1.リディア・ベルディ
巧みにカットされたシャンデリア。どうやって作ればそんなに光り輝くのか分からない調度品。この日のために新しく用意したであろう各家門の意地と見栄とプライドの賜物であるキラキラしいドレス、タキシード。それらが合わさり、まるで御伽話のようにキラキラと煌めく会場。
「うわぁー、綺麗。」
私リディア・ヴェルディは、王宮で行われる新年の祝賀会に、生まれて初めて出席している。昨年デビュタントは終えているが、これほど大きな式典に参加するのは初めてである。
「リディ、あまり離れてはいけないよ。迷子になってしまうから。」
今日もエスコートしてくれたお兄様に腰を引き寄せられる。
「まあ、お兄様。私もう15歳の立派な淑女ですわ。迷子になったりしません。」
「そうだよ、立派な淑女だから心配なんだ。」
「揶揄っているんですか?」
頬を膨らませて抗議する。それを見たお兄様は困ったように眉を下げて笑う。
「兎に角、1人で行動しない事。いいね?」
そう言って私の頭を優しく撫でる。
「はあい。」
全く腑に落ちないが、お兄様を困らせたいわけではないので素直に返事をする。
そういえばお父様とお母様はどこにいるのかしら、と辺りを見渡す。すると、何やら会場の中に人だかりが出来ていて、その中心にいるのがお父様とお母様だと気がつく。
「毎度のことながらすごいな。流石、ヴェルディ伯爵と公私ともにパートナーの母上。」
ヴェルディ伯爵家は巨大商社を経営する家門として、今では国内のみならず国外にまで名を馳せるほどの有名貴族である。しかし私が産まれるまでは、ただのしがない男爵家であった。それがたった15年ほどの間で爵位を二つも上げ、ヴェルディ商社も大成長を遂げている。一体何があったのかというと……。
まずは15年前、私が赤ちゃんの時に遡る。遊んでいるおもちゃに赤ちゃんの私が魔力を込めて自動で動くおもちゃに変えてしまった所、それを見た両親が物に魔法を付与させるという新しい技術を発見した。すぐに特許を取得し次々と便利グッズを生み出すと、爆発的な人気となり、それらが今では国中で当たり前のように使われている魔道具となっている。魔道具の普及により国民の生活の質は大幅に向上し、国王陛下にも大変感謝され、とんとん拍子に陞爵となり裕福なヴェルディ子爵家が出来上がったそうだ。
さらに私が10歳の時。これから一人で行動する事が多くなる娘を心配した両親が、『非常事態を感知すると対になっているアクセサリーに知らせが届き、その居場所まで転移できる防犯アクセサリー』を開発した。これがまたもや記録的な大ヒット商品となり、ヴェルディ商社は更に収益を拡大する。親が子どもに持たせるのはもちろん、恋人同士でのプレゼントや貴族や王族の防犯対策にも使用され、国全体での犯罪件数の減少に繋がったという。この功績が讃えられて、ヴェルディ家は更に陞爵を賜り今では伯爵家となっている
お兄様は他人事のように言ったが、確かに両親は伯爵邸にいる時とは全く別人のようだ。
「我が両親ながら尊敬します。」
家ではただの私たち兄妹を可愛がる親バカ夫婦なのだ。
「まるで同じ顔した別の親戚なのではと錯覚してしまいますね。」
私はふふっと笑いながら両親の様子を眺める。
しかし私を取り巻く環境は何ともお伽話のようである。私はこの世界が多分小説やゲームなどが元になっている世界だと推測している。しかし、前世の私は小説も読まなかったしゲームでも遊んだことがなかったため、この世界の元となっている作品が分からない。多分知らないと思う。私の興味はアイドル一本。どっぷりとアイドル沼にハマっていたため、他のことにはめっきり疎い。そして、私には前世の記憶がある。説明の順番を間違った。
「やあ、リオン。今日は可愛い姫を連れているね。」
背後から素敵な声が聞こえてきたため、リディアはクルリと身を翻す。あ、ちなみにリオンはお兄様の名前である。
「アーサー。紹介するよ、私の妹のリディアだ。」
声をかけてきたのは我が王国の王太子、アーサー殿下だ。お兄様が紹介してくれた。
「お初にお目にかかります。」
私はカーテシーで挨拶をする。
「リディアはこの春から学園に入学するんだ。よろしく頼むよ。」
お兄様は3歳差のため、私とは入れ替わりで卒業してしまうが、アーサーは確か2歳年上だったはずだ。
「そうか、新入生だね。学園で会えるのを楽しみにしているよ。」
アーサーはリディアに向かってふわりと微笑んでくれた。さすが、お伽話の世界。アーサーはめちゃくちゃイケメンだ。ちなみにお兄様ももちろんイケメンであり、私リディアも言わずもがな絶世の美少女である。
「んーーーーーーーー。」
お兄様と世間話を続けるアーサーを眺めながらリディアは誰にも聞こえない声で唸っている。
「アーサーもイケメンだけど………私のタイプではないわね。」
言ってから心の中で、『自分は何様だよ。』と苦笑いで突っ込む。しかしそれも仕方のない事。麗しのお兄様と並べばどんな殿方でも勝てっこないんですもの。私は視線の先をお兄様に変えて時間を潰す事にした。




