勇者召喚準備中
聖国イルベリアス王国で勇者召喚が行われた。
女勇者が現れたと広く報じられたのにともない、カールクシア王国でも勇者召喚を行うべきとの声が高まった。
現在、そういう方向で世論を誘導されている。
五大国の中で勇者召喚をしてないのはカールクシア王国だけ。魔人の脅威がなくならない現状では、大国としてやるしかない。
別の世界から勇者を招くには膨大な魔力がいる。それを金銭で計算するとえらい額になるそうだ。
国家の大事業と同じくらいには、勇者召喚は金がかかる。そんなことをやるためには、世論の支持がいるらしい。
「聖国が召喚しなきゃ、のらりくらり煙に巻いてられたんだがな」
最悪だとぼやく中年貴族。
もう二度と会うこともないだろうと思っていた人が、なぜか僕の前にいる。
騎士に洗脳されかけたときに助けてくれたらしい貴族で、偉い人らしい。家名も役職も知らないが、護衛がつくような立場にある。
やっと実習が終わって、城から出られたのになんでこんな人とお茶するハメになっているんだろう。
カヌメにあげた防寒具の商品化の話をマルクとして、遅い昼飯食べて寮に戻るつもりだった。それが、僕一人で訪れても入れてもらえないような店に連れ込まれ、グチを聞きながらの食事になっている。
街を歩いている僕の居場所を売ったレヴィエスは隣で平然と食事しており、何を考えているかわからない。離れてくれているとはいえ、護衛の視線も痛かった。
僕を見る目が穏やかじゃないのは仕方ないとしても、レヴィエスと同類のような目では見られたくない。強気な人たちはレヴィエスの正体を知る立場になくて、顔が強ばっている人は何か知っているんだろう。
レヴィエスと同列の警戒対象か得体の知れない物の扱いは納得いかない。精神的に負担だ。
せっかくの高級料理なのに、美味しく食べられないのが残念でならない。
五大国、最長の歴史を持つ国として勇者召喚はしなくてはいけないが、金がかかる。しかし、国の威信にかかわるため、やることだけは決まっていた。
決定事項であっても反対派は存在しており、会議が長引いているらしい。どうも、この人は会議の調整役のようだ。
ムダな会議で費用がかさむと嘆いているが、その会議で費用及び労働負担が決まるならみんな必死のはず。この人にとっては落とし所の決まった会議だからムダに感じるんだろうけど、負担を押しつけられる方には必要な会議だろう。
それもわかっているから、ここで無関係な相手にグチっているのかもしれない。僕抜きで、レヴィエスとお酒飲みながらやればいいのに。
何で巻きこむかな。
それにしても、いい肉を使っている。
これが、美味しく食べられるために育てられた肉ってやつか。
食後のお茶が出てきたところで、レヴィエスが結界をはった。本題はこれかららしい。
グチで精神力をガリガリ削られたから、帰してくれないかな。ちらっとレヴィエスを見ると目があった。
にんまりと笑われ、僕はうなだれる。
「では、探索者に問おうか」
さっきまでぐだぐだだったのに、中年の男はシャキッとした。眼光鋭く、僕をとらえる。
「勇者を導くつもりはあるか?」
ないですよ。
関わりたくないし、拒否だ。
「いかに勇者が金のかかる存在か説明したつもりだが、理解できなかったのかね?」
「いえ、そこは理解できてます」
「だったらわかるだろ?」
わからないし、わかりたくない。
「わざわざ高い金を使って召喚した勇者が、結果を出さなければムダ金になる。五大国最後の召喚で、勇者の育成に使える時間が我が国は短い」
ここまではわかるな、と、念をおされ僕はうなずく。
「我が国が他国に優るには竜が認めた探索者を有効活用しなくてはならない」
このおっさん何いってんの。
僕、理解したくない。
「では、最初からの質問に戻ろう。勇者を導くか?」
これ、質問じゃない。
理解したけど、うなずきたくないです。
「こちらとしては穏当に本人の同意を得たいのだよ」
『この状況がすでに穏当に思えないんですが?』
『まだ命令になっていない。自発的に応じるか命じられて強制されるか、選べ』
やっぱりレヴィエスは助けてくれないか。
強制だと選択肢が減るし、善意の協力者がマシぽい。
僕はがっくりとうなずいた。
とりあえず、魔術学院には戻してくれるらしい。
勇者を召喚後、短期間通わせるからって、理由はどうなんだろう。僕、まっとうに魔術学院の授業を払っているのにヒドイ扱いだ。
かたくなに拒否してたら、士官学校に在籍したままにさせられて軍から命令が出てたかもしれない。命令で魔術学院に戻れば、卒業後の進路まで強制されただろう。
選択肢をよこさなかったのに、穏当に思える現状が嫌すぎる。
勇者はそばにいるだけで魔力が危険だし、影響を抑えるための準備はしておこう。安全のためにできることは、できるだけやっても不安だ。
勇者の召喚予定は春。
年度末に行なうそうだ。
いくつかよい日が選ばれているが、予算の関係で新年度には持ち越されないらしい。
そして僕は、新年度にあわせて魔術学院に戻される。
最終学年、研究過程に進級して後輩指導の授業で勇者と会うことになるらしかった。




