かつての村の子供と今の村の子供
故郷の村へは日帰りの予定だ。
自分たちの昼飯とお土産を持って、朝の遅い時間に飛竜で向かう。村の少し手前で降ろしてもらい、雪の残るの山道を歩いて村へ入る。
前は帝都に、今は王都に暮らすカヌメは村の様子を珍しそうに見つめていた。今のところつわりが酷いとか、体調が悪いって話は聞かないし、カヌメの魔力は安定している。
出発前に従業員から、妊婦に無理させたらダメだと散々言われていた。ちょっとばかり帰郷でピリピリしているサムイルも気になるし、村の中で微妙な気配を見つけ僕は帰って来たことに早くも後悔する。
監視、もういないって聞いたんだけどな。学院卒業してしまうとアルタに情報をもらえないし、目的がわからないのが嫌な感じだ。
雪と泥の混じった道を進み、広場でそれぞれの家に向かって別れる。カヌメと一緒に家にたどり着くと、雪かきをしていた。
屋根の上にいるのが父と兄で、家の周りが兄の嫁と妹たち。台所のいるのが、母と兄の子供たちだろう。
「えーと、弟くんだったわよね?」
「そうです。三男のルキノです。こっちが嫁のカヌメです」
義姉が覚えてくれてたので、さっさとあいさつを済ませ、妹とたちに土産物を渡す。土産物を母に渡すついでにカヌメの案内を頼み、僕は屋根の上に登る。
「ただいま。魔術で雪落とすから、先に降りて人がいない様にしといて」
何しろ今日は日帰り予定。雪かきが終わるのを待っていたら話をする時間がなくなる。部分的に雪を溶かして、流して落とす。全部落とし終わったら、溶かして氷にならない様に蒸発させてしまう。
家一軒分の雪とはいえ、豪邸ではないからすぐ終わる。
雪かきをしたおかげか、土産物の効果か、歓迎を受け昼食にありつく。
話の中心は僕の嫁。
「僕、今年成人したし、学院も卒業したから、職場の勧めもあって、結婚にいたりました」
穏やかに話し、笑い声のする食卓。悪くないし、家族なんだとは思うけど、もうここへ帰ってこないと決めても、まあいいかと受け入れられてしまう。
ここには父と母がいて、未婚の妹たちもいるけど、家の中心は兄夫婦に変わりつつある。たぶん、家に長居するつもりだったら嫌がられたな。
「それにしても日帰りだなんて、もっとゆっくりしていけないのかい?」
「近いうちにこの国を出る予定だから、いろいろ準備があるんだ。今日もサムイルが誘ってくれなかったら、こられてないから」
「あの子も帰って来たのか」
「もう暴走させる事はないよ。心配しなくても」
幼い頃、魔力暴走させていたサムイルとそのすぐ側にいた僕。僕らと同年代の人たちはケガをしないまでも、サムイルの魔力暴走で怖い思いをしている。
常に無傷で、恐怖心を持たなかったのは僕だけ。
昔話になるとサムイルは悪者で、僕は変人。カヌメは興味深そうに聞いているが、僕は居心地が悪かった。
昔話が終わると、最近村の子で魔力暴走を起こしそうな危険な子がいるといいだす。村の範囲くらいなら全員の魔力感知するくらい余裕だ。
さっと調べてみたが、魔力暴走をさせそうなくらい強い魔力を持つ子はいない。それに、暴走させそうなだけで暴走にいたってたいなら、問題ない範囲だろう。
「サムイルは国規模で上位に位置するくらい魔力が多い。そんなの次から次には生まれないよ。あいつ、陞爵の話あるくらい優秀で強いし」
村から陞爵する人が出れば喜ばしい。だが、サムイルに長居されたくはない様で、あっちも日帰りだと言えば安堵していた。
ゆっくりと食事をして、雑談に興じる。僕の扱いはカヌメと同様にお客さん。こんな状況じゃ、次兄も家に居場所はないだろう。
近くの町で結婚はしてないが、同性している相手はいるそうで、元気にやっているらしい。
次兄の面倒をみてくれとか、家にお金入れろという話にはならなくて、僕が首都でそれなりに成功した商会長なのは知られてない様だ。
マルクが全部追い返してくれた自称親族はやっぱり詐欺だったか。
サムイルの魔力の移動を感知し、僕らも家を出る。
見送りには母と妹たちが出てきてくれ、広場でサムイルと合流した。
とっとと帰るべく、村の出入り口に向かっていたら呼び止められる。
「あの、うちの子に魔力の使い方を教えてもらえませんか?」
五、六歳の男と子を連れた二十代前半の女性。たぶんカヌメと似た年齢なんだろうけど、疲労を感じさせる顔をしており、老けて見えた。
「魔術を使える人を家庭教師に雇うといいですよ。魔術師ギルドに依頼したら紹介してくれます」
「うちには家庭教師を雇えるようなお金はなくて、魔術師ギルドのある町までも行けないです」
「僕らには家庭教師をやっている時間はないので、他の方にご依頼ください」
断ってはみたが、煮詰まっている様子の母親は引いてくれない。
「だから、魔力が暴走しない程度でいいから教えてっていってるの」
癇癪を起こされても迷惑。僕は隠すことなく大きなため息を吐きだす。
「その子、暴走するほど大層な魔力ないですよ」
本当に魔力暴走起こすほどの魔力があって、教育を受けさせるお金がない家なら魔術師ギルドが引き取りに来る。で、拒否して魔力暴走させたら排除。引き取られて教育を受けたら、教育費を返すまでギルドで飼われる。
ただ、そこにいる子は普通の村人より魔力は多いが魔術師ギルドが欲しがるほどではない。自分で勉強し、魔力を使えるようになったら魔術師ギルドに登録できる程度だ。
それに、本当に誰が教えないといけないほどの魔力があればサムイルの母親が教えているだろう。
村のサムイルへの態度は僕でさえ思うところがあるし、サムイルの母親ならなおさらだ。なんちゃって魔力暴走の子どもなんて相手にしたくない。
だってあんた、子どもの頃サムイルに石投げた子の一人だろ。仲良くなんてやれるワケがない。
喚く女を放置して歩き出すと、子どもの魔力が揺らいだ。女が短い悲鳴をあげる。
「母さんをいじめるな」
「アホらしい。いじめてんのはお前だろ」
ギャアギャアうるさいガキを冷ややかに笑う。
大人気ない? しゃあないよね。僕、大人としてはまだ新米だし、そのうちオトナの余裕を手に入れられるかもしれないけど、今はない。
「お前程度お魔力怖くないし、できるもんなら暴走させてみろよ」
ガキは暴走させることなく火の玉を飛ばしてきやがった。同威力の火の玉をぶつけて相殺する。
「魔術で攻撃してきた相手、殺しても犯罪にならないって知っているか?」
魔術での攻撃は子どもだからと許されるものではない。だからといってこの場で殺してしまうと僕の家族が村で暮らしにくくなる。
次々に繰り出される炎を僕はひたすら打ち消す。その間に人だかりが出来始めた。
僕はにっこり笑う。
「それだけ魔力を操れれば、暴走させることはないな」
火の玉ばかりのしょぼい攻撃ではあったが、魔力が制御からはずれるこはなかった。
「お前、魔力の揺らぎを見せたら大人が右往左往するのを面白がって見てただけだろう? 本当の魔力暴走は本人の身体も傷つけるからな、冗談や遊びじゃできない」
僕は集まって来た村人たちにも聞こえるように語る。
「君に魔力暴走させるだけの魔力はない」
僕が宣言するとサムイルが魔力を揺らめかせた。
子どもは怯えた様に尻もちをつき、子の母は叫んでいたのを忘れたかの様に子どもに覆いかぶさる。自らを盾にするかの様に抱きしめる姿は良い母なのかもしれない。
「その子は魔力をちゃんと扱えている。ただ、魔術で何をしていのか、いけないのかがわかっていない。やっていいことと悪いことを教えるのは親でもできる」
語ってみたものの、子どもの母はいろいろ驚きすぎて話を聞けてないぽいな。
「人に向けて魔術を使わない。魔力で脅さない。とりあえずこれだけでも教えてこめ。村の外でやったら死ぬのはその子だ」
目を見つめてしっかり告げればコクコクと頷いてくれた。サムイルは魔力の揺らぎをおさめ、遠巻きに怯えた目をしている村人たちを見る。
魔力を制御できる様になっても、染みついてしまった恐怖心はぬぐえない。もうどちらも歩み寄ることを諦めてしまっており、会わないのが一番なのだろう。
さて、行こうか。
そういえば、幼い頃サムイルにくっついて村を出ると決めた時も、僕はもう村に戻らないと思ってたな。
村の外にでてから、声をかける。
「よかったのか? たいがいの人はサムだった気づいてなかったぞ」
魔力を揺らがすまで。
「春になったら村を出るんだと。だからあの村にはもう用がない」
「そうか」
あの人はもう村でサムイルの帰りを待つのはやめるのか。
「オレより、お前はいいのかよ」
「何が?」
「オレと一緒に村を出て後悔してないのか?」
後悔か。
サムイルがそんなこと気にしているとは思ってなかったな。
「村にいたままなら手に入らない知識と技術を得て、現在職にも金にも困っていない。家族はカヌメがくれる。問題があるとすれば、カヌメが初産なのに僕が単身赴任になりそうなことで、それについてはサムの責任じゃないだろ」
だから何も気にすんなよ。僕は村にずっといたいなんて思わない。行ったことのない場所へ行き、知らないことに触れるのが好きで、魔人の国に行くのも楽にしている。
「感謝してくれるなら、素材で表してくれ」
サムイルが楽そうに笑う。
「なら、魔人の国で遺跡に引き篭もらなくてはいけないお前の為に素材採取に行ってやるよ」
「それは楽しみだな」
二人で笑っていたらカヌメに生暖かい目で見られていた。
「男友だちっていいですね」
しみじみと言わないてくれ。そういうこは心の中だけに、しまっておいてほしかった。




