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八重咲の勇者たち ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第一部 2章 浅紅の居合い娘 編
7/79

8話

挿絵(By みてみん)


1


 曇天どんてん、黒々とした森、汚れた甲冑―そこが、ガクのえらんだ世界だった。


 ガクは、森のなかにある野営地テントで目を覚ます。


 野営地のなかは、獣のようなにおいがする。


 ガクが、となりを見ると、大男たちが眠っている。全員が巨大な剣(ツヴァイヘンダー)と矢を持ち、顔には刀傷がある。


 敵が攻めてくると指示を受け、数週間が経っていた。ここで潜伏アンブッシュし、奇襲を行う手はずになっていた。


「ここに居たんじゃ、もうからねぇ」


 中年の男が、目を覚ます。あくびをしながら愚痴ぐちをいう。歯が抜け、顔は泥で汚れている。


「はやく、自由になりてぇなぁ」


 男は、卑猥ひわいな笑みをうかべる。彼は、この部隊の騎士団長だ。だが、騎士団とは名ばかりの傭兵の集まりだった。


 傭兵は、いくさをしながら、略奪と凌辱を繰り返していた。貴族同士の戦争が大陸全土にまで影響をおよぼし、彼のような傭兵を大量に生み出した。


 ふと、遠くの野原から声がする。男が走ってくるのが見えた。髭の生えた痩せた男だ。全身が泥と血で汚れている。


「あいつ……あんなに慌てて、もしかして」


 男の一人が起き上がり、剣を取る。


「おい、行くぞ、出来損ない」男がガクを恫喝どうかつする。


 ガクも剣を持ち、目を伏せる。


 髭の男が簡易テントにたどり着き、ぜいぜいと息を切らせている。


「……した」


 走ってきた髭の男が懸命に何かを言おうとする。


「どうしたんだよ」


「かい、かい、か……壊滅したんだ」


 髭の男がしぼり出すように言った。


「何が?」


「アイメルト家異能騎士団が壊滅した……本隊は、指揮系統を失ってる……生きてるのは、俺達だけだ」



2



 大きな音がし、ガクは目覚める。


 ガクは、とっさに周囲をみわたす。そこは、泥に汚れた野営地ではない。ガクは馬車にゆられていた。手元には、医療の本。


 馬車は、森のなかを進んでいる。日差しも良く、のどかな雰囲気だった。


「また、あの夢か……」


 ガクはつぶやき、震える右手を見つめる。


 2年前のあの日、全てが終わり、全てが変わった。今でも忘れられない。それが呪いのように、自分をしばっていた。だが、それは今日で変わるかもしれない。


 ガクは、ふと来た道を振り返る。本当に、あそこを飛び出してよかったのだろうか。


 ―いや、これで良かったのだ


 ガクはフェルグスの横顔を見る。


『お前は、出来損ないなんかじゃない』


 フェルグスの言葉が思い出される。彼を信じ、彼に着いて行くことを決めたのだ。


「着いたぞ!」


 森を抜け、着いたのは、防壁に囲まれた巨大な街―中央区セントラルだ。中央区セントラルは大陸全土を支配する「北部同盟」の主要都市である。


 ガクは、ちらりとフェルグスを見る。この大男は、北部同盟の当主であり、この大陸の中でも最も権威のある騎士の一人なのだ。


 ―大変な人を救ってしまった


 ガクは生唾を飲み込む。


 ガクを尻目に、フェルグスは中央区へ入っていく。街のなかは、活気で溢れていた。大通りは商店が立ち並び、町民が出歩いている。


 街は、ほがらかな雰囲気だが、至る所に、甲冑を着た騎士が居た。


「フェルグス様」


 騎士は、ひざを折り、礼をする。


「ご無事で何よりでした」


「おいおい」


 フェルグスは照れ、騎士を立たせる。


 騎士は、ガクの方を、ちらりと見つめる。視線に気づいたフェルグスが、


「俺の命の恩人、ガクだ。騎士団に入団することになった。手続きを頼む」


「了解です」


 ガクは、騎士に連れられ、北部同盟騎士団の事務所へ向かう。各種手続きを終えると、何か聞きたいことがないかたずねられる。


 ガクの脳裏に、離れ離れになった仲間たちの顔が浮かぶ。


「人を探しているんですが……」


 ガクは、おそるおそる聞く。


「特徴が分かれば、もしかしたら分かるかもしれません。ここは交易が盛んですから」


「一人目は、長い髪の華奢な女の子で、話すときに少し詰まるところがあって……ベルタと言うんですけど」


 騎士は仲間に聞き、首をふる。


「そうですか……」


 もう一人、知らないかをたずねようとしたが、どうせダメだろう、と諦めた。「すごい」とか「えらい」が口癖の元気な女の子、そんなのはどこにでもいる。


 事務所を出ると、フェルグスが待っていてくれた。


「今日から、ここの寮を使うと良い」


 フェルグスに案内されたのは、小さな宿屋だ。二階建てで、作りは丈夫だったが、ボロボロだった。


「少し……ボロいが、住めば都だ」


 フェルグスは、部屋に案内する。小さな机と、ベッド、棚と備品入れがある小さな部屋だった。だが、それでも十分だった。


「ありがとうございます」


「手続きで疲れただろう。今日はゆっくり休め」


 フェルグスが出ていくと、ガクはベッドに横になる。そして、震える右手を見つめる。


 ―僕は、ここで変われるのかな


 ガクは大きく伸びをし、眠りについた。

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