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第二章(4)
(第二十一回)
新緑の薫り。
静寂な森に包まれた「三徳山」。
家人の故郷である。
連れてきた。
都会の喧騒から離れ
やっとこの杜に着いた。
四時間余りのクルマの旅は意外と快適だった。
言い続けてきたピンク色のクルマ。
なぜ三徳山の鳥居の下にあるのか…
しかたがない。
なにしろ家人の「脳」は狂っているのだ。
ただ言うとおりにしてやることがせめてもの手助けとしか言いようがない。
苦笑いがこみあげてくる熱いものに打ち消されてしまうのだ。
今まで気づかなかった大切なものが
失われようとしている。
二度と帰ってこない破壊された実態だけが
残され、
それは見るに忍びない絶望の抜け殻としての肉体であり、
狂った眼であり、
弱体化した容姿のみである。
まだまだ生きて欲しかった…
現代の医学では
例えば家人が通った脳神経内科の医者は
五四%が「燃え尽き症候群」にさらされているらしい。
医者の「脳」も狂ってしまうのか…
そうでなくっちゃねえ…
「治る病気はなおるが治らない病気は治らない」と繰り返しているのだから…
「もうすぐ着くよ」
ふと見ると、
数年間帰ることのできなかった故郷を車窓より眺めながら、
家人の頬に一筋の涙がこぼれていた。




