第十五話 地下にいた少女
第十五話 地下にいた少女
「……そこ、開けちゃダメ」
静かな声だった。
地下倉庫の冷たい空気の中、
びしょ濡れの少女は、
じっとこちらを見ている。
長い黒髪。
白いワンピース。
裸足。
完全に幽霊だった。
「む、無理ぃぃぃ!!」
ひまりが俺の背中へ飛びつく。
「修司くんなんとかしてぇ!!」
「俺も怖いんだよ!?」
結衣も青ざめている。
でも。
なぜか、
少女から“悪意”は感じなかった。
ただ。
すごく悲しそうだった。
麗華が警戒しながら聞く。
「……あなた、誰?」
少女は少し黙る。
それから。
「……住んでる」
「地下に!?」
俺が叫ぶ。
いや無理だろ。
すると。
榊が目を細めた。
「……お前、まさか」
少女は榊を見る。
そして。
少し困ったように笑った。
「久しぶり、榊さん」
「知り合い!?」
空気が変わる。
榊は頭を抱えた。
「生きてたのかお前……」
「え?」
俺たち全員が固まる。
生きてた?
幽霊じゃない?
少女は、
申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい……驚かせちゃって」
「いや驚くわ!!」
ひまりが泣きそう。
少女は慌てて説明した。
「地下、雨漏りしてて……修理してたんです」
「なんで!?」
「大家さんに頼まれて……」
そこで俺は気づく。
少女の横。
工具箱。
バケツ。
配管テープ。
めちゃくちゃ現実的。
「……人間?」
「はい」
「よかったぁぁぁぁ!!」
俺、その場にしゃがみ込んだ。
寿命が削れた。
少女はぺこりと頭を下げる。
「えっと……私、橘すずです」
二十二歳。
設備点検のアルバイトらしい。
「夜しか来れなくて……」
「タイミング最悪すぎるだろ!」
すると。
結衣が小さく笑った。
「……よかった」
その笑顔につられて、
少し空気が和らぐ。
ひまりもへなへな座り込む。
「もう怖いの嫌ぁ……」
「お前今日だけで何回叫んだ?」
「七回くらい!」
多い。
その時。
すずが、
地下奥の木の扉を見る。
表情が少し変わった。
「……でも」
静かな声。
「そこ、本当に開けない方がいいです」
空気が止まる。
「え?」
俺が聞き返す。
すずは木の扉を見る。
古い南京錠。
立入禁止の貼り紙。
「この前、地下点検した時」
「中から音したんです」
「…………」
ひまり、再び涙目。
「やっぱ帰ろうよぉ……!」
だが。
榊が眉をひそめる。
「猫じゃなくて?」
「違います」
すずははっきり言った。
「誰かいるみたいな音」
地下が静まり返る。
ピチャ。
どこかで水が落ちる。
その時。
カタン。
木の扉の向こうから、
小さな音がした。
全員硬直。
「……っ」
カタン。
もう一度。
今度ははっきり。
中から。
「おいおいおい……」
俺の声が震える。
麗華が低く言う。
「……誰かいる?」
返事はない。
でも。
次の瞬間。
ガチャ。
誰も触っていない南京錠が、
ゆっくり揺れた。




