遠征準備中
魔術具の卒業制作終了。
先生の評価は合格点を超えているが、勇者関連で卒業させてくれるかどうか現時点では不明との言葉をもらっている。
魔術具に問題があるなら、作るのは好きだし、予算の許すかぎり作る。だが、勇者が原因となると、指をくわえて待っていても欲しい結果は得られない。
なので、行けば、卒業確約なら行きますよ。
サムイルとアルシェイドは完全に僕の巻きぞえだけど、まぁ、大丈夫だろう。
レオナは勇者といるから一緒には来ないが、代わりになる人を教会が出してくれるらしい。
なるべく僕の要望にそうパーティを作ることで、失敗した場合の僕のいいわけをつぶしておきたいのだろう。
失敗すれば僕に対する期待が失望にかわり、成功すれば必要性からより雁字搦めになる危険性が高い。
なんともやる気の出ない状況だが、大陸南部へ行ける機会はそうそうないし、その点だけは楽しみにしている。
僕が考えないといけないのは、どんな結果が僕にとって一番都合がいいかだ。望みどおりにの結果が出なくても、相手にそう思いこませられたらいい。
完全な失敗だと今後アルタが情報くれなくなるだろうから、そこは避けたい。失敗で竜も失望してくれたら勇者も魔人もどうだっていいが、竜に期待されたまま国に邪魔者扱いされたら困る。
失敗に限りなく近い成功が、おそらく僕の自由度合いが一番高い。問題はどういう結果なら、そうなるかだ。
学院側から卒業条件と大陸南部への遠征について話があったあと、二人の意思確認をする。
サムイルは面倒な卒論制作が楽になると、大陸南方行きは乗り気。アルシェイドはあっちがどうなっているか気にはなっていると、気楽に応じた。
アルシェイドはともかく、サムイルは大陸南部には魔人が多くいることへの不安はないのか。僕、様子は見に行くけど、危険そうな魔力には近寄るつもりはないぞ。
極力戦闘回避で、大陸南部の景観観光して戻れば探索者としての能力証明になる。なるが、あんまりも戦闘行為がないとサムイルがあきるかもしれない。
遠征の予定があやふやなまま先生に呼ばれた。聖国から教会に所属した人がやってくるそうで、立派な応接室に通される。
魔術学院には平民向けにの簡素な応接室もあるのだが、そちらには向かわない。 どんな地位の人が来たのか不安になる。
部屋の中にある魔力は四人分。知っている魔力はアルタとロクトのもので、あとの二人は知らないものだ。
魔力の多い方がレオナの代わりに教会が出してきた人だろう。少ない方の人だとレオナの変わりには足らなさすぎる。
案内してくれた先生は応接室に入ると直ぐに出ていった。僕はアルタの隣の席を勧められて座る。
「今代の賢者さまは若いな」
賢者を自称したことはないよ。そういうあなたは聖職者には見えないですね。恵まれたデカイ身体は、槍とか大剣が似合いそうだ。
防御向きの魔力ではあるが、レオナと違って攻撃転用もできそうだし、レオナほど教義に純真には見えない。
得体の知れない笑みが、警戒心を呼び起こす。そんな相手が聖職者。僕、信心深くなれる気がしない。
不信感いっぱいになっていると大男は声を立てて笑う。
「毛を逆立てた猫のようだね。教会は賢者の有用性を認めてはいるが、ノラ猫を飼い猫にするつもりはない。落ち着けよ、少年」
なら、ほっとけよ。
席は勧められたが、発言許可はまだなかった。この大男の言葉も問いかけじゃないし、僕は口を閉ざしたままでいる。
「まず確認しておきたいのだが、竜に選ばれた者よ。そなたは賢者として何を望む?」
今度は問いかけだか、これ、返事すると自分で賢者と認めたことになってしまう。
こういう試すことばかりする人の相手は面倒なんだけど、帰ったらだめだろうか。
しばらく、僕はイスの置物としてそこにいた。
僕にだけ出なかったお茶が覚めきった頃、アルタが口を開く。
「そろそろ今後の予定について実りある話をしませんか? 大司教さま」
「すみませんね。大司教は若い子が相手だったので浮かれてしまったんですよ。いや、もう、この隠す意思が感じられないうんざり顔。若さですよね」
にこにこと感情ではなく、表情筋だけで笑っていそうな男は大司教補佐のストウだと、自己紹介する。大司教のライズは聖国の貴族でもあるそうで、レオナより与えられている権限が大きいらしい。
「うまく使えば便利な方ですから、賢者さまの才覚が問われますね」
試されるための遠征だもんな。善意の協力者ではないか。
うんざりしていると、ストウが楽しそうな笑い声を響かせる。
「いや、いいですね。媚びるつもりがまったくない。さすが自称賢者さま方とは違いますね」
いつまでつきあわなくてはいけないのだろう。面倒。だるい。帰りたい。
「大司教さま。私どもにも次の予定がありますので、顔合わせは終わりにしましょう。今後の日程については書面にてお知らせいたしますので、変更点やご不明な点がありましたらお知らせ下さい」
どやら、アルタもつき合うのに疲れたようだ。意味ある話ができなかった顔合わせを終わらせにかかる。
「教会の認定はいらぬか」
「必要なのは実績と結果です。それによる認定なら受け入れますが、問答による認定では竜の助言ほどの価値は我が国にはありません」
「ならば計画予定はそこの少年に書かせろ」
視線が僕に集まる。
「ルキノ、やれるか?」
「移動にどこまでお金かけていいの?」
「とりあえず希望を言え」
「飛竜で可能な限り南下。そこから騎獣を使いたい」
「騎獣は何がいい?」
「馬かラウンドバード。トカゲなら足の速いやつ」
飛竜使わせてくれないと、行くだけで何十日もかかる。大陸南部を調べるのにどれだけかかるかわからないし、下手すれば半年ではおさまらない。
僕の要望は通りそうではある。だが、教会とカールクシア、どちらがどれだけ金銭負担をするか話し始め、僕は再びイスの置物になった。
交渉ごとに向いてないのか、ロクトもいるだけで口を開かない。
教会はなるべくカールクシアの関与を排除したいみたいだし、カールクシアは教会から金を引き出したいってとこかな。
僕に負担がなければ、そのあたりの駆け引きは好きにやってくれていい。
置物でいるのあきたんで、そろそろ帰らしてくれ。
寮の部屋に戻ると、サムイルとアルシェイドが出迎えてくれた。
「お疲れさん。どうだった?」
問いかけながら、アルシェイドがお茶を淹れてくれる。
「ムダに長くて、面倒で苦痛なお話し合いだったけど、条件は悪くないよ」
一緒に行動するのは僕らと教会の人だけで、現地での必要経費は教会持ち。カールクシアからは一部隊がついてくるが、お互い不干渉が基本的となっている。
「カールクシア側には大陸南部に向かったよ。ってところまで一緒に来させて、南部到着後は大司教さん丸めこむまり、ごまかすなりすれば何やっても自由そうだな」
「一緒に行動するわけでもなく、後をついてくるだけだからな。はぐれることもあるよな」
アルシェイドの発言に相槌を打っていると、サムイルが仕方ないって顔をする。
「大司教、どんなヤツだ?」
「魔力的にはレオナより優秀。今日の話し合いだと面倒そうな人だったけど、演技っぽいし、あっちがどういう対応でくるか次第かな」
現時点での価値はサイフ。ケチな人ならその価値すらなくなるし、魔力的に優秀でもこちらの望む魔術が使えなければ邪魔でしかない。が、そういった判断を下すには時期尚早。
今日はもうごちゃごちゃ考えるのはもう疲れたし、そんなことは現地に行ってから判断すればいい。
「それで、出発はいつだ?」
「七日後」
未知の場所に向かうことに、僕は高揚していた。




