 的な?




