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「振られ男、何やってるの。」

放課後。昼休みのやりとりを考えると何もする気がおきなくて、誰もいない教室で自分の席に座りぼーっとしていた恭太に、陸上部のユニフォーム姿の清美が声をかけた。

「なんだよ、それ。」

「知らないの。みんな藤崎の言い訳なんて信じてないわよ。」

おもしろくないしね、それが本当だったとしても。そう呟く清美は、少し怒っているようで。

「なんか怒ってる?」

恭太が聞くと、むっと眉をひそめてつかつか、と教室の中に入ってくる。

「当たり前でしょ。私が先輩に振られてるの知ってるくせに、藤崎がちゃっかり告白してるなんて。無神経にも程があるわよ。」

「お前……本気だったのか。」

いつかの会話を思い出して、恭太は少し驚いた。どちらも、あまり軽く話していたから、冗談だとばかり思っていた。

「本気よ。だから、本気で拒否られたくないから、冗談ですませたのよ。それくらいわからいないわけ? それに、先輩好きな人いるみたいだもん。」

清美は泣きそうな表情でそういって唇をかむ。嫌われたくない。その気持ちは恭太にも理解でききる。

「まぁ、俺も振られたし。」

なんとでもごまかしようはあったけれど、清美に嘘をつく気になれなくて、そう言った恭太に、

「あんた、ばっかじゃない?」

「お前なぁ……。」

「だって、嫌いってきっぱり言われたの? 先輩に。違うでしょ?」

「お前、何言って……。」

顔を真っ赤にして言いつのる清美に、恭太は戸惑う。言われている意味が全く理解できない。

「なんでそんなに鈍いのよ? まさか本当にわかってないとは思ってなかったけど。中等部の頃、先輩とやたら接触が多かった事とか、全部偶然だったとでも思ってるの?」

「つかお前何言いたいのかさっぱりわからないんだけど。」

「しんっじられない。」

深くため息をついて。

「普通に考えてみてわからないの? 学年も違う校舎も違う、なのになんで海野先輩は藤崎と一緒にいる事が多かったのか。あのね、言っちゃなんだけどあの先輩の一般的な評価って、藤崎が知っているあの人とはだいぶ違うわよ? 愛想だってそんなに良くないし、取っつき悪いって。それが藤崎といる時だけは、すごく柔らかい雰囲気になるの。それがどういう事だか、本当にわからないの?」

愛想が良くないのはともかく、取っつきが悪い匠など想像もした事がなかった。恭太と二人でいる時に、他のクラスメートと接触しても、決して拒否するような事はなかったし、普通に接していたから。

 清美の言う事を、にわかに信じられない。黙り込む恭太を清美はどう判断したのか。

「これ以上は悔しいから言わない。振られたっていじけてたければ、ずっといじけてなさいよ。」

そういって、足早に教室を出て行ってしまう。ドアを、ぴしゃんと思い切り閉めて。

残された恭太は頭を抱えてため息をつく。清美の言葉を信じるなら、少しは自分に望みがあるのかも知れないと思える。しかし、本当に信じていいのか。単純に、乙女の妄想と言う事もある。

「あーもう、なんだってんだよったく…。」

匠に言われた事、清美に言われた事その他諸々で混乱しまくった恭太は、そのまま机の上に突っ伏した。



『しばらくお前に話しかけないから。』

と言った匠の宣言は、どうやら本気だったらしい。ここ数日という物、校内で匠の姿を目にする事がほとんど無くなった。気がつけば、一緒に遊ぼうと話していた大型連休も過ぎ去っている。

唯一、体育の時間だけが匠の姿を見る唯一の機会だったが、しかしそういう時はいつだって匠の隣にあの桂がいて、それが無性に腹が立つ。やたらと親しげにじゃれ合ったりしているのを見ると、授業中にもかかわらずカーテンを閉めたくなる衝動に駆られるほどに。

 こうなってみて初めて、清美に言われた事を実感する。

 学年も違う相手がそうそうその辺ですれ違う確率など、そもそも低くくて。しかもこの場合おそらく匠は意図的に恭太を避けていて。

 もしかして会いに来てくれていたのだろうか、と希望的な観測をしてみたりいや、それは思い上がりすぎだろうと思い直してみたり。

 それはともかく会えない事が寂しくて、いっそ自分が3年の教室に行ってみようか等と、恭太にしては珍しく能動的な思考になってみたり、ともかく感情の起伏が激しくて、自分自身でも疲れてくる。

 それでもいい加減頭も冷えてきた。ただただ、好きだと突っ走っていた気持ちが落ち着いて、匠の言葉を冷静に考える余裕も出来てきて。

『世の中に偶然なんてそう転がって無い。』

 いつだったか言われた言葉。あれだって深読みしようと思えばいくらでも出来る。DNAの話も、そうだ。取りようによっては、恭太と匠が出会った事も運命だったと、そう聞こえる言葉。

 それに、匠は絶交を言い渡す時に「一生絶交」とは言わなかった。本当にいきなり好きだと言ってきた恭太を嫌悪するならば、自分の話を聞けるようになったら来い、等と言うはずもない。

 自分と会わない間きっと、桂が当然のように匠の横にいるのだ。色々と悩みもしたし、考えたけれど、それが我慢できない。自分が、匠の隣にいたい。

 あの日の噂はまだ消えていない。あれから匠と恭太が一緒にいなかったせいで、勝手な憶測までついていた。今、恭太が匠と話をするために3年の教室に行けば、さらにエスカレートするかも知れない。

 けれど。

(言いたきゃ言えばいいさ。)

恭太は開き直った。終業のホームルームが終わると、速攻で教室を飛び出す。匠を、捕まえるために。



3年の教室。同じ校舎の階違いで作りも1年の物とほとんど変わらないというのに、足を踏み入れた事のないそこは、恭太にとって知らない世界のようだった。

すれ違う上級生はどこか大人っぽくて、近寄りがたい。気軽に匠と話せていたのが不思議に思えてくるくらいだ。

だからといって臆してもいられない。匠のクラスは3年2組。まだホームルームが終わった直後、帰宅をしようとする上級生でごった返す中、意を決して教室の中をのぞく。

しかし、教室の中に匠の姿は見つからなかった。

「あの、海野先輩知りませんか。」

ドアのそばにいた上級生に控えめに声をかける。

「海野? あーれ? もう帰っちゃったかな?」

 しかしその上級生は匠の行方を知らないようだった。

「そうですか……。」

手当たり次第聞いて回ったりしたら、目立ちすぎるだろう。ここは一旦引いた方がいいと恭太はきびすを返す。

 何を言われても、もう別に気にはしないけれど、必要以上に目立つ必要もない。

 3年の教室を後にしながら、恭太は匠の行方を考える。良くいる所等はないだろうか。単純にトイレと言う事も考えられるが。もしくはすでに帰宅済みか。

 と、そこまで考えて、好きだと言いながら匠の事をほとんど知らない自分に気付いた。人となりは知っている。だけどそれだけ。普段どうしているのかとか、どこで時間をつぶしているのかとか。

 そんな事を知ろうとしなくても、匠の方から自分に歩み寄ってきてくれていたから、それに甘えていた。自分から知ろうとしなかった。

(よくそれで好きだとか言えたよな、俺。)

自己嫌悪に陥りかけるけれど、しかしだからと言って、匠の行方を捜す事をあきらめるわけに行かなかった。最悪、家まで押しかけようと。何より、今勢いがあるうちに動かなければ、明日になったらまた足踏みしそうだった。


 わからないならしらみつぶし。さすがにトイレの前で待つような暴挙に走らなかったが。

恭太は匠とあった事のある場所を手当たり次第に探す。図書室、裏庭、学食。いるかも知れないという所をいくら探しても、見つからなくて、さすがにもう帰ってしまったかも知れない、と思う。

 時間はすでに最終下校時刻の30分前。特に部活をしているわけでもない匠が、学校に残っている可能性は低かった。自宅に行ってみようか。そう思いかけて、一カ所忘れていた事を思い出す。

 屋上だ。


 ここにいなければ校内はあきらめよう。そう思いながら、恭太は窓枠に手をかける。

 と、その時。

「やめろよ、もうお前。見てられねーし。」

誰かがいたらいい。どこかで聞いた声。

「別に見ててくれって言ってないし。」

それに答えた声は、やたらと聞き覚えのある物で。そう、匠の声だった。

「かわいくねぇぞ、その反応。」

「別に桂に可愛いと思われたくもないし、第一俺男だから可愛いとか言われても全然嬉しくないんだけど。」

どうやら一緒にいるのはあの、桂らしい。やっと見つけたと思ったのにお邪魔虫付きかよ、と恭太は嘆息する。桂がいたのでは、伝えたい事も伝えられない。どうしようか、と思案する間にも二人の会話は続いてる。

「そこで一々男だなんだにこだわる辺りで十分可愛いけど。」

「どうでもいいよ、そんなの。」

匠の顔は見えないけれど、むっとしているのであろう事が声からもわかる。恭太は不本意ながらも、そんな匠の反応を桂と同じく、可愛いと思えてしまう。

「まぁどうでもいいけどな、俺は普通に女の子が好きだし。だから幼なじみがホモになるってのはいただけない。」

「なんだよそれ。」

「とぼけるなよ。あいつだろ、お前が最近やたら食欲無くしている原因。まともに食べてんのかよ、元々細いくせに。」

「余計なお世話だって。それにちゃんと喰ってるし、言ってる意味わからねーし。」

「お前と、あの1年が付き合ってるって。噂立ってからずっと変だろ。あのガキの方は一応否定したみたいけど、お前は否定も肯定もしないで黙ってるから好き勝手放題言われてるの、知らないはず無いだろ?」

(やっぱり、何も言わなかったんだ、あれに関して……。)

多分そうだろうとは思っていた。あれを一々相手にする性格なら、あんな往来で大声であんなやりとりはしていない。

 沈黙した匠に、桂がため息をつく気配。

「好きなんだろ? あのガキが。ここしばらく離れてるだけでそんなやつれるくらい、好きなんだろ?」

「ほっとけってばもう、ほんとに……。」

言い返す言葉はしかし、弱々しい。

 恭太は桂の言葉に耳を疑う。憎からず思われているとはわかっていたが、自分の存在がそれほど匠に影響するなんて思ってもいなかった。

「ほっとけるかよ。自分の幼なじみが間違った方向に行こうってのに、黙ってられるか。わかってるのか? 相手は男で、お前も男なんだ。いくら最近はそういう趣味の連中がおおっぴらに出てきてるって言ったって、万人が受け入れられるわけがないんだ。」

押し黙る匠にたたみかけるように言う桂の言葉。

(そんなの、俺だってわかってる。)

たぶん、匠も。

「幸せになんかなれるわけないだろ。絶対一時的な気の迷いに決まってるから。やめろよ、もう不毛なだけだから。」

わかっていてなお、諦めきれない想いがある。割り切れない想いがある。

「第一あのガキあれから姿も見せないじゃないか。普段一人に執着する事なんて無い匠の口から、あのガキの名前が頻繁に出るようになったときから嫌な予感はしてたんだ。接触が無くなった今が不毛な想いから脱するチャンスだろうが。」

桂は正しい。一般論としてどうにもならないくらいに正しい。

 けれど。

「桂にはわかんねーよ。」

夕暮れの屋上に、匠の声が低く響いた。

「言われた事なんて、全部わかってる。俺が男であいつが男でなんて、そんなのわかってる。わかってたって止められないんだ。理性とか正論とか、それでやめられる事なら、とっくにこんな気持ち、無くしてる。それが出来ないから……。」

いつも強気な匠の声が弱々しくて、匠はそれ以上黙って聞いていられずに屋上へ続く窓を乗り越えた。

いきなり乱入した気配に、二人が振り返る。

「恭太……。」

いるはずのない人物の登場に、二人は呆然としていたが、しかし立ち直るのは桂の方が早かった。

「何しに来たんだよ? お呼びじゃないんだよ、帰れ。」

匠の前に立ちふさがって恭太を睨み付ける。

「お呼びでないのはそっちでしょう。」

「何?」

「……匠の言うとおりだよ。別に男が好きな訳じゃない。男同士がどういう事かなんて言われなくて良くわかってる。わかってたってどうしようもないんだ、この気持ちは。だけど。」

恭太の言葉から、自分の気持ちを知られてしまった事に気付き、真っ赤になった匠を、恭太は見つめて。

「幸せになれるかどうか、なんて他人に決めてもらう事じゃない。」

「ガキがどんな理屈捏ねようと、おれはそんなの認めるつもりは……。」

「アンタが認める必要なんて無いんだよ、桂先輩。問題は、俺と、匠の気持ち、だろ? おれは匠の事が好きだから。」

そう言うと恭太は桂を押しのけようと一歩踏み出す。しかしその肩を掴んでで桂は邪魔する。

「好きなら、好きなやつの幸せ祈って身を引いたらどうなんだ。好きだからだけで突っ走るなんてお前のエゴだろうが。」

「匠が俺の事好きじゃないなら身を引くけど……。でも、元々誰かを好きになるなんて多かれ少なかれエゴが発生するもんでしょ。」

肩をつかんだ桂の手を思い切り振り払って。

「冷静でいられる恋なんて、どこにもないからさ。」

首まで真っ赤にしてうつむく匠に、手を伸ばす。

「鈍くてごめんね? でも俺もずっと好きだったから。付き合って?」

「何馬鹿な事言って……。」

「外野うるさい。桂先輩に言ってないから。」

恭太の無礼な言い方に桂が憤慨して何かを言おうとしたとき、

「ごめん、桂。心配してくれるのはわかってる。だけど、ごめん。」

そう言った匠の言葉に、あきらめたようにため息をつく。

「しょーがねぇ、今回は引いてやるよ。」

スキ見つけて別れさせてやる、と負け惜しみを言って、桂は去っていく。

「匠?」

真っ赤になってうつむいたまま、動けない匠に、恭太は近づこうとする。

「寄るなよっ!」

それに合わせて一歩後ずさり、、癇癪を起こす。

「なんなんだよお前、この間まで人の話も聞かないで勝手に暴走してたくせに! 何いきなりそんな余裕ぶっこいてんだよ! 立ち聞きしてんじゃねーよ馬鹿!」

「うん、だからごめんね?」

「ごめんですむかぼけ! 何が付き合って、だ、ふざけんな! お前なんか、お前なんか……っ。」

要するに、思いもかけず自分の気持ちが恭太に知れてしまったため、恥ずかしいやらいたたまれないやらでどうしたらいいのかわからなくなっているらしい。

 必死に近寄るな、と叫ぶその姿がいつもの強気な態度からは想像できなくて、でも可愛くて愛しい。

「きらいだっ…も、お前なんてだいっきらいだっ!」

ちょっと前だったらその言葉にだまされたかもしれない。けれど、匠の気持ちを知ってしまった今、真に受ける事はない。

嫌い嫌いと叫びながら、けれど本当は好きだと、瞳が言っていた。

間を詰めようとすれば逃げる身体を、それでも強引に手を伸ばして捕まえる。それでも暴れる身体を抱き込んで。

出会った頃は変わらなかった背は、今では頭一個分、恭太の方が大きかった。長くて大きな手に抱き込まれて、匠は身動きがとれなくなる。

「ごめんね……。」

こんな風に体温を感じるのは、匠の肩を抱いて泣いたあの日以来で、緊張する。

「はなせ、って……。」

弱々しい声で匠がそう訴えてくるが、離してなんてやらない。今手を離したら、絶対に匠は自分の物にならない。

「好き。本気で好きだから。だからごめん。匠の気持ち、全然考えて無くて、ごめん。勝手に自己完結してごめん。ちゃんと話聞こうと思って探してたんだ。」

そしたら、思いがけない真実を知ってしまったが。

「ねぇ、俺の事好きだよね?」

腕の中、あきらめたのかおとなしくなった匠に、自信なさそうに問いかけると、思い切り足を踏まれた。

「いってぇ……。」

「お前ずるい。全部聞いてたくせして、今更。俺どんな顔すりゃいいんだよ。何言えばいいんだよ。」

「普通にしてよ。それで、俺に好きだって言って?」

「やだ。」

悔しすぎる。恭太に主導権をとられるなんて、といつもの強気で呟くけど、首まで真っ赤にしていたら全然迫力はない。

「……運命で、必然なんでしょ? 俺が立ち聞きしちゃったのも、全部。なら、今こうしているのも運命なんじゃないの。」

いつかの食堂で匠が言った事をそっくり真似して言うと、まだ憎まれ口を叩きそうな唇を、素早くふさいでしまう。

「んっ……。」

何日か前にも振れた唇を、もう一度感じならが、少しおびえて堅くなっている身体をほぐすような、軽いキス。角度を変えながら何度も繰り返すそれは、少しずつ深くなる。唇の端をそっと舐めるようにしながら、緊張をほぐす。薄く開いた匠の唇にそっと舌を差し入れると、一瞬びくっと身体を硬くしたが、すぐに力を抜いて。もう、今更抵抗しても仕方ないと観念したのか、自分のそれを絡めてくる。そんな匠が愛しくて、恭太はその唇を味わう事におぼれる。

 どれくらいそうしていたのか。名残惜しげに口づけをほどくと、匠は足に力が入らないのか恭太に寄りかかってきた。

「……俺も、馬鹿だよね。」

ぼそっと言った恭太を、匠が上目遣いに見つめる。

「この間キスした時だって、匠それについちゃ怒らなかったのにね。気持ち悪いとか思ってたら、パンチの一発くらいはあったよね、絶対。あれ考えたら、匠が俺の事好きだなんてわかりそうなもんなのに。鈍かったななぁ……ってっ!」

もう一度思い切り足を踏まれる。

「そう言う事、臆面もなく言うな馬鹿! あーもう、むかつく!」

「そう言う俺が好きなんでしょ。」

しれっと言ってのける恭太は、やたらと余裕ありげで匠のかんに障る。

「……キスより先、したいな……。」

不届きな言葉を吐く恭太の頭を、今度は拳骨で思い切り殴って。

「お前ここどこだと思ってるんだよ!」

「ガッコじゃなければいいの?」

「誰もそんな事言ってない! てか、おれはお前なんか……。」

「好きだよね。」

「…………。」

嫌い、と言おうとしたのに断定されて、悔しくて。

匠はぐっと腕に力を入れて恭太の胸を押すと、自力でその場に立つ。

「必然で、運命だって? なら、俺がお前の事好きだなんて言わないのも、とりあえずこれ以上の事しないのも、お前の運命だ。」

主導権を取り返すべく、宣言する。

「えええええー。」

それはないでしょう、と追いすがる恭太。

「うるさい。そう、俺のDNAに生まれる前から書き込まれている。諦めろ。」

さっきまでのキスの余韻がまだ残ってる唇で、そう言い切って、匠は鮮やかに微笑んだ。

 その笑顔は、恭太の大好きな笑顔で、この顔が見られるなら、しばらくはそんな運命でもいいかな、等と思ってしまう。

 きっといつかは。

 周りがなんと言ったって、きっと幸せになれるから。

 たぶん。

 匠に恭太が振り回されつつも。

 それすらも、必然。

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