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技術学校 初日

技術学校に着いたときには、同級生はみんな帰った後だった。職員室へ向かうと、ほとんど人がいなかった。

担任の先生は僕が来るのを待っていてくれたらしい。

お腹の出たおじさんの先生で、僕が一組になったと教えてくれた。


技術学校の生徒は働きながらかよっている人が多くいる。そのため、夜間や休日に補講があった。

僕は通常の授業がある間は魔術学院に行くので、補講で単位をとっていくことになる。


「しかし、君なんで技術学校にくるんだ? 魔術学院通うなら必要ないだろう」


嫌な笑い方をしている。

使われる言葉は毒含み、不快だ。

僕は感情を出さないようににこにこ笑う。


「どうせ技術学校なんて簡単に卒業できると思っているんだろ? 魔術学院のエリートくんは」


この人、面倒だ。

こっちはあんたの評価なんてどうでもいいの。ほしいのは卒業資格とこの学校で教えている技術。

魔術学院じゃエリートどころかすでに犬。

実状と解離した過剰評価が笑える。


グダグダな話は聞き流し、学生証をもらってさよならする。職員室を出ると、教室の位置を確かめために学校内を散策することにした。


まずは利用機会がないかもしれない通常の教室が並ぶ校舎から一年生一組の部屋を探す。担任の先生と相性悪そうなので、使わなければ顔を合わせることも少なくないだろう。

それから、専門授業で使う特別教室に向かった。

校舎を巡り、教室の位置を覚える。ダンジョンに通っていたので道を覚えるのは苦手じゃない。法則性のある建物なんて簡単だ。

学校探索を終えると学生掲示板を見に行く。ホームルームに参加しないので、必要情報は自分で確かめないといけない。

抜けていたらフォローしてくれるような担任の先生ではなかったし、期待するだけムダなら好きなようにさせてもらおう。


掲示板で気になった情報を覚えると、学生課へ向かう。基本、手続き関係は担任の先生経由でクラス単位でやる。しかし、通常授業に参加してない生徒は学生課でやりとりするそうだ。

直接やり取りしないと、担任の先生に会えないせいで手続きできないなんてことが発生するらしい。


僕にはありがたいシステムだ。

さっそく、手続きの仕方を覚えつつ授業登録させてもらおう。補講は登録者がいないと授業がなくなる。

登録抜かりで、来期まで待たされるようなことは避けたかった。


どうやら補講は教科別ではなく、先生別で行うものらしい。専門分野の基礎から応用まで一つのクラスで、生徒はそれぞれ自分のレベルにあった物を作り完成すると単位がもらえ。

なので、作れるけど自分の授業レベルがわからない人は先生名と時間を書いて、教科欄は未記入にする。

上級生が登録していたおかげで、今晩も補講があった。さっそく参加登録をする。


一度寮に戻り、二人分の食事を作った。

アルシェイドは午後からクラスメイトたちと学園区を遊び歩いていたらしい。サムイルもどうやら一緒だったようで、仲良くなったようだ。

どうか僕のことはAクラスで話題にしないでくれ。

Bクラスでこれ以上怖い思いはしたくない。

食事の片付けをして、明日の朝食の準備を終えると部屋を出る。


「いってらっしゃい」


ヒラヒラと手を振ってくれる。

ちょっと照れくさいけど、悪い気はしない。


専門教科の先生は普通に会話できる人だといいな。多くを期待しないようにして、技術学校へ向かった。


外から見ると授業のある教室だけ灯りがついており、見つけやすい。明るい特別教室が並ぶ校舎と異なり、通常教室の並ぶ校舎は真っ暗だ。

僕は二階の教室に迷わず向かう。

開けられたままになっているドアをくぐると三対の視線が向けられた。


「見ない顔だな」

「今日入学で、初授業参加のルキノ・マイハースです。よろしくお願いします」


とりあえず好意的にがんばろう。


「一年生がいきなり補講か。何組?」

「一組です」

「うわー、ヒサン。担任ブヒブヒだ」

「あのオッサン、夜間授業とる生徒嫌いなんだよな」

「魔術学院の生徒ならこんなこといちいち説明しなくていいってすぐ引き合いに出すし、そんなに魔術学院がいいなら技校にくるなってーの」

「本人戻りたくて仕方ないとのに左遷だから、移動があるとしたら地方へ都落」

「ブヒブヒが担当の一般教養は長期休暇になったら外部から先生がくるから、そのときに取ったらいいよ」

「そうします」


受け入れられたぽい。

でも、魔術学院に通っているのは話しにくい感じだ。


始業時間を待っている間に生徒は五人増え、先生が来たあとに二人増える。遅れて来た二人は汚れた作業服を着ており、お疲れの模様だ。


今日受講の革細工の先生は小柄な中年男性。二年生はやることがわかっているので、僕一人説明を受ける。


授業で作る物の材料は基本、支給。ただし、追試になったら自己負担になる。使用する道具は貸し出すが、教室の中で使うこと。同じ物を使いたい人がいたら交代で使用する。小さな道具類は学校の売店で売っているそうだ。

将来の仕事にするなら自分の道具がいるし、お金に余裕があるなら手に合わせた道具を買うか作ることをすすめられた。


「革細工は作ったことがあるか?」


学校内はたぶん安全だと思う。でも、迷宮都市で使っていた道具を手放すのは不安だった。

道具をいろいろぶら下げたベルトはずっと腰につけたままで、下げている皮袋の一つを外して見せる。


「単純な作りだが、丁寧に作られている。これなら応用過程からでいい」

「素材もらえるなら、基本からお願いします。皮袋は多くても困りませんから」

「基本過程で使わなかった分、応用で大きな物を作りなさい」


応用過程の見本表を渡される。見本のまま作っても単位はもらえるが、少しでもいいからアレンジすると成績が上がるらしい。

まずはどんな形状があるか確認する。確認してから紙に書き写すことにした。素材があるならどれも作ってみたい。


書きながら課題ついて考える。

使うことを前提に、女性用や手がふさがる鞄は避けよう。すぐに武器を取れない状況は嫌だし、学生は荷物が多い。

背中にぴったりするリュックサックがいいかも。ベルトに下げている道具があたるなら足にベルトで固定するようにしたらいい。

希望一番近い形の見本表のページを開く。


「決まりました」


作りたい物の図面を書いて、レポートを出すと素材がもらえる。レポートは指定の紙に書かないと行けなくて、紙を先生からもらう。

このレポート用紙、遊びに使うと次から買わなくてはいけないそうだ。

どうにかレポートを書き上げたところで休憩時間になる。


「応用過程からとはやるね」

「父が革細工職人だから」

「じゃ、跡継ぎ?」

「あとは兄が継ぐから」

「なら、どこの工房手が働くか決めてる?」

「決めてないよ。一応、独立志望で、革意外の加工技術覚えたいな」

「革だけでも大変だぞ」

「鞄がおわったら、服と盾と武器カバーは必須だもんな」

「独立志望なら小物や装飾用の飾り細工も覚えたら?」


先輩から出てくる意見に素直にうなずいておく。そしたら先生まで話に参加してきた。


「夜間学生はなかなか授業参加する時間を作るだけで大変だ。一つの課題でなるべく多くの単位をあげたい」

「じゃ、前面部に彫刻をしよう」


先輩が小さな金属を木槌叩いて模様にしているアレのことですよね。小指の先より小さな金属の道具で鞄前面に模様なんてどれだけ時間かかるのだろう。


「飾細工は着脱式で用意したらどうだ?」


はずすなら、最初からなくてもいいのでは。言うだけムダそうなので黙る。


「背中当たる部分にさ、衝撃吸収できるものつけたらどうだ? 防具扱いにならないか?」

「それなら前面部に硬化素材使って盾したらいい」

「だった彫刻もさ、こう鞄をペラってめくった下にして、体に固定するベルト部分に武器を仕込もう」

「それなら、服以外の必須単位取れるな」


酒、飲んでいる人はいないはず。

ただ、なんだろう。仕事終わりでハイテンションというか、疲労で妙なスイッチ入ってそうだ。


「基本レポートはこれでいいとして、改定案レポートを書きなさい」


大真面目に先生がレポート用紙を持ってくる。

えっ、本気?

先輩たちからも熱い視線を受け、提案された意見を形にしていく。

飾細工の形状は未定、模様も位置だけ決めて細部は未定。

形にはしたが、盾なる硬い素材や衝撃吸収出来る素材なんてもらえるのだろうか。

ベルトに武器を仕込むにしても、どんな武器にするか決めないといけないし、武器の支給は可能なんだろうか。


うん。このレポート完成する気がしない。


徒労感満載で初回授業は終わった。

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