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6話

 森の奥から、足音が聞こえる。


 ガクが、ハッとして、眼をしばたたかせると、暗闇の中にフェルグスが見えた。異能力(スキル)の再現は成功したが、余りに疲れ、寝てしまったようだった。時間にして、数分―


「この剣を使うんだ。《加速》する世界では、物の耐久性が著しく落ちる」


 そう言って渡されたのは、黒い剣。針のように鋭く、刀身は細い。非情に軽いが、焼き入れがされており、堅牢であった。ただの鉄の棒を剣の形にしただけ、と言うような無骨さだ。


 ガクは剣を持ち、立ち上がる。その近くには追従(ついじゅう)するように植物の蔦(つた)。


 乱暴に扉が叩かれ、ガクは中が見えないように開ける。すると数人の傭兵が立っていた。


 一人が長剣(ロングソード)で肩を叩きながら、


「ここらへんで、落ち武者を見なかったかい?」


 ガクは首を振り、外へ出る。周囲を囲むように6人の傭兵が立っていた。2人が弓を持ち、他は剣を抜いていた。


「おばばが寝ているんだ。小声で話してくれ」 


 ガクは言い、背中に剣を隠す。


 傭兵はドスの効いた声を出し、


「見たのか、見ていないのかどっちだ」


「見ていません」


 ガクが声を荒げる。


「そうか……なるほど」


 傭兵は、フン、と鼻息を放つ。しかし、納得していないようで、扉を開けようとする。


 ガクはそれを止めようとする。


「何か隠しているのか」


 傭兵は低くドスを効かせ、声を上げた。その声と共に、弓兵が弓を構え、他は剣を構える。


 植物が感知した匂いがガクにも共有される―戦闘前の臭い。アドレナリンが充満し、ヒトが獣に戻る前のにおい。


「邪魔をするなら斬るぞ」


 傭兵の脅(おど)しに、ガクも声を荒げ、


「こちらこそ、小屋に入るなら斬る」


 傭兵たちが剣を構え、ガクを睨(にら)みつける。一触即発だった。


 ガクにとって、実戦はこれが初めてだ。肌を冷たい汗がつたう。


 ―今は《加速》だけを使うんだ


 ガクは呼吸を整える。そして、静かに剣を構える―対人戦に使われる、片手で剣を持ち上げた型。


 傭兵の一人が突っ込んでくる。


 ガクは神経を研ぎ澄ませ―《加速(アクセラレーション)》


 周囲の音が消える。


 傭兵の動きが、緩慢(かんまん)に見えた。剣を振り上げる筋肉の動きが見えた。ガクは動こうとするが、まるで水の中にいるようだ。周りの空気が泥のように、へばり付き、あまりにも重い。


 ―だから、こんなにも軽い剣を使っているのか


 ガクは歯噛みし、動き続ける。すると少しだけ動ける。片手を剣に添えるようにし、刃先を傭兵の喉元に滑り込ませる。


 ざぐっ、と肉が切れる音がし、気が付くと、周囲の音が戻っている。


 鈍(にぶ)い音がし、ガクの背後で何か重たい物が倒れる音がする。


 聞こえるのは、自分の荒い呼吸。黒い刀身から、血が滴(したた)る。どっどっ、と頭痛がするほど、心拍が鳴っている。


「き、き……消えた」


 弓兵の一人が呻(うめ)き声を上げる。


 《加速(アクセラレーション)》


 ガクは体勢(たいせい)を低くし、弓兵に接近。草木がなびくのが、ゆっくりと見えた。そして、射(い)られた矢が羽根を揺らしながら、回転している。それを紙一重で避ける。


 ひゅおん、と鋭く止めたい音がする。気が付くとガクは弓兵の手前にいた。まるで瞬間移動だった。


 ガクは容赦なく、弓兵の鎧の隙間に剣を差し込む。弓兵が音をたて、崩れ落ちる。


「バケモンだ……」


 他の4人は悲鳴を上げ、逃げていく。


 ガクは、その場で倒れた。体中が熱を発し、節々が激痛を発していた。鼻から温い液体が零れ、ごずっと鈍い音と共に世界が暗転する。

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― 新着の感想 ―
こんばんわ! 感想失礼します。 1話1話が短くてスルスル読めました。 植物のスキルも突き詰めれば強いんですね……。 これからも応援してますね〜
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