大陸南部遠征 3
今日の移動は無理だろうな。
解毒は間に合ったが、ぐったりした人ばかりだ。陽はまだ高いが、野営の準備を始める。
アルシェイドに残ってもらい、蜂の解体をしてもらう。
「これ全部か?」
「毒袋と針と羽が三十くらいで、あとは魔石だけでいいけど、女王蜂は解体しないで集めといて」
「女王蜂ってどれだ?」
「一回り大きくて針の形が違うらしい。襲われている時に感知したのは三匹たけど、この規模の群ならもう少しいるかも」
その確認にサムイル連れて巣を見に行く。
最初は女王蜂一匹だけど、群が大きくなると女王蜂の数が増える種だとギルドの魔物情報にあった。あと、蜂の巣は高価買取りらしいので是非とも手に入れておきたい。
蜂の巣の場所は蜂の飛んできた方向で、なんとなくあれかなと思うところがある。ついでに水場の確保もしたいし、野営のために何かの肉も手に入れたい。
サムイルも肉のためならやる気をだすだろう。僕は街道から森の中へわけ入る。ふらふらと採取して、サムイルに怒られなが進む。
迷わずにたどり着けたのはいいが、でかい。巨木を二本、覆いつくすくらいの大きさがある。襲いかかってきたのは群の一部だったようで、まだたくさんの蜂がぶんぶん飛び回っていた。
蜂の巣をあきらめるなら、高火力でサムイルに燃やしてもらえばすむ。が、美味いらしいし、食べてみたい。
「サム、ここから巣のかかっている木二本、根元あたりから切断できる?」
「切るくらいはできるが、アレ倒れるのか?」
「倒れなかったら巣の手前で爆発起こせ。爆風当てても倒れないようなら木を燃やしてみよう」
それでダメならなんか考える。
サムイルが攻撃姿勢にはいったので、僕はクズ魔石を一つかみ握りしめた。
斬撃が飛ぶ。きれいに切れたが、地面にぼってりと接している巣は倒れなかった。そして、巣を攻撃された蜂がこっちに向かってくる。
サムイルは向かってくる蜂を巻き添えにして爆発を起こした。蜂の巣は下三分の一くらいを残して倒れる。
一部、燃えたな。爆発が近すぎだ。
けど、元がでかいし、多少燃えても採取には問題ない。
僕的にはもう十分だと思ったんだけど、サムイル的には気に入らなかったようで、木を燃やす。
「こんなもんか?」
「巣は放置。蜂、片付けるぞ」
飛んでくる蜂に向かってサムイルはガンガン斬撃を飛ばしつつ、火炎系の魔術で爆発を起こす。僕はサムイルがとりこぼした群に向かってクズ魔石を投げ、風系の魔術で切り裂いていく。
それでも寄ってくるのは剣で切り捨て、間に合わない分は防御魔術を展開して防ぐ。耐えていればサムイルがどうにかしてくれる。
広範囲の攻撃はサムイルの方が向いているので、そっちは任せて、僕はサムイルの死角から襲ってくるのを重点的に潰す。
いかにサムイルが攻撃に専念できるが状況を作るか。ごちゃごちゃと敵がいる時に僕が考えるのはそれだけ。
サムイルが十全に力を発揮すれば、どんな状況でもどうにかなる。
斬撃一つで数体、爆発一つで数十体。
数千いる蜂に対して、一撃で削れるのは微々たるもの。だが、確実に潰していけばいずれ終わりはくる。
地面を埋めつくす蜂の群れ。素材採取はアルシェイドに期待して、ぶちぶち踏み潰しながら蜂の巣の回収に向かう。
「サム、ヒマなら魔石回収よろしく」
「燃やすぞ」
「数多いし、仕方ないか」
蜂の体を燃やして、魔石だけ残すつもりなのだろう。ただ火力が高いと魔石まで燃えてしまうし、表面が焼けて品質が劣化しやすい。
微妙な火力調整が必要になる。良好な状態で六割回収できたらいいほうかな。
「先に女王蜂を拾うからちょっと待ってて」
女王蜂を五つ拾い、巣までたどり着くとサムイルに合図を送る。
炎が地面をなめた。
一部破損しているが、蜂の巣は手持ちの皮袋に入るような大きさではない。幸い人目はないし、妖精石の中に取り込むことにする。
一度にスパッと収納したかったのだが、どうも蜂の子が取り込めないようだ。生きてたらダメなようなので、自らの感覚に任せてグサグサ蜂の巣を剣で刺していく。
「ルキノ、何やってんだ?」
しばらくすると、魔石のつまったカバンを背負ったサムイルがやってくる。
「蜂の子退治。あのへんに密集しているぽいから、ちょっと切断してみてくれ」
気楽に剣を振り、サムイルは蜂の巣を切断してくれた。
あー、気持ち悪いくらいうじゃうじゃいやがる。あの辺りの回収はあきらめよう。
「サム、跡形もなく燃やせ」
「はいよ。人使い荒いな」
「やれる相手にしかいわねーよ」
女王蜂になる幼虫が一つでも残っていたら、直ぐにまた群ができる。帰り道や将来のことを考えても街道近くに巣はあってほしくない。
満足するまで妖精石に蜂の巣をためこむと、左の腕輪に石を戻す。残った巣は全部サムイルに燃やしてもらった。
「お前、そんな腕輪してた?」
「あー、いってなかったか。いつもは幻術で隠しているから、ばらすなよ」
「ルキノ? 幻術なんて師匠から習ってないよな? 学院でも教えてないし」
あれ、なんか機嫌悪くなってないか?
「隠し事するのはお前の趣味みたいなもんだか、お前の置かれている状況説明くらいしろ」
なんか怒っているようなので、サムイルの不満を聞き出すことにする。
騎士とか大司教が一緒の遠征って、やっぱりおかしいと思うか。偶然でごまかされてくれるはずもないし、どうするかな。
現状、サムイルに対してアルシェイドほど情報を渡してないか。知らなくても動いてくれるから、情報を伏せて甘えすぎた。
「どんな説明が欲しい?」
サムイルが望むことなら、話してもいい。
答えるつもりはあるから、真面目に問えばサムイルが眉間にシワを作って悩む。
悩んでる姿は好きじゃないな。サムイルはあんまり悩まない方がいい。似合わないし、どうせ頭で考え出した結果どおりになんて動きはしない。
「ルキノ、お前、学院卒業したらどうすんの? 就活してないよな」
将来ねぇ?
「魔術具師志望ではあるこど、就職予定はないな。国外逃亡する可能性がかなりあるから、就職して定住することはないな」
「お前、そんなヤバイ状態なのか?」
「竜から逃げるのは人間の身には無理だろ?」
そうすると勇者とか魔人とかと無関係ではいられない。
「世の中が平和になれば定住先を考えるけど、今のところは身軽でいたいし、僕の家族、人質目的で監視ついてるらしいから、貴族とか軍関連の人とは仲良くできそうにない」
「だから、師匠たちとも連絡をとらないのか?」
「僕は弟子としてはオマケだからね。師匠たちに暗殺者になられても困るしさ」
魔人の脅威が去った後、師匠たちに暗殺者になられるのが僕としては一番まずい。手の内を知られているし、無意識下における警戒心も低くなる相手だ。
「サムがサムの父親か師匠の同業者になったら、僕の監視とか暗殺の仕事くるかもしれないな」
「オレ、お前に親父のこと話してないよな?」
「詳しいことは知らないが、王城にいることくらいは知っている。実習中に城で師匠にも会ったから」
ますますサムイルの機嫌が悪くなった。
「お前ばっかりヒミツがあってずるい」
うわ、面倒くさい拗ね方しやがった。
僕、これのご機嫌とりしないといけないのか。戦力としてサムイルが欠けるとイタイし、やらないとダメか。
内心うなだれながら、僕はサムイルと向き合うことにした。
日が暮れ始めたころ、僕らは野営地に戻る。
サムイルに探索者の話をして、美味しいお肉になりそうな魔獣と戦わせ、ご機嫌とりに終始した。僕はとっても疲れたが、サムイルの機嫌は悪くはなくなっている。
できる男、アルシェイドは騎獣の荷解きをして、晩飯の準備までしていた。
「たぶん、なんか狩ってくると思ったから串も用意してるぞ」
さっとお茶まで出してくれたアルシェイドの優しさが身にしみる。
騎士連中は肉を食べる元気はなさそうだけど、僕らは彼らに合わせてスープとパンだけなんて質素なものにするつもりはない。食べられるときにしっかりと食べておく。
「ルキノくんは言葉をつくすより強制実体験で教えてくる。そう報告してきたレオナの言葉を今、重く受け止めている」
スープ皿を受け取った大司教が、なんか語り出した。
一度いって聞かない相手は十の言葉を尽くしても聞かない。なら、聞かない相手に言葉をつくす意味が見出せない。
「僕は命令する立場ではないですし、強制できる立場でもない。耳をかたむけることのない相手に僕の言葉は届かない」
中途半端な言葉なんて揚げ足取りに使われたり、逆恨みの原因になるだけ。ならば僕は沈黙を選ぶ。
「同行者として言葉はかけた。それをどう判断するかはあなた方です。その判断の結果、傷を負ったからといって僕のせいにされては迷惑だ。安全だと判断して結界を解いたのはあなただ」
これで逆上するなら、今後は放置だ。どんな危険に見舞われようとも知らない。
それで面倒な人になるようなら、あえて危険に遭遇させてやる。
「責めているのではない。痛い目にはあった。しっかりと耳をかたむけさせてもらうので、言葉は惜しまないでほしい」
命令ではなく依頼。地位のある人にしては柔軟な対応をしてきたな。
「緊急時に言葉づかいが悪くて不敬罪に問われたくはないので、言葉に意識を向けられるときは対処いたします」
沈黙はわからなかったとして、無能と判断されるが、罪に問われるよりはいい。
「どんな言葉でも罪には問わない。大司教としての権限が許す限り対処するので、言葉を惜しまないでもらいたい」
あっちの騎士たちは大司教の権限の外だよな。
薬も食料も提供したのに、好意的になるどころか忌々しそう。彼らとの間に良好な関係を作るのは厳しすぎる。
あちらから歩み寄ることがない限り、ほっとこう。最悪、一人生き残ってくれれば国への報告はできるはず。
誰を生き残らせたらいいか、観察しようかな。
だいたいこんなとこで足止め食らう予定ではなかった。まだ敵として魔人と遭遇してないし、魔人が操っていると思われる魔物にも遭遇してない。
今日のことだって、普通に町から町へ移動する際に起きる危険の範囲内だ。魔人の関わる厄災ではない。
「まだ魔人と遭遇するような地域ではないですから、南下すれば危険度合いはこれからどんどん上がるでしょう。僕にどこまで対応できるかわかりませんが、皆で生き残れるといいですね」
なぜだろう。
大司教が引きつった笑みを浮かべている。
「君、賢者に認定されることに積極的ではなかったよね?」
「賢者なんて自称するようなものでもないでしょ。そんなもの目指しませんよ」
あら、なぜかな。
大司教、顔色が悪いですよ。
「君、賢者認定回避のために、報告者を消そうなんて思ってないよな?」
笑い声交じりに大司教が問うが、目が笑ってない。
報告者がいなければ、どんな報告をされるか怯えることはなくなる。大司教の提案は悪くない。
『ルキノ、真面目に検討するな。ここはウソでも即答で否定してやるところだ』
苦笑いしながら、アルシェイドが念話をよこした。
「僕に報告者を消すような魔力はないですよ。サムやアルくらいの魔力があれば跡形もなく消してしまえるでしょうけど、僕は非才ですから」
僕ができるのはせいぜい危険地帯に誘導するくらいですよ。それに、街道沿いの蜂の巣は撤去したが、森にはまだ蜂はいる。
蜂の毒は過敏症を引き起こす。二度目は解毒薬ではどうにもならない。アナフィラキシーショックについて僕は唐突に語ってみた。
今回の蜂の毒が本当に過敏症を引き起こすかどうか知らないが、そういう毒を持つ蜂がいることは薬学で習った。
対処できるのは上級回復魔術だけ。大司教はどれだけ使えるかな。
「虫だからと侮ると危険ですよね。まあ、でも、侮って痛い目を見るのは自己責任ですし、痛い目を見ても対応を変えないなら、それもまた自己責任ですからね」
僕はパンに採取してきたばかりの蜂蜜をぬる。
「いずれ自滅する人をどうこうしようとは思いません」
にっこりと笑い、僕はパンにかぶりつく。今の彼らに誘導するほどの価値もない。
高みの見物をしていれば事足りる。
食事が終わると、顔色の悪い人たちはほっといて三人で野営の見張りの順番を話し合う。
どうせここじゃ熟睡できない。サムイルとアルシェイドが起きているうちに僕が仮眠をとる。起きたら、あとは僕が見張りをすることにした。




