お客さまたち
昼、僕は自作のお弁当を食べていた。
午前中に訪れたのは値段設定が本気かどうか確認する人ばかりで、魔具だとは認識してもらえない。
「やっと見つけたぞ。ルキノくん」
なんで、この人がくるかな。
営業スマイルなんてしない。ついつい冷ややかな目で見てしまう。
「今日は一人なのか? こりゃなんだ? 魔具か?」
「また泥棒ですか?」
ワイゼンは雑な扱いでコースターを手に取る。
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。お金は払っただろ?」
「お金を払えば罪がないと? ああ、貴族さまは罰せられることもないんでしたね」
「オレは君の要望には答えたぞ。もう少し好意的になってくれてもよくないか?」
「その分、儲かったでしょう?」
白紋黒蟻の女王蟻。あの魔石はいい値がついたはずだ。
「ちゃんと君らに分けるつもりだ」
「そうですか? 言葉だけならいりません」
「ルキノくん、少しは信用してくれないか?」
僕は微笑みを浮かべることに成功する。
「あなたたちは信用できない。僕がここにいるとわかったくらいですから、調べられたのですよね?」
わかりやすく顔色を変えてくれた。
ため息をつき、ワイゼンは降参するように両手をあげる。
「すまなかった」
謝罪してくれるとは思わなかった。思っていたよりはマシな人かもしれない。
ここで立ち去ってくれれば好感が持てた。だか、ワイゼンは展示品を手に取りながめている。
僕は立ち上がると、壊されないうちに相手をすることにした。
「あなたの魔力で触られたら壊れる。手出すなら先に金払え」
「そうか」
あっさりと銀貨出しやがった。
どこで間違えたんだろう。
ワイゼンが大道芸人になった。
あんまりうるさいから、追加料金もらって魔石の質を上げてやる。そしたら、火をつけても燃えないと、火耐性革で遊び出した。
牙猪の牙のナイフも柄の魔石を質のいいものに入れ替えてやれば、火で剣を作る。
技術学校は魔術学院みたいに魔術に対する備えがない。
僕はクズ魔石を使って周囲の消火にあたる。
「火事をおこすつもりですか?」
「いや、これ魔力のとおりいいな」
笑いながら銀貨を握らせてくる。
「もう、帰って」
なんか変に視線集めているし、両隣の生徒が怯えていた。笑ってもごまかせてないから。
周囲の見えてない魔力バカは嫌いだ。
「やっと見つけた。もう、置いていかないで下さいよ」
青年が一人、ワイゼンにかけよってくる。
見た感じ、上司と部下かな。この人じゃ、ワイゼンを抑えられそうにない。
くっ、放し飼いか。
「いや、これ見ろよ」
「なっ、えっ、なんで、ワイゼン様の炎で燃えてない⁉︎」
「魔石の魔力がある間とはいえ、すげーよな」
何か、部下の人の目つきが変わった。
「君、この性能で、もっと大きいものはできないのか?」
「さあ、試したことないですね」
別の素材ならあるが、牙猪の革では試していない。たぶんやれるけど、ワイゼンとの関わりは増やしたくなかった。
「では、試してみましょう」
「いや、試す余裕ないんで」
引き受けるつもりのない僕に部下の人がいいつのる。
ワイゼンのそばにいるのは毎日、防火との戦いだそうだ。火傷薬が常備薬となり、防具は耐久性を削られる。ワイゼンの隣にいるのは火柱の隣にいるようなものだと訴えてきた。
「いや、騎士さまなら専属がいらしゃられるでしょ」
「破壊魔のせいで、嫌われているんですよ」
部下の叫びをワイゼンは笑って聞き流す。
同情はするが、関わりたくなかった。
授業が終わってから、サムイルとアルシェイドがくる。にたような時間に士官学校の生徒も来た。国際交流会の選手団にいた人らしい。
この人たちに技術学校に通っていることは教えてないから、誰かに調べられたのだろう。
牙猪の牙のナイフと火耐性の革でこいつらもまた、僕が武器や防具を作れることに気づいた。やっとワイゼンが帰ったのに、またか。
「ルキノ、大変そうだね」
「あいつ、作る物は趣味優先なんだよな」
「素材に対してもルキノは趣味優先だろ?」
「基本がわがままだからな」
のんきに作業台の奥でお茶をしているサムイルとアルシェイドが恨めしい。何で呼びもしてない人たちがくるかな。
初日終了時間まで、僕は対応におわれた。
翌日は朝からモントンさんが来た。
相変わらず人のよさそうな笑顔を見せてくれる。安心感はないけど、常に笑っていてもらいたい。
「昨日は大変だったときいてね。君の助けになる人を連れてきたんだ」
「はじめまして、私マルク・ノイエスと申します」
理知的な青年が丁寧なあいさつをしてくれた。
この人から、商売の仕方を学ぶといいらしい。モントンさんからの援助だそうだ。
僕、どれだけの人に素性探られたんだろう。そして、昨日のことはどれだけの人が知っているのか。
疑心暗鬼になりそうだ。
「ところで、この机は君のかね?」
「ええ、学校で借りるのは大変そうだったので、作りました」
「そうか、君が作ったか。では、買おう」
「モントンさん?」
なんか、らしくない急性さにひく。
「驚かせてしまいましたね。大旦那さまは海底ダンジョン品が好きなのですよ」
売る気があるなら、最終日に引き渡すようにしたらいいと助言をくれた。迷っていると、マルクは商談中と書いた紙を机の上に置いた。
モントンさんは作業台とイスを確認して、マルクを置いて帰る。マルクはにこにこと作業台とイスにも商談中の紙をつける。
「あの、僕、昨日、感情のままに騎士の人を相手にしたの、よくなかったですか?」
「よくはありませんが、あの方なら大丈夫ですよ」
「偉い人なんですか? ワイゼンは」
部下いたし、魔力量多いし、下っ端でないのはわかるが、どの程度偉い人なのかまではわからない。
「知らないなら、知らないままでよろしいかと」
堅苦しいのを嫌うそうだ。怒るならその場で怒る人らしく、気にしなくていいらしい。ただ、時と場合は選ばないと、周囲の人を怒らせるので危険だそうだ。
今日もサムイルとアルシェイドが来るつもりらしいから、持ち込んだイスをマルクに進める。カップも余分に持ってきたから、水筒からお茶を淹れて渡す。
水筒にも保温効果をもたせているし、カップに淹れてからはコースターを使ってもらう。
マルクはにこにこと商品と僕の経営方針を聞いてくる。
方針というほど確固たるものはないが、騎士は嫌い、貴族は面倒。押し寄せて来る人は苦手と主張してみた。
午前中はぽつぽつとしか、人が来ない。だか、午後になるとまたワイゼンが部下つきで来た。僕はマルクにすべて任せる。
僕が相手しなくていいなら、防具くらい作ってもいい。
なんか、マルクがものすごくぼったくっている。
仕様書はいいが、見積書が怖い。
ワイゼンはどうやら回復薬が欲しかったようだ。これも、マルクが対応してくれるなら売ってもいい。
なんか、マルクの目が一瞬変わった気がする。すごくいい笑顔をしているのが不安だ。
授業が終わりのこのこやって来たサムイルとアルシェイドは、マルクに士官学校の生徒誘導に使われる。彼らの半分は国際交流会での約束の品だと、食材を持って来ていた。
僕は受け取った物を鞄につめていく。
マルクは学生相手でもぼったくるようだ。
注文書がえらいことになっているが、昨日より疲れなかったのでいいとする。
三日目、朝から人がいっぱい来た。
服装からするとお金を持っていそうな人ばかり。マルクの姿を見て顔を引きつらせる人が多く、きっと商人たちだろう。
大銀貨がいるのに、展示台が欲しいと主張する人が何人もいる。ギラついた目が怖いので、僕は注文書を消化するべくうつむいて作業をした。
僕の参加は明日までなので、明日の午後希望者たちによる話し合いをするらしい。もう、値段のつり上がり方が怖いので、マルクにすべて任せた。
なんか、商人が減ったら騎士がきたぽい。
どんどん注文書が増えてる。素材が足りるか心配していると、必要な物はマルクが手配してくれるそうだ。
展示販売予定品はもう何も残っていない。見本に僕の使用していた物が、展示台には置かれていた。
僕は今日も来てくれたサムイルとアルシェイドに注文書の山を見せる。
それから小声でささやく。
「たぶんだけど、台二つとイス売ったら売り上げが金貨にとどく」
「それはまた、やらかしたな」
「だよな、やらかしてるよな」
「ルキノ、お前、冬季休暇予定入っているの忘れてないよな?」
レヴィエスに入れられた予定を忘れるなんてしない。
「今受け付けているのは来年の春か夏仕上がり予定」
注文書が多いといっても同じ物を大量に作れば、商人相手の分は数がはける。武器や防具類は個人に合わせて調整する必要があるので、時間がかかってしまう分日程には余裕をもたせていた。
「ルキノ、オレとアルあてにしているだろ?」
「労力に見合う魔具作るよ」
「自信ありそうだな」
「まあね。修得が大変だった分、自慢できるかな」
妖精石を素材に喪失魔術を使うのだ。
もともと妖精石をもらうのに何か作れと言われていたし、手伝ってくれなくても作るつもりはある。手伝ってくれれば、早く渡せるようになるだろう。
サムイルとアルシェイドは協力を約束してくれた。
四日目。
午前中からサムイルが技校祭に来た。明日の演習は僕とサムイルの二人チームらしい。ついにサムイルは先輩と組ませてもらえなくなったようだ。
僕はサムイルの巻き添えのはず。初回以外は順位よくないし、次はまた先輩と組めるだろう。
午後、商人たちが集まって来た。
ギラつく商人をマルクは平然と相手にする。モントンさん相手にも公平な態度だった。
有能すぎてマルクが怖い。
僕は、売り上げ金額を聞いて気持ち悪くなった。
そこまでは求めてない。資産運用とか言われてもこまる。
工房はほしいし、注文にこたえるための素材もいるけど、金額が大きすぎて頭が痛い。
注文書がはけるまではいてもらわないと困るけど、任せていて大丈夫だろうか。
僕、過労になるほど働きたくない。




