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大陸南部遠征 4

騎士連中が仲違いをした。

ギスギスしてるし、細々とケンカしている。それを僕は放置していた。それで騎士連中が自滅したところで、どうだっていい。


彼らがケンカしてわかったのは、今遠征の隊長は断固僕を認めない派だ。僕が成した結果なんてどうでもよくて、最初から否定する報告書を作るためについてきている。


そもそも何を持って成功とするか規定がないため、成否なんて報告書の書き方次第だ。

罪人にされるような報告をされない限り、もう放置でいい。ただ蜂の恨みに罪人にされたら、生死がレヴィエス頼みになってしまうのが頭の痛いとこだ。


僕とレヴィエスに関係があるのを知っている国のお偉いさんは、その情報を広めてはいない。たぶん、沈黙しているのは広まると金がかかるから。


勇者と賢者が一緒にいるとなると、魔人討伐がカールシア王国主導になってしまうし、成功させなくてはならなくなってしまう。


国際情勢で優位に立てるかもしれないが、失敗の危険は高いし、勇者を後方支援するにしても大陸北部から南部に人や物を送るのは金かかる。

勇者召喚のグチを思い出すと、あの人も失敗報告待ちをしていそうた。


失敗報告ありきなら、責任追求されることもないだろう。僕は賢者なんて自称してないし、金を出す許可を出したのも僕じゃない。

それでも責任追求されるというなら、これもレヴィエス頼みになる。


でも、あの財政に関わっていそうなお偉いさんは、僕とレヴィエスの関係を隠したいんだし、竜頼みにならなくていいように調整してくれるはず。


国の意向がわかれば、騎士たちはもうどうでもいい。全滅して、結果として失敗報告になろうが、生き残って失敗報告を提出しようが、同じことだ。


偉い人の思惑がわかってない騎士たちは、僕を認めて安全な道行を望んでいる。けど、都合のいいように利用されてやる気はないよ。


これから先、僕が警戒すべきは教会の意向で動く大司教だ。レオナから情報を得ているみたいだし、こっちの指示に従うくらいには評価してくれている。


評価としては現状維持か下方修正してもらいたい。過大評価が一番困るので、ちょいちょい危険な目に合わせるべきかもしれない。


怖い思いで足りなければ痛い思いも追加で、調整きくかな。

たしか、大陸南部には毒持ちの魔物が多様にいる。即死系を避けて、状態異常系の毒にかからせてみようかな。


つらつらと今後の予定を考えていたら町に着いた。




現在、人間の国に統治されている最南端の町。

もともとはか街道沿いにあるだけの町の一つで、急ぎの人なら泊まることすらしない、これといった特色のない町だったらしい。


それが今では町の南側に物々しいほどの高い外壁がそびえる町になっていた。

人や物の移動は低下しており、物価は高い。それでも冒険者がやってくるせいか、五大国を拠点とするギルドの支部がある。


「まずは宿をとるか?」


大通りが交差する広場に面した宿を見ながら、大司教が問いかけてくる。

おそらく、一つ前の町の倍料金を支払っても宿の質は下がっており、料理にも期待が持てない。


「この町の教会は泊まれる?」

「泊まれるが、贅沢はできないぞ」


なんの期待もできない町で贅沢しても、満足感は得られない。それよりも、安心感を得たかった。


「贅沢できなくてもいいから部屋で魔術を使いたいんだけど、大丈夫?」


大司教のお付きによると、大司教の権限で泊まれない教会はないし、だいたいのわがままは許可される。事前連絡があれば贅沢もできるそうだが、この町の物流状況では食事ができるだけで良しとしなければならないそうだ。


食事が不満ならなんか採取するなり、狩ればすむ。魔術結界を張るのが、許可される範囲のわがままならそれでいい。


「数日は滞在する予定でよろしく。あと、この町の周辺情報集めて欲しいかな」


叶えてくれるかどうかわからないが、要望だけは出しておく。


「ルキノ、ここで足止めする理由は?」

「身体をならすためだよ」


アルシェイドは理由を確認してきたが、サムイルは問わない。おそらく、肌で何か感じているのだろう。実に獰猛で楽しそうな笑みが浮かんでいる。


この町は北と南では魔力濃度が違う。南部は濃度が高くてまるでダンジョンの中のようだ。

魔術を使うと結果に違いが出る。それだけの魔力濃度差がある以上、魔術反応の違いに順応する時間は必要だ。


僕らは教会へ移動し、騎士連中は教会近くの宿に泊まる。


荷解きすると、僕は散歩に出た。サムイルとアルシェイドがついてきて、その背後に騎士が二人いる。

そんなにつけまわさなくても、今日は町の外に出るつもりはない。


商店をひやかしつつギルド巡りをして、公開情報を集めるだけだ。ついてきても楽しことはないんだけど、追いはらうわけにもいかない。


調べてわかった南へ行くルートは三つ。

街道を行くルートと村を巡るニルート。どのルートを行くにしても、かつての国境を超えて戻ってきたという話は聞かない。だか、南部から逃げてきたという人の話は聞く。


だから、地面が裂けて向こうに行けなくなったとか、どこか異空間に繋がってしまったとかではないはず。

魔力濃度がダンジョン並になっているせいで、迷いやすくなっているのだろう。


情報収集が終わると、女王蜂を売却する。常時討伐になっている魔物はどこのギルドでも報酬は同じだ。なので、サムイルに大翼で手続きしてもらうのが一番待遇がいい。


サムイルは手続きを嫌がった。だか、ギルドカードの差を、ついて来たんだから利用させてもらう。

正直、僕だけだと、こんなとこまで何しに来たのって感じの扱いになるし、ドラゴン討伐歴のあるサムイルに来てもらってよかった。


僕の感覚が鈍ってなかったら、東の村を経由する南に向かうルートにはドラゴンがいる。街道と西の村を経由するルートはまだドラゴンにまではなっていない。その一歩か二歩手前くらいだ。


南に向かった奴らが帰ってこないの、このドラゴンとドラゴンもどきのせいもあるんだるうな。迷子になったあげく、強敵に遭遇とか嫌すぎる。


しかし、町の南側の壁、ドラゴンに対しては役に立たない。気まぐれを起こされたら、この町滅ぶな。


この町はいつまで、安全な最南端の町でいられるのだろうか。


ぽけぽけと街を歩き、南の外壁にほど近いカフェに入る。品数が少ない上に高い。唯一安いのが、この辺りで取れる香草茶一種だけ。

とりあえず、それを人数分頼む。


「この町で嗜好品の補充はできないね」


残念そうにアルシェイドがつぶやく。


「そういやアルはどうやって北に行ったんだ?」

「オレが北に向かったころはまだ街道が使えた。あと、北に向かう乗り合いの車が定期的に出てたよ。もうちょい南まで大丈夫だったし、家財持って逃げてきていたから、この辺りまで来ると魔物より盗賊の怖かったね」


『本物のアルシェイドくんは盗賊に殺されたから、オレがなりすましたんだ』


盗賊怖い発言となりすまし、どっちに意識を向けるか迷って言葉に詰まった。呼吸一つ置いて、念話する。


『死ぬのを待ってたのか?』

『いや、たまたま盗賊に襲われているところに遭遇して、死にかけの子どもにあいつら殺してくれって頼まれた。君の名前と身分くれるならいいよ、って殺しに行って戻ってきたら死んでた』


特に意味のない偽名かと思っていたが、そうでもなかったらしい。ウソか本当かわからない話だが、殺してなりすましたといわれるよりはいいと思うことにする。


「盗賊ねぇ、今はもういないだろ。この辺りの魔物が強くなっているから、町の外に住む場所を作るのは容易じゃない」

「そうだね」


アルシェイドが穏やかな表情をしたところへ給仕がきた。テーブルの上に三人分のお茶を置いていく。


『本物のアルシェイドが死んだのが、この辺りだったのを思い出したら、知っておいてほしくなった』

『見ず知らずの相手を悼む心の広さは、僕にはないよ』


僕は手近にあるカップに手を伸ばす。香りをかぎ、一口口に含む。砂糖とかミルクが合わない、青臭さのあるお茶だった。


でも、まぁ、悪くはない。もうちょっと乾燥させて、何か口当たりの優しいのと混ぜるとよさそう。


「サム、東と西、どっちがいい?」

「強い方」

「なら、明日は東する」

「ルキノ、二人だけでわかる会話しないで、もうちょいわかるように話せ」

「ああ、身体の慣らしがてら討伐に行く。余裕があればその先の村の様子も知りたいけど、討伐したら戻る感じになると思う。荷車は大司教に頼んだら用意してくれるかな? 用意してもらっても離れていてもらわないと、死なれるかも」


意識を明日狙う予定のドラゴンに向けて、悩む。

なんか、気配つかみにくいし、デカそうなんだよな。サムイルなら倒せるだろうけど、周囲の安全までは配慮する余裕はなさそう。


「生死に関わるくらいなら、騎士さんにも情報やれよ」


街角に立っている騎士に視線を向け、手招きする。二人ともすんなり来てくれた。


「明日、強個体の魔物討伐に行きます。大司教並の防御力がないと、一撃受けたら死ぬ可能性があります。おそらく、中級魔術以下の通常攻撃は通用しません。こちらから、そちらへ補助に入る余裕もないです」


中級魔術はいくつか重ねて使えば攻撃が通るはず。だが、騎士ってそんなに魔術が得意じゃないんだよな。剣とか身体に付加する感じの魔術ばかり使っていて、近距離戦しかできなさそう。


「中距離から遠距離攻撃ができないと、エサになって終わりですね。近距離なら、サムイルと同等以上の速さがいりますが、明日、ついてきますか? 一応、日暮れ前には町に戻るつもりですが」


隊長いないし、ここにいる二人では判断できないらしい。

ついてくるなら、なるべく距離をとってもらう。戦うつもりなら、明日の朝サムイルと手合わせしてもらうことにした。


来ても役に立つとは思えないし、望遠鏡を持って外壁を登ればいい。それで事足りるくらいの距離だ。




翌日、朝から徒歩で町を出た。

自衛できない大司教のお付きは町でお留守番。騎士は二人ついて来て、残りは外壁の上で待機。

僕の言葉を疑うのが仕事になっている隊長だが、聞く耳はあるらしい。ついて来ている騎士二人も交戦になったら逃げていいと許可を出していた。


素直に逃げてくれるならと、遭遇してすぐ時間稼ぎを行う。が、さほどそちらを気にしてはいられなかった。


やっぱり、強いわ。


なんか長そうだと思ってたら、蛇がドラゴン化していた。

成人男性を縦に丸呑みできそうなくらい口は大きいし、ブレスに毒性がある。


巨体のくせに移動は静かで速いし、牙を折ってもすぐ生えてくる。アルシェイドに岩系魔術で胴体を串刺しにさせても、ちょっと暴れているうちに自由を取り戻されてしまう。


「大司教、防壁三枚、最大強度でいける?」

「やるしかなかろう」

「何があっても強度維持でよろしく。死にますよ」


僕は大司教の防壁のすぐ外で足を止める。危機感に背中がざわつく。太い胴体がそこらでうごめき、四方から迫る。


僕が逃げ出すと、おっさんの悲鳴が響いた。


「ルキノ、酷い」


アルシェイドの避難を僕は無視さして魔術を三連続で放つ。やっと片目を潰すことに成功した。


「ムダ口たたく前に、シッポだけでも切断しろ」


大丈夫、魔術防壁がある間は生きている。

まあ、防壁が隙間なく蛇に巻きつかれて生きた心地はしないだろうけど、動きを止めるには必要な犠牲だ。


両目を潰すと、僕は蛇の頭周辺で小さな爆発を起こし続ける。音と熱と爆風で、周辺情報を制限できるはず。


鬱陶しそうに頭を何度も振る。それでどうにもならないとわかると、ブレスを吐き出すため大きく口を開けた。大口を開けた時だけ、動きかとまる。その時を狙いサムイルが頭を切り落とした。


討伐終了。


さて、どうやって大司教を救出しようか。


「防壁壊さないように、細切れにできる?」


軽い力では切断できないし、力いっぱいやると防壁を壊してしまう。面倒だとぼやきながら、サムイルがぶつ切りにしていく。

切断した物をアルシェイドがどかして、どかした物を僕が妖精石に収納する。


大司教の視界が回復したら、収納はやめて解体にしよう。

しかし、解体したところであの町で買い取ってくれるのだろうか。ドラゴンの討伐報酬を払える財政状態には思えない。


そこらへんの交渉はギルドに任せよう。討伐報酬がでないなら、魔石の売却は拒否して、カールクシアで売る。

個人所有できない大きさの魔石だか、教会に仲立ちしてもらって自国の騎士と売買契約を交わせばいいはず。


今後の予定とともに、うきうきと素材の使い道を考えていたら、ものすごく恨みのこもった声で名前を呼ばれた。


「ライズさん優秀ですね。さすが大司教」


褒めたのに眉間のシワが消えない。


「明日は西側に行きます。今日のよりは弱そうだから、楽勝ですね」


視線が冷たい。

助けを求めて視線をやれば、サムイルは自分で火起こしてドラゴン肉を焼いてるし、アルシェイドには視線をそらされた。


「えー、お肉でも食べて休んでから町には戻りましょう」

「お前、レオナ相手でも同じことやったか?」

「レオナなら、聖句を使ってもらってからになりますから、アルシェイドを巻き込むか、いくつか手をうってから僕が一緒に防壁の中に入っていたでしょうね」


教会の人は聖句を使うと防壁の強度や回復力が上がる。信者でなくてもわずかばかりの効果があるが、教会の人の変化は圧倒的だ。

聖句の影響を受けている間、魔力の質が別ものになる。それだけの効果が聖句にはあった。


ライズなら、防壁三枚で強度が足りなければ、聖句を使ってしのげる。レオナじゃそこの分が足りないので、僕かアルシェイドが補強のために一緒に入らなくてはいけない。


「やらない選択肢はないのか」

「それだけ教会信者の防御力を信用しているってことですよ」


大きなため息をつかれたが、ライズから眉間のシワは消えた。


「これでも死人だけは出さないように努力したんですが?」


ドラゴン相手に死者ナシって褒められてもいいはず。


「これ、放置してたら町滅んでましたよ?」


切り落とされた頭を指指して、僕は自らの正当性を主張する。


「君はよくやった。優秀なのも認める。だがな、方法がまったく優しくない」


ドラゴン相手に優しさなんて発揮する余裕ないですよ。僕はできる相手にできることしか求めてない。なのにサムイルはお肉に夢中で、アルシェイドとライズは視線が冷たいくて、僕の味方をしてくれる人はいなかった。

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