学外実習班編成
魔術学院の授業はなかなか始まらない。
測定や検査、試験といったものが続く。おかげで師匠におどされていた宿題やレポートはまだ発生していない。
僕は魔術学院が終わると技術学校の図書館に入りびたり、寮で夕食をとったら夜間補講に出ていた。魔術学院が忙しくなる前に、素材をもらいたい。でも、なかなかレポートが仕上がらなかった。
技術学校は学生証を即日くれたが、魔術学院は入学から三日かかった。木札でできた技術学校の学生証とは異なり、魔石が使われ魔方陣が刻まれている。
ギルドカードに近い機能があり、魔術学院の学生証は町の出入りにも使えた。
僕の学生証はシルバーと呼ばれるもので、他にAクラスの生徒に与えられるゴールド、CとDクラスに与えられるブロンズ、Eクラス以下に与えられるアイボリーがある。
学生証の差は学院内の待遇差であり、図書館での閲覧許可範囲や備品の使用に大きく影響していた。
学生証ができたのでやっと魔術学院の図書館が利用できる。学園区最大の魔術学院の図書館だ。
技術学校の夜間補講で毎回された無茶振りのあげく、すすまなくなったレポートの助けになる本があると、期待している。
日に二回技術学校に行くよりラクだしね。
一般教養の授業が始まった、午後。AクラスとBクラスの合同授業が行われる。検査も測定も合同だったが、互いにそこにいるだけで、かかわりはなかった。
しかし、学外実習の班を作りなさいとなれば、無関係ではいられない。
女子生徒二名以上を含む、AクラスとBクラス同数の八人班が望ましいとのこと。女子だけ男子だけや、AクラスだけBクラスだけというのがよくないらしい。
席を立って自由に話し合うそうだ。
クラスメイトが怖いから僕は教室の隅から動かない。
一週間もあれば、怖いクラスメイトの見分けくらいつく。
制服着用指定のある式典だけ。おかげで、服装でほぼ判別できる。何人か例外もいるが、そのくらいの誤差は言動で修正した。
怖い連中でだいたいの班は決めてくれ。
そして、サムイルとアルシェイドとは目を合わさない。
クラスメイトの行動をながめていると貴族の序列がわかる。Bクラス単独授業と合同授業で態度の違う人も多いし、主持ちは行動基準が明確だった。
主に害がなければ、どちらかといえば寛容でもある。だいたい年上だし、主の同級生をしているだけで能力も高い。
彼らは同じ学院にいるのが目的で、勉強のためじゃないのがよくわかる。
「座っているだけではいつまでたっても決まりませんよ」
クラス構成を理解したうえで行動を求めるエミール先生は鬼だ。先生の優しそうな笑顔が優しくない。
こっちはまだ動ける状態じゃないんだよ。
僕は初日に脅されたし、それを見ていた秀才くんたちも大人しくしている。野心より保身の人ばかりのようだ。
「ルキノ」
主持ちの中でも有能組がかたまっている場からの呼び出し。ヒエラルキー下位の僕に拒否権はない。
視界のすみでサムイルがムッとしていたが、大人しくしていてくれることを祈る。
「なんでしょうか?」
「女の子五人。男子用テントなしで野営できるよな?」
「できますが、僕以外の男誰ですか?」
「私です」
にっこりと大変すばらしい笑みを見せてくれた。
クラーク・ハッセン。Bクラス最年長の15歳。
主持ちの中でもレイム・フラレットと双璧をなす笑顔で脅す危険人物だ。
「君は脅しに素直ですから」
笑顔が真っ黒。
威圧がヒドイ。
視線をそらしてもう一人の男子生徒をさがす。
「オレ」
やたらきれいな顔をしたスーフ・メテロ、14歳。女装しても似合いそうな優美さだが、眼ざしが冷たく近寄りがたい。
性格はたぶん双璧よりマシ。というか、アレよりヒドイ人に存在してほしくない。
班決めは少数派の女子生徒が多数派の班ができたあと、スムーズに決まった。女の子の主を持つ有能な連中が、自らの主の安全性に最大の配慮をしていた結果、何も決まらなくなっていたらしい。
男の主持ちも、野営があるため決まるまでは大人しくしていたようだ。問題のある組み合わせになって恨みを買いたくなかったそうで、状況が読めないまま班を作ろうとしていたAクラスの生徒の牽制もしていたらしい。
班が決まると班別に話し合いがおこなわれる。
「中庭のカフェテラスでやりましょう」
Aクラスの女の子が提案した中庭のカフェテラスの利用は有料だ。金がないので、不参加表明しようとしたら足を踏まれる。
クラークが女の子たちからの壁になり、スーフに口をふさがれる。
「おごるから黙ってろ」
首を立てにふると手をどけてくれた。
歩き出し、女の子たちとばらけるのを待つ。
「僕、参加する必要ないだろ? 決定事項だけ教えてもらえば逆らいようもないし」
「お嬢様は生徒に身分はないとお考えです」
「仲間はずれはよくないですから」
逆らわないで、お嬢様たちからは平等に見えるようにしろということかな?
細かいこと気にしてもわからないし、大人しくしていればいいだろう。
テーブルを二つつなげて八人座れる席を作ってもらう。クラークとスーフに視線を向け、座っていいか確認する。
一応、今は同じ学生同士の扱いのようだ。
簡単に自己紹介しあう。
クラークの主は最年少10歳の女の子で、スーフの主は13歳の美少女。それからAクラスの姉とBクラスの妹の姉妹。 仲よさそだが、異母姉妹だそうだ。
あと一人は異国からの留学生。
Aクラスには女の子の主はあと二人いる。自分の主の側に近づけたくなかったそうでクラークとスーフが拒否。で、選んだのがレオナ・ミルフィーユ。12歳と同い年だが、年上に見えた。
数合わせの僕は沈黙する。
ミックスジュースと蜂蜜たっぷりのホットケーキ。餌付けされた僕に不満なんてない。
なるべく丁寧にゆっくり食べていたら笑われた。
「おいしそうに食べますね」
「おいしいですから」
「では、わたくしも何かいただこうかしら」
真剣な目をして、レオナはメニュー表を見つめる。
どうやら彼女もここにいるだけで、話し合いに参加するつもりはないようだ。
「いちごのクレープなんて一緒にどう?」
スポンサーに視線をおくれば、うなずいてくれる。当然、一緒に食べることにした。
話し合い、必要ないな。
エサもらっているから付き合うけど、班員決めたときにはもう僕以外のBクラスメンバーで予定は全部決まっていたのだろう。
クレープ食べ終わったら終了だったからいいんだけどね。
「時間のムダだわ」
一瞬、心を読まれたのかと思ってしまった。
「全部やってくれるのはラクですけど」
にこっと笑いと、一人で歩いて行く。
その姿を見送り、僕はそっと息を吐き出す。
誰にどう利用されても危険や害がないなら、それでいい。主を持つ彼らは生きている世界が違うし、見えている世界も違うだろう。
彼らは彼らのルールで動き、それを僕に押しつけただけ。怒るほどのことじゃない。と、思うんだけど……
あいつは違うらしい。
図書館へ寄るをやめ、寮に戻る。部屋のドアを開けると待ち構えていた相手が二人いた。
サムイルの予想どおり、アルシェイドの態度は意外だ。
「暴れるならつき合わないよ。サム」
「なんなんだ? お前のクラス」
「Bクラスは例年、クセの強い連中が集まるらしいよ」
部屋に入り後ろ手でドアを閉める。
いっそう険しくなったサムイルを僕は笑う。
「僕は彼らにとって、餌付けした犬だよ」
拳が飛んでくる。
ぎりぎりで避けたら、風切り音がした。でも、避けれたから手加減はしてくれている。
部屋入ってすぐの狭い廊下で一歩分避ければ壁ぎわで、次は逃げられなかった。サムイルは掌で肩を押さえ、壁におしつける。腕をあごの下にとおしてのどを圧迫してきた。
同い年なのに、背の高いサムイルはいつだって僕を見下ろす。
「怒れよ」
「なんで?」
「抵抗しろ!」
「面倒」
感情的になったサムイルの青い瞳が魔力に染まる。危険な兆候だがこの瞳は好きだ。
空に太陽を閉じこめたようで、見ていて飽きない。
「お二人さん、座らないか?」
鑑賞の邪魔をしたアルシェイドに視線を向ける。
アルシェイドの姿がぼやけて見えた。頭痛がする。アルシェイドの声が聞きとれない。音の反響に耳が痛みをうったえる。
「アル、魔術使うのやめて」
指向性のある魔術が止まる。サムイルに手を放され、その場座りこむ。
「感情的になっていたから、落ちつかせるつもりだったんだ。ごめんね」
「精神干渉された冷静さなんていらない」
「もうやらないよ」
少し、アルシェイドが落ちこんでいるように見えたが、慰めはしない。今後がないように、しっかりと反省してもらいたい。
僕に視線を合わせるようにサムイルが座りこむ。怒りが落ちつくと、すねたようだ。
全身でかまえとうったえてくる。僕はうっかり吐きだしそうになったため息をのみこむ。
「サムに助けてもらいたくなったらちゃんと相談する。だから、怒るなよ」
「学院に来てから、まったくオレのトコ来ない。どうせ相談なんて来ないんだ」
うん。そうだけど、同意すると長くなるな。
図書館はあきらめたが、夜の補講には行きたい。
「寮ではアルに餌付けされてたから」
「まて、餌付けされたのオレのほうだろ」
アルシェイドの発言はスルーだ。
「クラスメイトもな、今まで見るだけて食べたことのない物ばかり持ってくるしさ、食べ物に罪はないだろ?」
「食い意地はりすぎだ。バカ」
「師匠も常に新しいものに興味を持てっていっていたじゃないか」
「それで、新素材みつけたらオレのこと忘れるんだ」
笑ってごまかせないかな?
今日はちょっとこった料理を三人分作ることにした。




