↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/96

婚約指輪

仕事というのは何かしら制約が多い。

納品期限とか予算とか、作りたい物を作りたいように作らせてもらえない仕組みがある。


時間があればもっといいものがとか、予算があればもっとできるなんてことは誰も聞いてくれない。決められた予算で期限内に出来た物で評価されらるだけだ。


レヴィエスはいい客である。ゆとりのある予算と作成期間をくれていた。しかし、マルクが別の仕事を次々と持ってきて、きっちり予算から利益を得るためにガリガリと材料費を削った結果、どちらもゆとりがなくなってしまう。


もっといじりたかったんだけどな。

できれば効果確認のために実験もしたいが、それも難しい。


うだうだしていてもマルクに怒られるだけだし、あきらめて納品に行く。


辻馬車をつかまえて、竜貸し屋へ向う。予約なんてしてないが、レヴィエスは会ってくれる。

ただ、今は応接室がどれも使われているようで、通されたのは事務所の隅だ。


春に大陸南部への出陣に向け、各国を順に勇者たちがパレードを行っている。その影響で、人と金と物の流れが活発になっており、竜貸し屋の利用も増えている。


僕のとこの商会も回復薬を大量に納品するようになっているが、量産体制はマルクが作っていた。品質管理用に魔術具をいくつか作っただけで、回復薬作りはもう僕の仕事じゃなくなっている。


「こちらになります」


レヴィエスと向かい合わせに座ると、僕は手の平くらいの刃があるナイフをテーブルの上に置く。レヴィエスは片手でナイフを手に取ると鞘を外した。


多数の魔術式がこめられた漆黒の刃が現れる。持ち手には魔石が三つはまっており、武器というより魔術具と化していた。


「よくここまで詰め込めたな」


おもしろそうにレヴィエスが魔術式を見ている。


「死なないようにするのが目的ですから、安全の為にいろいろ組みこまさせていただきました。ただ実験できてないのがねえ? 何が起きるかわからない存在ですし」

「魔術式に問題はないが、実験はしておきたい。あれらが南部へ行けばその機会もあるだろう」


やる気だ。


止める気はないから、実験結果はほしい。


レヴィエスが受け取り、とりあえず仕事は完了。実験が終わって調整が必要なら声をかけてくれるだろう。


「それで結婚するのか?」

「やっぱり気になります?」


どう答えたものか悩み、うかがうように質問をかえす。怒っている様子がないことにひとまず安心する。


「責任をとるつもりはありますが、結婚の申し込みくらいは男からやれとせっつかれてて、どうしたらいいものかと」

「とりたくない責任なら取らなくていいぞ。金銭の援助ならこっちでする」


真意がつかめなくて僕は首をかしげる。


「カヌメはお前に一目惚れだ。成人前から虎視眈眈と狙っていたからな。変に暴走されたら面倒だから一緒にカールクシアに連れては来たが」


少しばかり嫌そうな顔をしてレヴィエスが言葉を重ねる。


「カヌメは初婚でもない。それに、男を押し倒す娘は百年に三人前後は平均している。狙われて逃げられた男は皆無だ」


どうやらレヴィエスは一族に女の子が生まれると、諦念を抱いて見守ることにしているらしい。政略結婚や人との付き合いの中で発生した結婚については状況によって手は出すが、恋愛については放置。


男は幼なじみとか友人と思っていた女の子に外堀を埋められ、逃げられなくて結婚。女は一目惚れした男を捕獲して結婚。


「なぜかそういうのしか生まれない」


長年一族の人々を見てきたレヴィエスに哀愁が漂う。


「政略結婚だと不幸になりやすいから、子が生まれたらそこは配慮してほしい」


それはマルクに言っておかないとダメだな。


「さすがに性別はまだわかりませんが、覚えておきます」

「ルキノ?」

「えーと、まーその、魔力反応からするとですね、責任をとらざるえないといいますか、ね?」


花嫁の親族に哀れんだ目を向けられるのはツライ。これならまだ、怒られた方がマシ。


「責任を取ってもらって悪いが、春から単身赴任だ」


哀れむレヴィエスから、一族の女たちがよく起こす問題と対処法を教えてもらった。とりあえず、奥さんが怒ったら謝罪。奧さんが悪くても僕が謝罪。

弁明や話し合いは奧さんが落ち着いてから。

誠意のない謝罪は状況を悪化させるので、上手い謝罪の仕方が夫婦円満の秘訣らしい。


結婚ってなんなんだろう。


深く悩むとドツボにはまりそうで、僕は思考を放棄した。




レヴィエスの前を辞すると竜舎にいるサムイルを訪ねる。


「ルキノ、お前いつ村へ行く?」

「どこの村だよ?」

「実家のあるとこ」


故郷の村はサムイルとって帰りたい場所じゃないか。


「帰る予定ないよ」

「卒業報告するだろ?」

「それは技校卒業したときにしたから、もういい」


最低限の約束は果たしている。

帰郷していかどうか、迷いもあって積極的に帰る気にはなれない。


「いいってことはない。一緒に行こうぜ」

「サムが一人で帰るの嫌なだけだろ?」

「わかってるなら、いいだろ」

「カヌメも一緒なら」

「なんでカヌメ?」

「嫁」

「はっ?」

「腹に子もいる」


それはそは楽しそうにサムイルは笑いやがった。


「結婚は確定だが、結婚の申し込みがまだでさ、どうすればいいと思う?」

「指輪とか花を送ればいいんじゃねえ?」

「指輪なら自分で作りたいな」


色が綺麗ならちょっと変わった素材でもいいだろうし、防御系の魔術つけてもいいな。花はわからないからマルクに教えてもらおう。


「今週中には指輪作って申し込むから、それまで待って」


一人で行きたくないサムイルは快諾してくれた。




どこで間違えたかな。

試しに指輪を作ってみたら見た目があんまり女物ぽくなかった。これは買ってきたのに魔術式を込めるしかないかマルクに相談したら装飾品の本を何冊も持ってきた。


それらを熟読しつつ、宝飾品店をめぐり、僕は魔石で一枚づつ花びらを作って花を形成する。砂漠で咲く小さな花で、カールクシアではめずらしいが、カヌメは母国で見たことがあるはず。


僕、かなり魔石は溜め込んでいて、試作するのには困らなかった。だから色違いで作ってみたり、指輪にするには大きな花とかも作ってたら、マルクが手書きのデザイン画を持ってきた。


注文とってきたから作れってことらしい。

作る形さえ決まってれば、僕としては武器を作るより簡単ではある。錬金術で苦手なのは強度を出すことだから、細かい錬成くらいなら楽勝だ。


でも、僕そろそろカヌメに結婚申し込まないといけないんだけだな。


「いい雰囲気の店と花の手配はしておきます」

「実家に紹介しにも行きたいんだけど?」

「竜貸し屋で相談したところ、サムイルさまとご一緒であれば日帰りできるそうです」


サムイルよっぽど長居したくないんだな。


カヌメに渡す指輪以外はどうやら量産させられるらしい。同じデザインで色違いも作るそうで、試しにパーツごとに一ダース作った。

組み立てはマルクが人を雇うそうで、組み立てパーツがなくなる前に、結婚の申し込みから実家へのあいさつまで終わらせてくださいとマルクがにこやかにお願いしてくる。


僕、商会長だけど、拒否権ないのかな?


どうせお飾りだし、いいけど。マルクは本当に、仕事を増やしてくれる。


「旦那さまが出稼ぎに行かれますと今までと同じようにはいきませんから、今だけですよ」

「マルクがいれば大丈夫だと思う」

「そうですか。では、旦那さまの信頼にできうるかぎり、こたえさせていただきます」


なんか嬉しそうにマルクが決意表明する。

張り切ってくれるのは悪いことじゃない。僕は今までどおりマルクにすべてを任せた。


ついでに結婚申し込みに使う店と店の料理に僕の当日の衣装とかも手配してもらう。マルクに任せれば間違いない。

僕は当日、カヌメを夕食に誘い、マルクが用意してくれたカヌメの衣装を渡す。


それからレストランにエスコートして、頑張った。緊張しすぎてほとんど記憶に残ってないけど、カヌメの手には僕の作った指輪がある。


これで僕のなすべき事は終わった。そう思っていたら、世の中には婚約指輪と結婚指輪があると知る。僕の実家にはそんなものなかったはず。


「また面白い物作って下さい。売りますよ」


にっこりとマルクが笑う。結婚指輪をカヌメよりマルクに期待されている現状。やる気は上がらないし、悲しくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。