# 第三十二話 古い管理人 「……このマンション、壊されるのか?」
# 第三十二話 古い管理人
「……このマンション、壊されるのか?」
405号室の入口。
知らない老人が立っていた。
帽子を深く被り、
古い作業着を着ている。
背は少し曲がっているのに、
妙な存在感があった。
「…………」
全員が止まる。
ひまりなんて、
また俺の後ろへ避難していた。
「誰ぇ……?」
老人は静かに部屋を見回した。
猫。
機材。
住人たち。
そして。
ゆっくり口を開く。
「……賑やかになったな」
その声は、
どこか懐かしそうだった。
すると。
三枝さんが目を見開く。
「……え?」
老人を見る。
数秒固まる。
そして。
「加賀谷さん……?」
空気が変わった。
俺が聞き返す。
「知り合いですか?」
三枝さんは驚いたまま頷く。
「前の……管理人さんよぉ」
「え?」
全員声が揃った。
前の管理人。
つまり。
宮坂さんより前。
春風マンションを知ってる人。
加賀谷と呼ばれた老人は、
静かに頷いた。
「久しぶりだな、三枝さん」
「生きてたのねぇ……!」
さらっと重い。
加賀谷は苦笑した。
「勝手に殺すな」
その瞬間。
少しだけ空気が和らぐ。
でも。
老人の目はすぐ、
部屋を見回した。
「……壊されるって聞いた」
低い声だった。
俺は頷く。
「検査次第で……」
すると。
加賀谷はゆっくり405号室へ入ってきた。
猫たちが、
自然に道を開ける。
まるで、
知ってるみたいに。
紗雪が小さく呟く。
「……猫、懐いてる」
確かに。
タマですら逃げない。
加賀谷は、
古い壁をそっと撫でた。
「……ここはな」
ぽつり。
「昔から、行き場ない奴が集まる場所だった」
静かな声。
「家族と喧嘩した奴」
「仕事辞めた奴」
「夢諦めかけた奴」
「みんな、ここで少し休んでった」
かなめが、
小さく目を伏せる。
怜司も黙って聞いていた。
加賀谷は続ける。
「だから宮坂にも言ったんだ」
『追い出すより、
帰ってこられる場所を作れ』ってな」
その言葉に、
結衣が小さく息を呑む。
まるで。
宮坂さんの手紙と、
繋がってるみたいだった。
その時。
加賀谷が、
突然俺を見る。
「坊主」
「は、はい」
「お前、管理人向いてるぞ」
「え?」
予想外すぎた。
俺が間抜けな顔をすると、
加賀谷は鼻で笑う。
「住人のために動いてる顔してる」
「いや俺、毎日振り回されてるだけですけど……」
「それが管理人だ」
妙に説得力があった。
すると。
ひまりがニヤニヤする。
「管理人、認められてるじゃん」
「やめろ照れる」
かなめまで少し笑った。
その時。
加賀谷が真顔になる。
「……だが」
空気が変わる。
「検査は甘くねぇぞ」
全員静かになる。
加賀谷は窓の外を見る。
古い廊下。
ひび割れ。
錆びた手すり。
「特に地下」
「っ……」
俺たちは顔を見合わせた。
地下。
あの場所。
加賀谷は低く言った。
「地下に、まだ隠してるもんあるだろ」
その瞬間。
三枝さんの顔色が変わった。




