14話
ガクは上の空で稽古をしていた。チユキのことが頭から離れなかった。
ばしっと叩かれ、ガクは我に返る。
「また考え事か?」
エッカルトが、顔を覗き込んでいた。
「いや、違うよ」
「違くねぇな」エッカルトは、竹刀を地面につき、支え棒にして、
「あの女の子のことだろ?」
エッカルトは、ニヤニヤとした表情を浮かべる。二富士、一茄子だもんなぁ、と腕で卑猥な形を作る。
ガクの脳裏に、チユキの姿が浮かぶ。心臓が跳ね、呼吸が荒くなる。
「訳アリ、みたいだな」
エッカルトの声で、ガクは我に返る。エッカルトは、ため息をつき、
「ここには色々な奴がいる。怪物に襲われて家族を失ったやつ、戦役で父親を失ったやつ……誰もが色々な物を抱えている。きっと、一人くらいは、お前の悩みを受け止められる。悩みがあるなら、俺か、フェルグスさんに言えよ。その……」
エッカルトは鼻の下をこすり、
「仲間だろ、俺達」
「そうだね……」
ガクは、周囲を見つめる。皆が苦しみを分かち合い、励まし合いながら稽古を続けている。僕も、ここに居たい。
フェルグスに、真実を話そう。ガクは決意し、稽古場を出る。
すると、ソプラノの声がする。
「お~い」
声の方を見ると、チユキが立っていた。
「どうしたの? きょとんとした顔して」
「いや……会うと思わなくて」
「私も、北部同盟の見習い騎士だからね~」
そう言って、チユキは、耳にかかった髪を耳にかける。耳横の髪に赤いリボンが編み込まれていた。深紅の髪飾り―アイメルト家の紋章。
「例の件、考えてくれた?」
ガクは、眼を逸らす。
「ああ……でも、今日は疲れているから……」
ぶっきらぼうに返すガクに対し、
「稽古がんばって、えらいえらいだねぇ~」そう言って、チユキは頭を撫でて来る。
ガクは、チユキの手を払おうとするが、手が止まる。
そうだ。この明るさに、僕も、ベルタも救われてきたんだ。
異能を発現しないものは、出来損ないだ。そう言って、僕たちは育てられた。
妙な味のする粥を食べ、苦い薬を飲み、木刀を振り、精神統一をする。ある時は、ひたすら苦痛を与えられ、食事を抜かれる。
一人、また一人と死に、狂っていく。いつまでこんなことを続けるのだ、と子供ながらに全員が思っていた。
そんな中、チユキは、一人だけ明るかった。
また一つできることが増えた、みんな、すごい! 皆なら、どんなことでも乗り越えられる。だから、大丈夫だよ!
チユキは、いつもそう言って、皆を励ました。その姿を馬鹿にする者も居た。希望なんてない、ここで死ぬのだ、とそう呟く者は死んで行った。
ガクは我に返り、チユキの手を優しく握る。チユキは、優しく微笑み、ガクの頭を自分の頭に引き寄せ、
「ガクならさ……最強の異能になれるよ」
桃色の唇が柔らかく開き、
アイメルト家騎士団に来ればね―
甘い吐息が、耳をくすぐる。ガクは、はっと息を飲み、チユキの手を放す。そして、強引に話題を変える。
「そう言えば、もうすぐお祭りだね」
「おお! そう言えば、そうだね!」
チユキが、ぱぁっと微笑む。
「その日までに決めるよ」
「お願いね!」
ばいばーい、とチユキが手を振る。ガクは、走って自室へ帰る。そして、チユキの手の感触を思い出し、声を殺し、泣いた。
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