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八重咲の勇者たち ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第二部 3章 神殺し 編(side)
77/83

2-9

 ―ほしいのか、力が?


 地の底から響くような、(うな)り声。辛うじて人語だと判別できるが、そこには獣の唸り声が混じっている。


 ガクは、息を飲む。


 ―なんだ……今の声


 ガクが周囲を見渡すと、そこは薄暗い屋敷の中だった。ここに来るまでの記憶が、完全になくなっていた。


 オレンジの灯りが(あや)しく輝き、闇の中に浮かんでいる。紙でできた四角い箱に、ロウソクが入れられているのだ。闇のなか、等間隔で、その箱が置かれている。


「あの声は……それに、ここは……一体」


 ガクは、困惑しながら、箱を手に取り、進む。


 小さなオレンジの光が、家屋を照らす。木造りの瀟洒(しょうしゃ)なデザイン、見たことのない装飾。ヒノキだろうか、爽やかな匂いがする。


 ―大陸のものではない。異国のものだ


 ガクは、どこへ向かうでもなく、進む。廊下の床は、磨かれ、光沢を放っている。それも木で作られていた。歩くたび、みしり、ぎしり、と鳴る。


「夢……なのか?」


 ガクは、ロウソクに手を伸ばし、その熱さに身体を震わせる。


 数分進み、ガクの前には、奇妙な扉。押すのではなく、滑らせることで開く特殊なデザイン。足元の床も、枯れ草を編んだ奇妙なデザイン。


 部屋を開けると、枯れ草の香ばしい匂いがした。


 ―木の床が廊下で、部屋のなかは、この枯れ草になるのか?


 それから、一時間近く歩き続ける。だが、廊下は続き、似たような部屋が現れ続ける。まるで永遠に続いているかのような。


 ―おかしい。こんな建物が現実にある訳がない


 それから、また一時間近く歩く。歩くスピードを一定にするのも疲れ、もう時間感覚がなくなり始めていた。


「誰か!」


 ガクは、叫ぶ。夢ならさめろ、と剣を振りまわす。だが、何も手ごたえがない。


「落ち着け」


 芯のある低い声がし、ガクは息を飲む。


 闇の奥から、丸い「何か」が現れる。まるで、雪だるまのようなシルエット。


 ―なんだ……異能生物か?


 ガクが剣を構えると、


 球体は止まり、自分の姿を炎に照らさせる。よく見ると、植物の球根や、サンショウウオを連想する、丸く太いデザインの金属甲冑フルアーマー


 騎士は、北部同盟騎士団のエンブレムを見せ、


「私は、北部同盟騎士団のサイゴウ。ガク君、君の仲間だ。落ち着いてくれ」


 サイゴウと名乗る騎士は、ガクの肩を優しく触る。


 ―なんだか、大きなサンショウウオと話しているみたいだ


 ガクは、肩から、ふっと力が抜けるのを感じる。


「ここは……なんなんですか?」


「数分歩いただけなので、確信はないが……おそらく、これは、《心髄共鳴》が作り出した幻だ」


 サイゴウは、持っているクロスボウで、扉に触れる。


「フスマ……タタミ……極東で見たことがある。この空間を作ったのは、敵の異能者だ」


「敵……《異能殺し》ですか?」


「分からん。アイメルトの残党かもしれない。どちらにせよ、何か目的があって、ここに私たちを閉じ込めた」


「その首謀者もここに?」


「可能性はある。だが、不可解な点もいくつかある」


 ガクが、サイゴウを見つめると、


「《心髄共鳴》で、ここまで強力な幻覚を作り出すのは難しい。基本的には、現実の痛み……つまり、知覚によって阻害され、現実に引き戻されるからだ」


「じゃ……じゃあ、なんで、僕たちは目覚めないのですか?」


 サイゴウは、眼が見えているかのように、周囲を見る。だが、その眼は、仮面で完全に隠れている。


「可能性が一番高いのは、我々は眠りについているか、昏睡状態にあるか。どちらにせよ、意識のレベルが低い可能性がある」


 ガクは、生唾を飲み、


「ほ、他の人との合流は?」


「ガク君が初めてだ。おそらく、この部屋は何十個もあり、部屋と部屋の位置関係が一定時間ごとにシャッフルされている」


「じゃあ……永遠に端に着かないこともある?」


「永遠に、端にとどまり続ける可能性もある」


 ガクの背中に氷が当てられたような感触が襲う。

 読んで頂きありがとうございます!

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