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人間関係は難しい

荷馬車がガタゴト揺れる。

僕は横になり、目を閉じていた。神経に障る気配のせいで寝られないけど、身体は休めていたい。


早朝に出発した荷馬車は夕方には魔術学院に到着する予定になっている。途中で昼休憩に町によることになっており、ワイゼンはそこまで一緒に来るそうだ。


いい大人なんだから、黙って乗っていればいいのに、うるさい。


「君ら冷たくないか? 騎士は男の子の憧れだろ?」

「先月から騎士を信用するのはやめた」

「オレも不信感があるね」


サムイルとアルシェイドの発言にワイゼンは焦る。


「ちょっとまて、何があった?」

「魔術学院は先月、魔物に襲われました。その関係じゃない? 魔物がでたときオレら一年生の試合見てたから」

「ちょうどルキノの試合が終わった頃だったよな?」

「そうそう、逃げ遅れて会場から出られなくなったところにサムイルが魔物倒しに来たんだよ」

「あと少し遅かったらオレ、死んでたよ」

「だよな。お前、屋根が落ちてきたとき足やっちゃってたたもんな」

「そっちは腕やってただろ。お前だってあと少し遅かったら腕切り落とすしかなかったって青ざめてたくせに」


どうやら班員みんなで試合観戦していたらしい。さっそうと現れ、魔物を倒したサムイルがかっこよかったそうだ。


「魔物倒したの学生か先生なのにさ、騎士の人感じ悪かったよな?」

「普通の軍人さんに事情聴取されたヤツは優しかったらしいけど、オレは騎士の人でスゲー嫌な人だった」

「お前が魔物を誘き寄せたんだろとか言われたぜ」

「自分で誘き寄せたならケガなんてしないよな」

「あんなもん、誘き寄せられるわけないし」


騎士に対する苦情が続き、ワイゼンが落ちこむ。


「お前らのあった騎士、まだましだから」

「ああ、そのくらいですんでよかったな」


サムイルとアルシェイドが追い打ちをかける。

でも、僕は城へ拉致、拘束し洗脳だ。騎士が嫌いになっても仕方ない。お金もらっても、昨日のことは泥棒でしかないし、個人としても信用できない。


「マジ?」

「マジ。沈黙せよって命令された」

「口を閉ざすのが御身のためだとよ」


寮に戻れないのアルシェイドに告げられなかったし、僕のこと探すならまずサムイルに聞く。迷惑かけたんだろうな。

今晩の食事はがんばって作ろう。食材もいっぱいあるし、サムイルも呼んでコース料理ぽくしてみようかな。でも、飾りつけに使う道具がない。代用できる範囲でやってみるか。


学院についたときに、技術学校に売店が開いていればいいんだけど、微妙なんだよな。一回器具を分解すれば再現できそうだし、近いうちにまとめて買おう。

今なら銀貨もあるし、いろいろ買える。


昼になり、ワイゼンがいなくなると肩の力が抜けた。

騎士ってことで緊張していたらしい。




学外実習あけの休みを利用し、技術学校を訪れる。

掲示板に名指しの呼び出しがあった。掲示板から紙を外し、学生課に向かう。

今なら担任の先生がいるそうだ。でも、あの人と話すのは時間のムダなので会いになんて行かない。夜、来たらいいのかと確認すれば、呼び出し理由を教えてくれた。


「来月の第四週に技校祭があるのよ。そこで、夏の競技会で賞を取った作品を出展してほしいの」

「えーと、もうないです。売っちゃっいました」


一部はあげたけど、自分で使わないなら置いておくなんてしない。


「なら、作品を作ってくれない? 魔術を使った分と使ってない分の両方お願いしたいの」

「何か規定ありますか?」

「できれば、展示販売できるものがいいわ。あと、クラス展示にするなら、担任の先生に」


僕が嫌な顔していたら、言葉が止まった。


「手続きしてもらえば、個人枠で出品できるわ。ただ少し数がいるのだけれど、手続きは学生課です」

「個人枠にします」


条件を読ませてもらい、参加手続きをした。数はいるが、同じものを複数並べてもいいらしい。

それなら、国外社会見学に行っても準備できるだろう。


牙猪の皮で鞄作ろうかな。でも、先に回復薬作っておきたい。そろそろハンドクリームも欲しいし、工房にこもりたいが、再来月が試験月なんだよな。


年末に全ての単位を取れればいいが、学年末にもう一回試験月がある。それで、基礎課程の単位をとり終われば三年生だ。

一年生の分を一回で取らなくてはいけなかった、前回よりはラクなはず。筆記試験はどうにかなるだろう。


技校祭用に素材が売りに出ているから、何があるか見てこよう。展示販売用は掛け買いができるらしいが、そういう買い物の仕方は好きじゃない。

値段が安い分、素材がよくないので、自前の素材で作ろう。


校内をふらふらしていたら、求人がいくつも出ている。共同制作のための呼びかけや、時給での作業手伝い。個人枠にすると、数がいるし単純作業を誰かに任せるのもいいな。




道具でも料理でも薬でも作るのは好きだ。だか、魔術学院の基礎課程にその種の授業は少ない。

そして、あんまり好きじゃない戦うことを目的とした授業は多かった。必須単位だと、避けることもできない。


現在、対人戦闘実技の真最中。生徒同士、一対一で戦う行為を繰り返し行っている。そして、僕とレオナは対戦結果引き分けだけを積み重ねていた。


「ルキノ、真面目にやれ」

「ケガしないように真面目にやってます」


防御に特化しているレオナは怒られないのに、先生は僕だけを対戦相手として指導を行う。


「先生との対戦は全勝ご褒美か、三敗罰則でしたよね?」


一敗もしてないのにヒドイ。

ぶつくさ文句をいっていたら剣を振り下ろされる。僕はそれを避けた。


「先生、今の当たったら骨折くらいはしますよ?」


風圧がすごい。いくら刃ないとはいえ、物量に速度が加われば危険だ。


「それだけしゃべれるならまだ余裕だな」


どんどん速度の上がる剣を僕は避け続ける。


「サム、ルキノはいつまで避けられる?」

「剣一本なら当たらない。当たりたくないから、すきのできる攻撃もしない」

「ルキノ的には最良の行動か」


外野の言葉を先生が拾う。


「授業終了まで逃げるか、先生に一発入れて終わるか好きなほうを選べ」


残り時間少ないから逃げるに決まっている。

僕はひらひらと、授業終了の鐘がなるまで逃げきった。


「お前らこいつと仲良かったな。どうやったら戦わせられる?」

「ルキノを戦わせることを考えたことがない」


いい幼なじみだ。

そのまま変わらないでくれ。


「そういや、実習でも戦闘は人まかせだな」

「ルキノが参戦するのは状況に余裕がないときだから、見てるくらいがちょうどいい」

「ああ、確かに、問題のない実習だと手、出してないな」


アルシェイドとサムイルの発言に先生が頭を抱える。


「先生、僕は将来軍属になる予定ないですから、自衛できれば充分でしょ」

「力を誇示しないのか? お前に向けられる視線によくないものが混じっていたぞ」


そんなことは知っている。


「サムやアルじゃ返り討ちだし、レオナの結界は壊せない。狙うならどうにかなりそうな僕しかいない。ってことでしょう?」


ちゃんとわかっているので、心配いりません。

にっこり告げたのに、先生には複雑な顔をされた。




月末、学年別演習が行なわれた。

一人の相手を集団で襲っても許される授業。恨み辛みを発散させるにはちょうどいい。

そして、僕にとっては実験の場だ。向こうから来てくれるならちょうどいい。


早々にチームメイトを退場させ、楽しい実験を開始した。実験体は逃さない。

まず、痺れ薬散布。身動きできなくなったとこへ、効能が調べきれていない薬を盛る。


「大丈夫、大丈夫。致死性はないはずだから、痺れ薬と併用して試したことないけど、試してみたい解毒薬もあるから、ね? どうしようもなくなったらメダル壊して先生を呼んであげるよ」


演習終了後、僕に向けられる視線が変わった。攻撃的ではなくなったのでいいとしよう。

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