妥協か徹底
昔と比べて随分と禍々しい顔付きになった嘲笑う人差し指と呼ばれる短槍を肩により掛けたモーガンに周囲の人間が騒ぎ始める。
「狩人です」
そっか狩人か〜 なら安心だな……とはならず席に近い客は席を立って姿を消す。
「嫌われてるねぇ」
「お前もな。 ていうか、交渉決裂したら襲いかかって来るもんだと思ってさ」
馬鹿なことを言うなと鼻を鳴らすナメレス。
「やだよメンドクセぇ。 正直言ってスペアを殺し回って今さら焦ってる上の連中のアホさ加減に辟易してんのさ」
「別の仕事したら? 幽世にも職業ってあるのかは知らないけど」
「あ〜ね。 それもありかもね〜。 渡す気は無いんだな?」
「スペアを殺して回ってる連中に預ける事は無いね。 悪いけど、本人が嫌がってんだから断るでしょ」
イマイチ事の重大さを理解していない様だなと軽く舌打ちをして馬鹿を眺めるかの様な目を浮かべている。
「呑気だねぇ。 世界の植物が駄目になるってのに」
「いや、話半分で聞いてるからね。 言ってる事が全て正しいとか思ってねぇよ。 刺客を送って来て殺そうとしてくる連中であるって事だけは確信してる話だけどさ。 神が穢れたってのも良くわかんない話だし。 風呂入れば?」
「……馬鹿が」
他人がブチギレているとテンション上がっちゃうタイプなモーガンが微笑み、無駄足ご苦労っ! と言い放つとナメレスの眉間に酷い皺が刻まれる。
「まぁまぁまぁ……落ち着けよ。 刺客を送って来ようが、全員ぶち殺すから俺にはなんの問題も無いし。 一般人を巻き込むのは……そっちのやり方なの? なんか境界の世界に大勢一般人が居たような事もあったけど」
不機嫌そうにしてんじゃねぇよと見開いた目でナメレスを見つめ、前々から気になってた事に対して答えろと圧を掛ける。
「一部の奴らがそう言うやり方を変えしているのはこっちも把握はしている」
「おぉ〜ん。 で? そちらさんの指示なの? 違うの? どっちか答えて」
「こちらの指示ではない。 過激な手に走ってる契約者も居る」
「そっか。 ……じゃ、巻き込まない様に言い聞かせてくれ。 巻き込んだらお前を消しに行くからな。 絶対に。 あとお前の上司も消す。 部下も消す。 あとこんな事に巻き込んだ別の派閥の連中も可能な限り消す」
「へぇ、どうやって?」
「まず確実なのは、槍で神秘性……魂を抜き取って燃料として消失させる。 多分コレはアンタのでも出来る。 自我が強いとボコボコにして吸収しないとだがね。 これに関しては器を持たない霊体に効果的でさ、神秘性を燃やした火で鍋作ると美味しいんだコレが……」
「そんな事に使うのか?」
「あと風呂沸かしたりするね。 人間由来じゃなければ頭の中で囁いて来たりしないから便利なものさ。 あと、コイツのせいで死んだ! ってブチギレてる魂は取り込んでも何も言わず術式に力を貸してくれるから一般人を巻き込まない方が良いよ。 フェイスレスの時もデクスターの時もそれでどうにかなったし」
「……」
「事が済んで余った神秘性は解放してるから今はスカスカなんだよね〜。 時折街で見かける悪霊取り込んでるけど片手鍋の水を沸騰させるのに便利くらいだし……そっちも派手にやらないのが賢明だと思うよ〜一般人を殺せば殺す程に俺の術式を育てると同義だって事を理解してもらえれば……幸いっすねっ!」
「脅しか?」
「えへへへ。 そう聴こえた? お前は優先して消しに行くってだけの話♡ そうならなければ良いよね〜。 って世間話ですわい」
「っは。 精々頑張れ。 人間」
「人間? 死霊風情が調子乗ってんじゃねぇっての〜。 おつかれちゃーん。 ナメレスって変な名前だな〜。 っはっは! まぁ精々小間使い頑張れよナメナメちゃん!」
肩をポンポン叩くと、どす黒い魔力が溢れ出しモーガンの手の指が全て捻れて骨が露出している。 脈打つ度に飛沫となって飛び散っている。
「交渉なんて馬鹿馬鹿しい。 いっそここで殺してしまおうか……」
ナメレスが顔を上げた瞬間、大きく黒色の腕に弾き飛ばされ、石畳を砕きながら地面を転がった。
「おほ〜↑ 釣れた釣れた。 指を剥くって……鉛筆へし折る程度の事で脅して来やがって……」
モーガンの手の肉が黒色の糸で縫い合わされると共に元の形へと姿を戻す。 ひび割れの様な継ぎ目からは血と黒色の脂が染み出してくる。
「脅しってのはこうやるんだよ〜!!」
まるで瞬間移動したかのようにモーガンが消えると、起き上がろうとするナメレスの後頭部を踏みつけると地面のブロックが捲れ上がる。 土煙が舞ってそれが収まった頃には魔力は見る影無く消え失せていた。
「んははは! 逃げやがった! あ〜あ。 大したことねぇな〜。 おい、起きろ」
「……う……なんだ……ここ?」
「酷い喧嘩に巻き込まれたんだ。 あぁ〜……鼻が折れてるから病院行こうか。 良い医者知ってんの。 傷を跡形も無く消せる魔術師でな……あと脳味噌も診てもらおうか。 結構強めに踏んだから」
「踏んだ……?」
「悪いな。 悪霊祓うために少々ボコボコにしたんだ」
数日後。 ロバを牽くキャラックが穏やかな天気の下、手に包帯を巻いたモーガンへと問いかける。
「追っ手に憑依された人。 その後どうなったの?」
「無事に完治するってさ。 治療費がバカ高くてビビるけど……あとTシャツにサインしてって言われて」
「サイン?」
「有名な狩人だとコレクターアイテムとして売れるんじゃね? 血と脂が付着したんだけど何か喜んでたね」
「え〜……」
「家宝にするって言われたよ……怖い」
「マニアってそういうのを付加価値って言い張るよね……」
「どっかの兄ちゃんの血と脂汚れが染み付いたシャツを希少性と言って拝むのも恐ろしい……。 まぁでも訴訟起こされないだけマシか」
「……それを量産すれば路銀の足しになるのでは?」
「ヤダ」
つづく




