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13.俺は大魔法使いである前に男だ

「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!」

私はベッドの上で土下座してルカスに謝罪する。まさか推しと対面しただけで倒れるとは思わなかった。生まれた時から一緒にいるお兄様に対してはかなりの耐性ができてたらしい。前世では推しに直接会う事は叶わなかったため、自分の身体がどんな反応をするのかなんて気にしていなかった。


「本当にな。今日の魔法物理学の授業は少し興味の惹かれるものだったのに。」

ベッドの隣に置かれた椅子に腰をかけて、そっぽを向いているルカス。寮の部屋に学生の男女が一緒に入ることは禁止されているため、今は従者スタイルだ。


「マホウブツリガク………。」

「俺くらいの魔法使いになると感覚でなんでもできてしまうからな。そういう理論的なことは考えたこともない。まあ新しい学問だな。」

とにかく私は今、心の底からホッとしている。間違いでもAクラスになんてならなくてよかったと。全く理解できる気がしない。ちなみに我がEクラスは日常で使う単語、引き算、日付けと曜日の学習に入っている。……ナメてんのか。そしてこの世界の曜日は前世のものと全く同じだ。余計に何の学習なのだか分からない。


しかし今日の授業内容には入っていなかったが、この世界では一年の長さが前世とは全く違う。ひと月30日というのはほぼ同じなのだが、一年に春の月・夏の月・秋の月・冬の月の四つの月しかない。よって一年は120日。ゲームの世界を元にしているからかもしれないが、あっという間に一年が過ぎ去ってしまう。


「入学式の日といい……ただの普通の日にこんだけ騒ぎを起こしてくるリディアも初めてだな。」

ルカスは窓の外に視線を向けたままポツリと呟いた。

「ちょっとは楽しい?」

私はルカスの顔を覗き込んでみる。


「はあ?」

ルカスは眉を寄せて私の方に顔を向けた。

「だって、今まで何十回もこの世界を……この時間を繰り返していたら退屈かなって。」

「ほう……じゃあお前は俺の退屈凌ぎのためにわざと騒ぎを起こしている、と。」

頬をひくひくと引き攣らせて睨め付けてくるルカスに、私はスーッと目を逸らす。

「いえ、そういう訳では……。」

怒らせたかもしれない。


「まあ………今回は時間の流れが早く感じるな。お前の世話する時間もあっという間に過ぎると思えば悪くない。」

ルカスは再び明後日の方向に顔を向けてしまう。

「何それ、やっぱり私と一緒にいるの楽しいって事?」

私は思わず頬を緩ませる。


「は? 飛躍しすぎだ! お前が訳のわからない事ばかり言ってるから退屈はしないって事!」

ルカスは険しい表情で私の思考を訂正しようとする。

「まあまあそんなに照れなくても。はっ……。」

いつの間にか、ルカスの顔から表情が抜け落ちている。


「調子に乗るなよ。本当に。」

今度こそ本当に怒らせてしまった。私はしゅんと首を垂れる。

「………ごめんなさい。」

私が死ねばルカスは再びあの本に閉じ込められて、この世界をやり直させられるのだ。ふざけている場合ではなかった。いや、別にふざけてる訳でもないんだけど。


「もうちょっと真面目に過ごします。」

「…………難しいな。お前にそんな顔をさせたい訳じゃないのに。」

ルカスはボソリと何か呟いたが、その声が小さすぎて私には聞き取ることができなかった。

「え、何?なんて言ったの?」

「何でもない。」

ルカスはため息を吐きながら首を振る。


「それだけ元気があればもう大丈夫だな。俺は自分の部屋に戻る。」

「ま、待ってよ!」

立ち上がったルカスの腕を思わず掴んでしまった。

「一緒に…………いてくれないの?」

一人になると昨夜の夢の恐怖が足元から這い上がってくる。まだ一人にはなりたくない。


「あのなあ………。」

ルカスは自分の額に手を当てて私を見下ろす。

「お前が俺に全てを捧げる覚悟があるっていうなら、一緒にいてやる。」

「え?」

私はルカスの言っている意味が分からずにコテリと首を傾げる。


「俺は大魔法使いである前に男だ……って言えば分かるか?」

ルカスは真剣な顔でじっと私を見つめている。赤くキラキラと光る瞳に吸い込まれそうだ。

「ルカスは男………。全てを捧げる………。」

私は操られたようにその言葉を繰り返す。しかし、そこでやっとその言葉の意味に気がつく。自分の顔が真っ赤になっていくのが分かる。


「そ、そんな覚悟微塵もありません! 一人で大丈夫です!」

そう叫んだ瞬間、ルカスは既に扉の取手に手をかけていた。

「覚悟ができたらまた声をかけてみろ。気が変わってなければ一緒に寝てやる。」

ルカスはふっと笑いながら反対の手で艶のある黒髪をかきあげる。


「結構です!」

私はバタンと閉じた扉に向かって思いっきり叫んだ。扉の向こうでルカスの笑い声が聞こえる。

「ーーーーーーーっ、何で子ども相手にあんな色気を出してくる必要があるのよ!」

私は涙目でただ閉まっている扉を睨みつけたのだった。

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