# 第五話 「消えた少女の名前」
# 第五話 「消えた少女の名前」
翌朝。
月夜荘はいつも通り静かだった。
静かすぎるほどに。
鳥の鳴き声は聞こえる。
風の音も聞こえる。
なのに。
住人たちの声だけが聞こえない。
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修司は昨夜のことを思い出していた。
**「一人の女の子が消えたんです」**
美月の震える声。
そして201号室。
あの部屋には何かがある。
そう確信していた。
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昼過ぎ。
修司は再び住人たちを訪ね歩いた。
最初に話を聞けたのは、
二階に住む女性の高橋だった。
五十代くらい。
昔から月夜荘に住んでいるらしい。
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「陽菜ちゃん?」
その名前を聞いた瞬間。
女性の表情が曇った。
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「……懐かしい名前ね」
「知っているんですか?」
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高橋は少し迷った後、
小さく頷いた。
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「優しい子だったわ」
「誰にでも笑顔でね」
「このアパートの人気者だった」
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修司はメモを取る。
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「どんな子だったんです?」
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高橋は少し笑う。
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「いつも走り回ってた」
「困ってる人を見ると放っておけない子」
「まるで太陽みたいだった」
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だが。
その笑顔はすぐ消えた。
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「でも……」
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高橋は窓の外を見る。
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「突然いなくなった」
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修司は息を呑む。
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「警察は?」
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「探したわ」
「みんな探した」
「でも見つからなかった」
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沈黙。
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そして。
高橋は小さな声で言った。
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「それからなのよ」
「みんなが壊れたのは」
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修司は眉をひそめる。
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「壊れた?」
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「誰かが自分を責めた」
「誰かが他人を責めた」
「そして誰も話さなくなった」
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修司は礼を言って部屋を出た。
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夕方。
中庭。
ベンチに座る美月の隣へ向かう。
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「聞いてきた」
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美月は黙ったまま空を見る。
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「陽菜って子」
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その瞬間。
美月の肩が震えた。
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修司は気付く。
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「知ってるんだな」
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長い沈黙。
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やがて。
美月は静かに答えた。
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「知っています」
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「どんな関係なんだ?」
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美月は唇を噛む。
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そして。
今にも泣きそうな顔で言った。
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「陽菜は……」
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風が吹く。
桜の葉が揺れる。
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「私の姉です」
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修司は目を見開いた。
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「姉?」
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美月は頷く。
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「五年前に消えた陽菜は」
「私のお姉ちゃんです」
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その言葉は重かった。
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「ずっと探してるんです」
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美月は空を見上げる。
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「生きてるって信じて」
「帰ってくるって信じて」
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声が震える。
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「でも……」
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ぽろり。
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涙が落ちた。
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「最近は分からなくなってきたんです」
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修司は何も言えなかった。
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どれだけ苦しかったのか。
どれだけ待ち続けたのか。
想像するだけで胸が痛んだ。
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その時だった。
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カラン……
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どこかで音がした。
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二人は振り向く。
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音は二階。
201号室の前からだった。
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誰もいない廊下。
誰もいないはずなのに。
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床には一枚の紙が落ちていた。
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修司は急いで拾う。
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そこに書かれていたのは。
たった一行。
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**「ごめんね、美月」**
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美月の顔から血の気が引く。
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その文字は。
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「……うそ」
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震える声。
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「これ……」
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修司が見る。
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「どうした?」
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美月は涙を浮かべながら言った。
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「お姉ちゃんの字です……」
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月夜荘に残された謎のメッセージ。
それは希望なのか。
それとも――。
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### 次回
# 第六話
## 「陽菜からの手紙」
201号室で見つかった一枚の紙。
それは失踪した陽菜の筆跡だった。
修司たちは部屋の中を調べる決意をする。
だがそこで見つかったのは、
誰も知らなかった陽菜の秘密――。




