# 第三十話 春風マンション住人会議
# 第三十話 春風マンション住人会議
「春風マンションは空腹禁止よぉ」
もはや絶対ルールだった。
405号室。
配信者。
社畜。
漫画家。
大学生。
猫。
そして宅配会社の女性。
カオスにも程がある。
女性――中村あかりは、
おにぎりを受け取りながら困惑していた。
「……なんなんですかここ」
「俺も時々わからん」
管理人なのに。
あかりは小さくお礼を言って、
おにぎりを一口食べた。
その瞬間。
「……おいしい」
顔が一気に緩む。
三枝さん、
めちゃくちゃ満足そう。
怜司がぼそっと言った。
「この味噌汁で住み続けてるまである」
「家賃払え」
麗華が即ツッコミ。
その時。
パチッ。
突然、
405号室の電気が消えた。
全員停止。
「…………」
嫌な沈黙。
ひまりが震える声で言う。
「また?」
もう条件反射で怖い。
しかし。
次の瞬間。
廊下側から、
大声が響いた。
「ブレーカー落ちたぁぁぁ!!」
「……あ」
全員、
一気に現実へ戻る。
声の主は、
二階の住人・田所のおじさんだった。
春風マンション、
古すぎてよく停電する。
かなめが呆然と呟く。
「安心したような、
したくないような……」
わかる。
すると。
俺のスマホが震えた。
管理会社からだった。
嫌な予感。
出る。
「はい、春風マンション管理人です」
『あー高瀬くん?』
担当の軽い声。
『ちょっと問題起きてさ』
問題しか起きてない。
『来月、建物検査入るから』
「……はい?」
『古いからねぇ。
下手したら改修命令かも』
空気が止まる。
「え」
『場合によっては、
住人一時退去かもね〜』
ブツッ。
通話終了。
405号室が静まり返る。
誰も動かない。
ひまりが最初に声を出した。
「……え?」
かなめも青ざめる。
結衣が不安そうに俺を見る。
怜司は眉をひそめた。
紗雪まで目を開いている。
つまり。
春風マンションが、
なくなるかもしれない。
その時。
にゃー。
タマが、
静かな部屋を歩いていく。
何も知らないみたいに。
でも。
その小さな鳴き声が、
逆に胸へ刺さった。
ここは、
みんなの居場所だった。
ボロくて。
変で。
騒がしくて。
でも。
確かに帰ってこられる場所だったんだ。
かなめが小さく呟く。
「……やっと」
俯いたまま。
「ちょっと安心できそうだったのに」
その声が、
妙に苦しかった。
すると。
結衣が、
そっと拳を握る。
「……守りましょう」
「え?」
結衣は、
真っ直ぐ前を見ていた。
「春風マンション」
その言葉に、
全員が少し驚く。
普段おどおどしてる彼女が、
初めて強い声を出したからだ。
麗華が静かに聞く。
「どうやって?」
結衣は少し黙る。
それから。
「……みんなで」
シンプルな言葉だった。
でも。
その瞬間。
不思議と、
誰も笑わなかった。




