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大陸南部遠征 2

果物の甘みと辛い香辛料が混ざった肉料理。大皿にどんっと盛られたそれは、馴染みはないが美味しく食べられる。


悪かないんだけどさ、僕は庶民料理じゃなくて高級料理の予定だったんだよ。


次々と運ばれてくる料理に罪はないし、拒否はしない。しっかりといただきますが、納得はしていなかった。


甘いい揚げ物も辛い揚げ物もいけるけど、甘いのはおかずより甘味よりだな。ころもに木の実の粒があるのもいいが、食事マナーの必要のない食堂で食べたかったワケじゃないんだ。


どうせおごりなら、高い物がいいよ。


「どうした? 不満か?」

「不満ではないです」


価格帯以外は満足です。


大通りから外れた所にある食堂だし、連れて来てもらわなければ入ることのなかった店だ。地元の庶民に人気の店ってトコだし、美味しい店という要望はかなっている。


ただおごりの高級料理に未練があるだけで、これはこれで悪くはない。

僕がケチくさいだけなのもわかっているんだけど、わりきれなかった。


マルクのおかげでかなり収入あるのに、どうもケチなのは治りそうにない。治したいとも思ってないけど、未練がましいのはどうにかできるなら、どうにかしたかった。


食事よりお酒を優先していた魔人は、僕の食事のペースが落ちるのを待って本題をきりだす。それと同時に魔術反応がある。


危険性はなさそうなので、放置。魔術が展開されてから解析する。


「竜の動向と勇者の動向を教えろ」

「そんなもの知りませんよ」


うわっ、めっちゃにらまれた。


魔術は遮音と幻術ってところで、効果としてはここで何を話しても隣に聞こえないし、違和感がないように見えるくらいかな。


ここで僕が死体になっても気づかれないあたり嫌な魔術だが、逃げるのに邪魔になるようなものではない。


「竜の腕輪を持っているのに知らないはないだろ?」

「竜に接触したことはありますが、動向を知るような立場ではありません」


食事の対価に僕が語れるのは現時点で、竜が介入するつもりはないくらいだ。

そのくらいでは満足してくれそうにないが、満足できるような情報なんて僕は持っていない。


「竜でも勇者でもいいから、接触できるなら連れてこい」


ん?


「どういう意味でしょうか?」

「ある程度討伐して数を減らしてもらわないと、いつまでも終息しない。終息しないと地元に帰れないんだよ。オレらは」


なんか、語り口調が熱を帯びてきた。

これはマズイと思ったときには酒を注文されてしまう。


器用ですね。遮音魔術、酒の注文だけとおすなんてできるんだ。


あなたの魔術に対しては敬意を持ちますが、愚痴はいらない。酔っ払いの愚痴なんて長くて、くどくて、面倒なだけ。


夜遅くまで、僕は解放してもらえなかった。




寝静まった宿に戻る。サムイルとアルシェイドが待っていて、僕の姿を見るとサムイルはさっさと寝室に引っ込んだ。


どうやら、帰りが遅いのを気にしてくれていたらしい。


「遅かったな」

「からみ酒につき合わされていたから」


『魔人の』


「それは大変だったな。なんで絡まれてんだ?」

「ギルドで会った」


左腕を胸の前まで上げて手首を指差すと、アルシェイドは少し考える様子を見せた。


『それが理由ならわりと優秀なヤツだな』

『地元に帰りたいけど帰れないって愚痴られたけど?』


アルシェイドが困った顔をしていると、サムイルが引っ込んだ部屋の向かいから大司教のお付きの人が出て来た。


「起こしちゃいました?」

「いえ、まだ寝てませんでしたから。遅くなるなら連絡は欲しかったですけどね」

「遅くなる予定ではなかったので、すみません」


僕も酒の愚痴につき合うより、高級料理食べたかったですよ。


「ギルドでは大陸南端にいたる道を見つけたら報償金が出るみたいなんですが」

「成功報酬の上乗せが欲しいんですか?」


にこにこと優しい笑顔のまま蔑んだ目で見られる。


「あるなら欲しいですが、それよりも教会ではどの程度情報を得ているんですか?」


お金はないよりはあるほうがいいし、僕はお金より命が大事だ。


「道を探しに行って失敗した連中がダンジョンに流れているそうなんですよ。失敗理由とどこまで行けたか知りたいんですが、教会からの情報提供は可能ですか?」


表情が変わる。とりあえず、蔑んだ目じゃなくなったんでいいとしよう。


「明日、朝一で手配しましょう」

「お願いします」


役に立つかどうかはわからないが、使えるものは使っておこう。

手配が明日ってことは、早朝に出発はないな。

朝市に行けば、夕飯に食べた果物が見つかるだろうか。少し、楽しみになる。


明日の予定を立てながら、僕は風呂に入って寝ることにした。




騎獣での移動は順調で、町から町へと移動して行く。

野宿するほど急いでないし、騎獣に負担をかけるほど急かす必要もない。


移動中ヒマなんで、採取に行こうとしたら止められた。サムイルも戦闘がなくてつまらなさそう。


南下すること三日。

徐々に街道の整備が悪くなっていく。往来が減ったせいだろう。道の真ん中に馬車で通るには邪魔そうな背の高い草が生えていた。


ここから先は、人の手が行き届いていない。まだ、迷子になる程道が消えてはいないけど、注意が必要だ。

僕は警戒を高める。




理不尽だ。

薬提供して怒られるなんて納得いかない。


「ルキノ、正直に答えろよ」


アルシェイドが真面目な眼差しで見下ろしてくる。


「お前、蜂がいるのわかってたよな?」

「蜂かどうかはわからないけど、なんかいるとは思ってたよ」


街道にほど近い巨木にかなりの数の群を感知し、何かの巣があるかも、と疑ってはいた。だか、それが両の掌より大きい蜂だとは知らない。


初見の生物を魔力だけで判断はなかなかできないし、ドラゴンとかならともかく虫系の種別判定は知っていても難易度が高かった。


しかし、赤と黒の縞模様の蜂とか、見た目から危険だと主張しすぎ。さすが、刺されてすぐ処置しないと死亡する毒針を持った生き物。優しさ成分がどこにも見当たらない。


「アルシェイド、いくらルキノでも遭遇したことないものはわかんねぇよ。ただ、毒蜂と気づいてから誰かに刺されて欲しいくらいは思ったかもしれないが」


サムイル正解。

正解しても商品はないし、認めると説教が長くなりそうだから黙っとくけど、さすが幼馴染だネ。


表情を取り繕って黙っていたのに、なんか、アルシェイドの視線が冷たい。


「こんなに親身になって治療しているのに、ヒドイな」


数百の蜂相手に無傷なのは予想どおり、僕とサムイルとアルシェイドだけ。大司教とそのお付きの人は大司教の結界に閉じ込めておけば大丈夫だと思っていたのに、勝手に終わり判断して結界解くから、残っていた数体にやられた。


仕方ないので大司教とそのお付きの人には、ギルドで買った薬をすでに投与済み。もう回復の兆しも見えている。


問題は僕らの後追いをしていた騎士たち。見事に全滅。ついでに薬の所持もしていない。

その程度の準備、自分たちでやっといてもらいたかったが、ないならこっちで面倒みるしかなかった。


ただ、ギルドで買った薬は人数分はない。夜な夜な宿で解析しつつそれぽい物を作りはしたが、同じ物にはならなかった。


材料がなんか足りなくて悩んでいたわけだか、蜂に遭遇して理解した。足りないのは蜂の毒だ。

その辺に落ちている残骸から毒袋を採取すれば、たぶん同じ物が作れる。


それまで、なんか足りない解毒薬で騎士連中の延命を行う。大司教も起き上がれるようになったら魔術で回復させつつ延命に協力してくれるらしい。


「僕、がんばってるよ?」


調合中に説教なんてやめて欲しいな。


「ルキノ、新しく覚えた薬を使ってみたい誘惑に負けて、今回の事態が発生したんじゃないのか?」

「アル。そんなこと、自分のパーティメンバーにはやらないよ。僕にもそのくらいの分別はある」


後追い組はパーティメンバーじゃないからね。僕の心は痛まないし、いろいろ邪魔な分たまには役に立ってもらいたい。


「しかし、やる気が上がらない。僕、無料奉仕嫌いなんだよね。冒険者同士なら、時価で薬代払ってくれるのに騎士さんたちは助けてくれて当たり前と思っているから、やる気無くなるんだよな」


本当、薬の人体実験なんて成功例一件あれば僕は満足だし、全員生かすのは面倒だ。


「だいたい上から目線で僕の技能を疑っているわけだし、ここで全滅してくれたら、それはそれでラクだよね」


実際、立場が上だから上から目線なのは仕方ないし、全滅されると僕の能力評価が教会からだけになってしまう。情報操作するなら、そっちがラク。でも、教会からの情報をどこまで国が重視してくれるかわからない。


グチグチつぶやいていると、騎士の一人が財布を投げてよこす。いや、物分かりのいい人がいて良かった。


これで材料費で赤字を出さなくてよくなるし、やる気低下に歯止めがかかる。何しろ蜂にグッサグサに刺されちゃうような人たちだからね。その気になればいつでも魔物使って排除できる。


『守銭奴』


アルシェイドから呆れたような念話が届く。


『正当な報酬だよ』


中身だけ受け取り、財布は返してやる。財布持っていると、あとあと盗まれたなんて言いがかりをつけられそう。


そんな疑いを持つ程度の関係しか、僕らの間にはなかった。

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