爆炎の騎士
大牙猪は重いので、その場で解体する。
村に持って帰るのは討伐の証拠となる牙と魔石。あとは僕の趣味でいくつかの部位を持ち帰った。
大牙猪の討伐に喜ぶ村人。彼らからすれば収穫期に人手を取られなくてすむし、死傷者も出さなくてすんだ。
彼らは僕らを賞賛する。それが第一グループは不満らしい。討伐数も増やせなかったし、町暮らしの彼らには山村での生活が辛かったようだ。
もろもろ全部合わせた結果、僕らは絡まれている。
第二グループの僕ら以外の班は避難を兼ねて牙猪の狩りに行った。Aクラスの生徒同士の争いに巻きこむな。と、行動で示している。
「オレら今日は狩りに行かないから、文句つけているヒマがあるなら行けば?」
「それで我らを油断させるつもりかっ」
「オレら班枠いっぱいまで狩ったから、村にいるんだ」
対応は現在サムイルとアルシェイドに任せている。武力でこの二人に勝てる人は第一グループにはいない。この二人を盾に僕らは慰労会の晩餐の準備をしている。
僕はついでに料理を教えてもらい、レオナを魔力供給係にしていた。大牙猪の退治のお礼に特産品をいろいろもらっているので、学院に戻ったら反省会を兼ねて食事会をする。
料理覚えるのに忙しいので、僕はグチにつきあえません。それにしても、食べ物がからむとみんな協力的だ。
それにしても、僕は何で聖域なんかに魅せらたんだろう?
違和感のある魔力で危険性を感じなかったから、めずらしい素材が手に入るかもしれないと、欲を出してはいた。何か、それだけじゃない気がして気持ち悪い。
午前の休憩時間、僕は意識して周囲を探る。
気がつかなければよかった。
お詫びにしては過剰だよね。あれ、報酬ですか?
僕、ひっかかったというより、呼ばれたんだろうな。
さて、どうしよう。
「ルキノ、なんか顔色悪くないか?」
「体調悪いのですか?」
アルシェイドとレオナは心配してくれたが、サムイルは期待に笑う。
「サムの望むものじゃないよ」
「なら、何がいる?」
「わかんないけど、いっぱいいる。虫系じゃないかな? たぶん放置すると、山が荒れるしこの辺りの村は全滅だね」
僕が無理して笑っていると、レオナがにらむ。
「笑っている場合じゃないでしょ」
「いや、だって、なんかいそうってカンでしかないもん。感違いの可能性もあるのに昨日の今日で騒ぎたくない」
「確認に行くか? 身体強化で移動すれば行けるだろ?」
早めに昼食をもらい男三人で山に入ることにする。ただ、進路方向が第一グループの担当区域だ。こそっと通過させてもらう。
峰を越え、眼下を見下ろす。
木が倒され、土の見えている場所があった。
「サム、町に向けて救難信号打って」
「町はどっちだ?」
僕が指差すとサムイルが力強く救難信号を打ち上げる。
少し待つと、照明弾が打ち上げられたので、サムイルに照明弾を三発打ち上げてもらう。
一発なら救援要請、敵と交戦中に使う。二発なら敵はいないが、救助がいる。三発打ち上げるのは近寄るのは危険という意味だ。よほどの実力者でなければ、逃げろという意味でもある。
「あれ、そんなにヤバイのか?」
「個体としてはたいしたことないが、数の強さがある」
照明弾が一発上がった。
よほどの実力者か感違いしたバカが助けに来てくれるらしい。来てくれるなら、ここで到着を待たなくてはいけない。
僕としては討伐隊を組織してもらいたいから、町に帰って欲しかった。明日、帰りがけに町に着いたら、事情説明くらいしてもいい。
「早いな」
おそらく身体強化をして駆けている。魔力量も多い。感違いバカではなさそうだ。
「サム、アル。先兵がくる。なるべく静かに倒して」
ここを抜けられたら村が見つかる。あれのせいで、こっち側は牙猪が少なかったのかもしれない。というか、牙猪がいたからまだ村側まで山を越えてなかったのだろう。
大型犬くらいの虫系の魔物が姿を見せた。サムイルが剣で頭部をはねる。
「これでいいか?」
「うん。次、くるよ」
三体倒したとこで、次のとはかなり距離がある。黒い身体に白色の模様が特徴的な白紋黒蟻だ。大量発生すると町さえのみこむ。
サムイルが魔石をとっていると、助けに来てくれた人は巣の近くに到着した。ハデに魔術を使い、白紋黒蟻がむらがる。
「あれだけの数がいると気持ち悪いな」
「強いな。あのおっさん」
どうやら得意魔術は火炎のようで、炎と爆音をばらまく。ああいう人を一騎当千というのだろうか。
「オレも参戦するか」
「僕はあの数は嫌だ」
「オレもむらがられるのは気持ち悪い」
僕とアルシェイドは援護で、サムイルだけを送り出す。
「アル、巣から離れた分、退治する?」
「そのくらいならするよ」
僕らは三体くらいでまとまって活動している先兵を潰すため、山を右往左往する。
「よくもまあ、この程度に魔物の位置がわかるな」
「なんとなくだよ。識別できるほどじゃない」
気づいてしまえば、うぞうぞと嫌な感じがするだけだ。
陽が沈み出した頃、駆除作業が終わる。
何も出てこなくなった巣穴に僕はアルシェイドを連れていく。
「巣穴、水没させて」
「はいよっと」
さらっとアルシェイドはやれてしまう。僕なら回復薬を飲みながらでも厳しい。
どうやら出入り口は一つではなかった。数ヶ所で水が吹き出す。
僕は身震いした。
「まだいる」
僕は峰の一点を見つめる。
今までのよりでかい。成人男性を上回る大きさの白紋黒蟻が数十体こっちに向かってくる。
「サム、行け。この集団の向こうに女王蟻がいる」
サムイルは蟻を踏みつぶしながら駆けて行く。
「レオナ連れてきとけばよかった」
「いないものはしゃあない」
「お兄さん、まだやれますよね?」
「やるしかなかいだろ」
爆炎を放ち、近づかれる前に少しでも減らそうとしてくれているようだ。それにアルシェイドが便乗する。
二人の放つ爆炎を超えて来たのに向け、僕はクズ魔石を投げた。眼前に落とし、土の魔術で貫く。
残り十数体になったところで接近を許した。
サムイルのほうは終わったようだが、こっちはこれからが正念場。まんまり使いたくないが仕方ない。
表皮紙を抜きとり、一番密集しているとこへ向けて氷の刃を生やす。三体閉じ込め、三体貫き、四体が身体の一部がとらえられ身動きできなくなった。
「あとよろしく」
僕は木の上に逃げる。二人が動き回るのを討伐し、動けなくなったのを倒す。殲滅すれば氷を維持する必要はない。ゆっくりと氷が溶けていく。
魔力の使いすぎで身体がだるい。回復薬を飲むべきか悩む。悩んでいる間にサムイルが戻って来た。
「サム、寝ていい?」
「ダメだ。まず木から降りろ」
重心を傾けて落ちればサムイルが受けとめてくれる。
「これから村を戻らなきゃいけないだろ。あきらめて回復薬飲め」
そういや今日は晩餐だ。仕方なく回復薬に手を伸ばす。フタを開け、口を開いたところでぶんどられた。
「ぷはー、おぉ、これはくるな」
喜んでいる男に向けてサムイルが剣を向けた。
「おっさん、どういうつもりだ?」
僕はあきらめて二本目の回復薬に手を伸ばす。ゆっくり飲んで、身体に魔力が満ちるのを待つ。
慌てることなく立ち上がり、魔物から魔石を回収することにした。
「ルキノ、あっち止めなくていいのか?」
「回復薬は売れるんだよ。それを盗んだんだ、僕に止める理由はない。今ならすべて魔物のせいにできるから、完全犯罪も可能だ」
サムイルの剣から逃げている人なんてどうでもいい。それより魔石だ。全部はムリだから個体が大きいのから解体し、魔石を取り出していく。
銀貨を一枚受け取り、僕はサムイルをなだめた。
回復薬はあるかないかで生死が分かれることもある。ぶんどった男が全面的に悪いので、こき使わせてもらう。
火系が得意みたいだし、巣を水没させた水を蒸発させる。巣に卵が残っている可能性は高いし、なるべく潰しておきたい。
「身分証明できるものをお持ちですか?」
男は騎士のカードを見せる。
「ワイゼン・カルロッタさんですか。正騎士なら都合がいいですね」
サムイルが持っている、想定よりちょっと大きかった魔石の処理を頼むことにする。たぶん大丈夫だろうけど、しばらくは軍に巣穴見張っていてもらいたい。
そのあたりの処理をお願いしておく。
「じゃ、村に戻ろうか」
とっとと軍の駐屯地に行けばいいのに、ワイゼンは村についてくるそうだ。仕方がないので、僕らが晩餐に遅れたのは迷子で救難信号を打ち上げたワイゼンを救助に行ったからってことにしてもらう。
魔物の話は一切なしだ。
「ルキノ、容赦ないな」
アルシェイドが視線をそらしてつぶやいた。
「アル。僕が悪いの?」
「いや、まあ、な?」
僕らは身体強化して村へ急ぐ。だが、村についたときには日が落ちたあとで、村の人たちは心配してくれていた。




