16話
翌日、稽古場に顔を出す。すると、皆が視線を泳がせている気がした。当たり前だ。アイメルト家は、かつての宿敵なのだ。
エッカルトも、ぶっきらぼうに挨拶してきた。騎士の指導も、いつもよりも、厳しい気がする。
エッカルトの打ち込みは、いつにも増して激しかった。ガクは倒れ込み、うつむきそうになる。
「んでだよ……」
エッカルトの小声が聞こえる。
「なんでもっと早く話してくれねえんだよ」
エッカルトは拳を握り、震えていた。
「ごめん……やっぱり、僕、出てい―」
木刀を置き、稽古場を出ようとする。
「そんなこと、俺は気にしねぇ!」
エッカルトの声が、背中に届く。ガクの脚が止める。
「俺達……友達だろ。なんでも……話してくれよ。それだけだよ」エッカルトの声に、わずかに涙声が混じる。
「ごめん」
ガクはそう言い、稽古場の扉に手をかける。
「明日も来いよ」
ガクは、部屋にも戻れず、丘の上で、日が暮れていくのを眺めていた。
フェルグスに真実を伝え、ここで生きていくと決めたはずだった。それなのに、まだ迷っていた。
アイメルト家の異能研究所に行ったのが間違いだったなんて、分かっている。でも、間違いだと認めたら、ベルタの死は。大切な仲間の死は無駄になってしまう。でも、過去を認めることは出来ない。
草を踏む足音が聞こえ、ガクは振り返る。
「ここに居たのか」
かすれた声がしたと思うと、師匠の老騎士が立っていた。杖をついて、びっこを引きながら歩いている。
「過去のことか?」掠れた声で、老騎士が言う。
ガクは、頷く。泣きすぎて、眼がひりひりとした。
「これは儂の独り言だ」
そう言い、老騎士は話し出す。
「どんな過去も、それを選んだ自分は正しかったと思いながら、生きていくしかない。とは言うが、難しい」
老騎士は、滔々と、
「客観的に見れば、間違った選択肢もあったかもしれん。だが、過去の自分はそれしか選べなかったのだという事実もまた受け入れなければならん」
「でも……!」
涙が溢れて来る。分かっている。アイメルト家騎士団が普通じゃない組織だったなんて百も承知だ。それに命を懸けた自分たちも愚かだったと、どこかで理解している。でも、それを認めれば、それを認めたら―
「過去は、過去だ。現在や、未来とは関係ない。同じ軸の上にあるように見えるが、全く別の場所にある」
「え……」
「過去を、そこに在るものとして、そこにあっても良いものとして受け入れる。それで十分じゃないかと、儂は思う」
そこにあるもの。そこにあって良いもの―
老騎士は静かに立ち上がり、
「後は、お前さんが決めるんじゃ」
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