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狩人の生活  作者: 青海苔
豊穣神と狩人(仮)
203/204

侵食する境界


 「……ふ〜。 今日も冷えるな」


 朝日が差し込む頃の事だ。 酒瓶の入ったパレットを積む青年が腰を捻って身体をほぐす。 今日も忙しくなるなとため息を吐き出すと共に空を見上げる。


 「ん……?」


 遥か遠くに見える景色の様に霞んだ筋がかかっているのが見える。 その筋が押し開かれると共に空模様にシワが寄る。


 空の向こう側からは青色の太陽が顔を覗かせ、煌々と輝く星が見下ろしているのだ。


 「おい、早くしろよ〜。 今日も忙しいんだから」


 同僚にアレが見えるかと言ったが、良い天気だなと素っ気ない返事が返ってくる。 ちゃんと見てくれと頼んだが、何も見えていない様子である。


 「嘘だろ……。 そんな筈……あれ…………」


 「どうした〜? 飲み過ぎたのか……? あんまり体調悪いなら休めよ」


 空の切れ目を見つめたまましばらく固まった青年が同僚の顔を覗き込んだあと、自身の指の動きを確かめるように拳を握ったり開いたりを繰り返す。


 「……さて、仕事を始めようか」


 やる気だねぇと呟く横で前掛けを地面へと放り捨てる青年に若干ビビリながらも なんの冗談だよと笑ったがその表情もすぐに消えた。


 乳白色の光る魔力刻印を腕の先にまで滾らせ、同色の魔力光を放つ瞳が鋭い目つきで人間を見つめる。


 「モーガン……。 赤目族の男なんだが見なかったか?」


 「……お前どうした?」


 そういう返事を聴きたいんじゃないと傲慢なため息を吐き出す。 全く、この俺をこんな事に使いやがってと不満を宿した目で男を見つめている。


 「…………何でも無いさ」


 何はともあれ、件のモーガンだ。 追われているクセして観光地とは。 それから数時間後、呑気に茶を飲んでるモーガンを見つけて前に腰掛けた。


 「やぁ、モーガン」


 「……やぁ。 また追っ手か……」


 モーガンが目の前に現れた男の目を見つめると疲れた顔でため息を吐く。


 「人間に乗り移ってまで何しに来た?」


 疲れた顔の男からいきなり本質を見抜かれた事に驚いた様だった。 お化けに精霊、化け物に上位種。 魔術師の殺しに、魔族にエトセトラ。 


 色々と経験しすぎて、驚くどころか過食気味で辟易しているかの様だった。


 「娘はどこだ?」


 「喧嘩してね。 俺はコーヒーを飲みたいって言ったんだけど……。 毎日顔を突き合わせるのもキツいってさ。 まぁ、座れよ。 境界の世界から干渉するなんて出来るんだな……こっちの食い物は美味いぞ?」


 席へと腰掛け脚を組むと、適当な物を注文してモーガンの目を見つめる。 左目の奥に何か得体の知れないモノが宿っている様な気がする。


 「どうかしたか?」


 「いいや」


 「やり方を変えてきたんだな。 話し合いとは……実に……文明的なやり口だ。 名前は?」


 今まで契約した人間が打ち負かされたのも納得だと喉を動かし、目の前の化け物じみた人間へと視線を合わあせた。


 「ナメレス」


 「……名無しか」


 互いの前に食事が並べられ、ウェイターが立ち去った後に口を開いたのはナメレスの方だった。


 「境界の世界では随分と派手にやってる様だな」


 派手にやってるのは俺じゃなくてお前らだろうと鼻で嗤うと首を小さく振った。


 「……強い術式持ちを送り込み、全力を出してでも殺す事が出来る。 それがあの世界のメリットの1つだろ。 だが、襲う標的が更に強ければただの利敵行為だ」


 「まさか、ここまで強いボディガードだとはね。 聞いてた話とは随分と乖離があってだな」


 「あの2人はポンコツそうだったもんな……チンピラと少し気位の高いアホだった。 だが、度胸はあったな。 体を吹き飛ばしても……冷静だった。 死人はみんなそうなのか?」


 「あぁ、死んでるからな。 お前は……」


 穏やかな顔で軽く舌打ちをしたモーガンがその頭をすり潰してやろうかと言わんばかりに目を細める。


 「お前……ってのは嫌いだ。 別の言い方が良いな……赤目野郎。 白髪頭……君……。 好きなのを選んでくれ」


 「……そいつは悪かったな。 君は生きているクセに怖くは無いのか?」


 「怖い。 ……目覚めずに眠り続ける。 まだ死ぬなんて気持ちの整理はついていないが、まぁまぁ。 死んだらその時だと思っている」


 「へぇ。 だったら娘を渡した方が良い。 長生き出来るだろう。 もしかしたら、割の良い仕事にありつけたり……美人な嫁さんに巡り合ったりな。 何か1つ願いを叶える事も出来る」


 「他人にお膳立てされて自己実現なんてクソ食らえだ。 ……それじゃあ、今までの刺客ってのはそれに乗った口なのかよ?」


 「そういう事になる」


 「……うえ。 キショいな……。 で、何でキャラックを追いかけてるんだ?」


 どうするか迷った様な顔をしているのを見ながらモーガンは食べかけていたサンドイッチに齧りつく。 どうせ答えはしねぇだろうなと考えていたのだ。


 「そうだな……豊穣の神が穢れた。 新たな豊穣神を立てる事になり、あの女に宿った力が必要なんだ」


 咀嚼中に舌でも噛んだかの様な表情のまま固まったモーガンが男の目を見つめる。 


 「すぅ~……えぇ…………ちょっとぉ……何言ってるかわかんない」


 「……植物の設計が崩れたと言えば良いか。 中でも果実の形成における過程のプロセスにエラーが起きててな。 前の神が管理してた時に穢れを貰って、現世に伝播した。 それが感染して手に負えない状況になってて。 その内穀物も駄目になるだろうから、早い内に新しい神の加護を与えなおした種子をこっちにも送り込みたいってのがこの騒動の元凶」


 「……う〜。 オートマタのウイルスみたいな……? だから初期化して……最新のウェアに更新するって?」


 少し待てと言うと、何だか何処かと交信してそうな表情を見せて固まると知識を得たかのように呟く。


 「話が早くて助かるよ」


 「あっはっは! ウッソだろ〜?! あはははははは! ダメだぁ↓ お腹痛い〜! あははははっ!」


 店の備品である机をバシバシ叩きつけて笑い続けているモーガンは苦しそうにしながら続ける。


 「可哀想に……あぁ〜、ふふっ! 妄想に効く薬があるからよ……病院行って処方してもらえ。 マジで効くから……俺も精神科には世話になったからなぁ……てきめんに効くぞ。 あっちの世界じゃロクな病院も無いんだろ……あ〜っはっは……んぅ……! ぶははははは!」


 「……」


 「あははははは……可笑しいなぁ……! んふふふふ……!」


 笑い続けているモーガンをムカつく生き物だなと蔑んだ目を浮かべたナメレスが呆れた声色で話を続ける。


 「はぁ……。 術式で人間が半分魔族になるって話もおかしな話だよな。 魔術も怪物も……。 お前ら人間の世界の方もおかしな話が多いだろ。 聞いた話じゃ、どっかのアホ女とそれを殺し損じたバカ男のせいで怪物だとか魔術が産まれたとか聞くぜ?」


 「あぁ、俺の事? フェイスレス元凶論ってメジャーなの? あくまで論の1つだけどさ」


 ケロッと答えるモーガンにギョッとした表情で固まったナメレス。


 「……何でお前が知ってるんだ?」


 「魔族のトモダチが死ぬ前に口走った不穏な言葉だよ。 んなもん知るかって話よね〜。 上位種になった肉片の残りカスが昔に飛んで行って変な進化を遂げさせたとかさ」


 「…………そう、だな」


 「あ〜。 良いアイスブレークだった。 で、何でキャラックが新しい神になるわけよ?」


 「それがだな……他にも神の力を宿した奴は居たんだが……上の連中が殺しちまってな。 あの女が最後のスペアってわけだ」


 その口振りからするに殺して回った側の人間っぽいなとモーガンは声色を変えた。


 「わざわざスペアを殺し回って、残りの1人? 何でそんな事したの?」


 「交渉の切り札として手中に収める為らしい。 そしたら、利権に関与出来るとかナントカ」


 「…………お前の上司って馬鹿しか居ないの? じゃあ、キャラックが交通事故で死んだらどうなんの?」


 「この世が終わる」


 「何で現世にそんな大事なスペアを置いておいたの?」


 「中立地帯だかららしい」


 「……は? んなもん金庫にでも入れておけよ馬鹿がよぉ……! ……ちょっと待ってね。 じゃあ、俺って今お前らの騒動に巻き込まれてこんな事になってんの?」


 「そうなるな」


 モーガンが拍手をしていい冗談だったよと笑った後、術式の短槍を片手にコーヒーを啜る。


 「どうすんの? やる?」


 「交渉しに来ただけだ。 殺し合うつもりはない」


 「妄想垂れ流して何が交渉だよ……」


 「冗談では無い。 マジな話だ。 モーガン」


 つづく

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