RAIN
愛や安心感、安らぎや
思いやりを悩める人々に
希望を与えるために、
路上で若い詩人が
夢に黄昏ていた。
夏の終わりに
光を放っていた夕立。
白い蒸気が立ち上ぼり、
アスファルトの匂いが辺りにしばらく漂っていた。
愛しい女と過ごした
懐かしい思い出の記憶を辿るために詩人は『わざと』喜んで雨の中を歩いたのかもしれない。
愛しい女と肩を寄せながら雨宿りをするために、
はしゃぎながら腕を組んで雨の中を小走りをした、
あの夏の終わりの夕暮れの思い出のために。
詩人が願うのは僅かばかりの静寂と愛しい女の愛と笑顔だけだった。
ボロボロの詩集を着古したレインコートのポケットから取り出して、行き交う通行人に向けて詩の朗読をしたが、聞いてくれる人が誰もいないこの絶望の悲しみ。彼らは何も見えないし何も感じないのだ。
小さな赤ん坊を抱えた母親が詩人を見て泣いていた。動物のような慟哭の雨が、局地的に詩人の頭上に降り注いでいた。詩人が笑いながら腕を広げて天に向かって詩を読み上げていた。
雲が早く流れていく。
詩人は喜びの風に向かって想いを託した。
「愛の言葉を愛しい女に
届けてやって欲しい」と
願いを込めた。
時が流れを止めないならば「自分が過去に留まるしか時間を蘇らせる術はない」
と詩人は剥きになる。
通い慣れた道だけしか残されていなかったこの屈辱を知った日に、虚しさが胸を掠めたりもした。
「君を愛している」と空に向かって詩人が祈りのように囁いた。
雨の中を二人で歩いた愛の記憶や思い出を風化させないために、愛のぬくもりを、愛の記憶を蘇らせるために、詩人は雨の中を歩いたのだ。詩人が雨の中で詩を読み上げたのだ。それは久々に訪れた優しい時間と幸せ。「愛しい君を愛するために僕は生まれてきた。君に出会うために僕は今まで孤独を生きてきた」と詩人は呟きながら涙を浮かべていた。
「早く今すぐに会いに行かなくちゃならない」と詩人は思いながら夕闇迫る街並みを走った。
ありがとうございました!