1話
役立たず、できそこない―
闇の奥から低い声がする。
ガクは、夢から目覚める。少年は、漆黒の髪をかき上げ、目をこする。そして、大きなため息をつく。
「また……あの夢か?」
掠れた声がし、ガクがそちらを見ると、老婆が薬草を潰している。小さな部屋のせいか、薬草の潰す音がやけに大きく聞こえた。
ガクは、うつむき、唇を噛む。
騎士団から離れ、もう3年も経つというのに同じ夢を見ている。
老婆がため息をつき、
「顔、洗ってこい」
ガクは夢を追い払うように、小屋から出る。周りは森で、近くで川が流れている音がする。
ガクは、朝の冷たい空気と共に、草木の香りを嗅ぐ。少しだけ、気分が良くなる。そのまま川で顔を洗う。
ガクの外見―女性と見紛うほどの中性的な顔、そして、黒い瞳。この国では、珍しい特徴だ。
小屋が開き、老婆が現れる。そして、森へ向け、歩き出し、
「薬草を売ってくるでな。一週間は戻らん。誰かが来たら頼むよ」
ガクは無言でうなずく。
その後、ガクは簡単な朝食を済ませ、小屋の隅に置いてあった剣を取る。外に出て、それを無心で振るう。
現在、大陸内では未だに戦争の残り火がくすぶっていた。それこそ薬売りであるガクが剣を習得しなければならないほど。
異能力を巡る諍い、それは権力闘争と絡みあい、血を血で洗う大戦へと発展した。そして、その戦後処理は未だに終わっていない。
傭兵が夜盗になり、それを狩る騎士たちが国を闊歩している。それが現状だ。彼らが薬を買いに来ることも少なくない。
傭兵に略奪されれば、老婆に叱られてしまう。ガクは剣を振るい、稽古をする。
ここにさえ、いられなくなってしまうのはごめんだ。ガクは唇を噛む。ガクは、かつて最強とうたわれた騎士団の一員だったのだ。
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