大陸南部遠征 1
飛竜での移動五日。
夜は街で休みながら、大陸を半分と少し縦断した。
空の旅はここまでで、これからは地上を行く。僕とサムイルとアルシェイドに用意された騎獣はラウンドバードで、大司教とお付きの人はハットトカゲ。
ハットトカゲは帽子見たいな角があるトカゲで、比較的温厚な種だ。足はちょっとだけラウンドバードより遅いけど、力と持久力はハットトカゲの方がある。
買うにしろ借りたにしろお値段もハットトカゲの方が上。それでも、一部の荷物を妖精石に隠している僕らと違って荷物の多い大司教たちだと、一人当たりラウンドバード二羽必要で、二羽用意するならハットトカゲの方が安くすむ。
僕らの後をつけてくる、カールクシアの軍関連の人もハットトカゲ。大司教に合わせて移動すれば、彼らをおいてけぼりにすることはないだろう。
今まで来たことのないこの場の持つ雰囲気と香る匂いに、僕は笑みを浮かべる。
見たことのない、知らない植物がそのあたりに溢れており、採取欲求が刺激された。
移動は明日からにして、今日は騎獣の慣らし日にする。
町の外をちょっと走らせて、僕は採取しつつサムイルとアルシェイドにその辺にいる魔物を狩ってもらおう。
町の近くのせいかさほど強いのはいないから、なるべく素材価値高く狩ってくれよ。
「オレ、この辺りの魔物のどこに素材価値があるか知らないぞ。アル知っているか?」
「知らねぇ。ルキノむちゃぶりすんなよ」
「一撃で、損傷範囲を最小にして仕留めればいいだけだよ」
サムイルとアルシェイドが微妙な顔をする。
「オレらが小さいのを相手にしたらやりすぎで消し飛ぶかミンチだよな?」
「素材確保より跡形もなく消すほうがラクだね」
ダメダメな発言をする二人に戦い方の方針を告げる。
「サムは剣を使うな。ナイフで、魔術強化をしないで倒せ。アルは雷系の魔術で気絶から即死一歩手前くらいの加減で攻撃するか、氷の魔術で閉じ込めろ」
二人はそんなちまちました攻撃は面倒で嫌だと文句をたれていたが、僕は木の根の間に生えた植物の根から魔力反応を見つけ、穴を掘るのに忙しいかった。
日が暮れる前に町に戻った。
宿はお金を出して暮れる大司教に任せておけば、高級なところに泊まれる。
夕食と朝食込みで泊まれるようにしてもらい、僕は採取した素材をいれた皮袋を背負って一人宿を出た。
頼めばサムイルもアルシェイドもついてきてくれるだろうけど、特に危機感をもない。一人でふらふらしていても問題ないはず。
それならば、ちまちましたことをさせたせいで、暴れたくなっている二人には、訓練と称して発散しておいてもらいたかった。
飛竜乗り場があるような大きな町ならだいたいギルドがあり、大規模ギルドの一つである大翼の支部はこの国にもある。
夕暮れの町を見ものしながら僕はギルドを探した。
カールクシアの首都にあるギルドより小さな建物。場所も町の中心部からややはずれている。この町では大翼より強い影響力を持つギルドがいくつかあるようだ。
大翼で素材を半分ほど売ったら、宿への帰り道にあるギルドをのぞいていこう。掲示板に張り出されている依頼を見れば、この辺りの魔物の傾向が知れる。
全ギルド共通で討伐依頼があるようなのはおさえておきたい。あと、この辺りで作られている薬もほしいが、売ってくれるかな。
一番ほしいのは薬のつくり方だが、現物があれば何回か試作すれば作れないことはないだろう。よっぽど特殊な薬なら難しいが、それほどのものなら忍びこんででも作っているところを盗み見たい。
期待いっぱいに僕はギルドへ入った。
甘ったるい匂いが充満し、食堂にはもう酔客がいる。どうやらここの食事は現地料理とカールクシアの料理が混じっているようだ。
買取受付所に向かい、皮袋の中身を半分出しギルドカードを提示する。買取査定が終わるのを待つ間、周囲の声に耳を傾けた。
カールクシア料理を食べいる集団はどうやら同郷の連中らしい。彼らも大陸南端を目指しているらしかった。
ギルドから熟練者パーティに対して、大陸南端へ至るルート開拓の依頼が出ているらしい。現在のところ成功した者はいないそうで、失敗した者たちは小金を稼ぎに近くのダンジョンへ向うそうだ。
行けるかどうかわからないが、この辺りのダンジョンの位置は確認しておくことにする。
手帳に周辺地図を写していると査定が終わった。お金を受け取ると隣の受付に移動し、この辺りで使われている薬を買いこむ。
回復薬は持っているが品質を見たいので一つだけ購入し、解毒薬は各種人数分購入しておく。
たぶん、大司教なら解毒魔術使える。解析するのに何個か消費しても大丈夫だよな。
遅効性のはいいとして、刺されて数分で死亡する毒は予備がないとまずいか?
でも、高いしな。
刺されなければいいだけだし、サムイルとアルシェイドならそんな心配はいらない。
薬買うお金、大司教にもらってないし、いいことにしよう。
街の中心部にあるギルドに入り、後悔する。
魔力を上手く抑えてはいるが、人間のモノじゃないのがいた。
警戒してよく探っていれば、建物の外からでも気づけたかもしれない。だが、四件目のギルドということもあり、慢心していた。
ギルドに入ってすぐ出て行くというのも怪しいか。特に暴れているわけでもないし、売るもの売ってすぐに出よう。
素材の買取が終わると、さっさと出て行く。よそ見もしないし、誰とも目も合わせない。
あと数歩で外に出られるというところて、腕をつかまれた。
一応、避ける動作はしてみたのだが、相手の方が動きがいい。
「君、面白い腕輪をしているね」
腕を掴んだ男は、服の下を見透かすような目をしていた。
腕輪に何らかの波動を感じたか、腕輪を隠す為の幻術に反応したかは不明だが、何かあるのは確信されていた。
「一緒に食事でもどうだ?」
問いかけてはいるが、腕は放さないままで逃してはくれなさそう。
相手の魔力の全容は知れないが、荒々しくないのがせめてもの救いか。
「今日は美味いものを食べさせてもらう先約がある」
明日以降にして欲しそうな態度をとっておく。
明日ならこの街にいないし、追ってこられたらアルシェイドに相手をしてもらえばいい。
けど、まあ、ムリだろうな。
それならせめて、美味いものを食べさせてもらいたかった。




