二年生になりました
学院祭が終わり、月末の演習を経て僕は二年生になった。
一年生から四人、二年のAクラスに人が増え、二人がBクラスに移る。それで、今のAクラスの人数は定員数の二十人になった。
クラス移動になった人に、僕は恨まれているらしい。他の三人は手が出しにくいらしく、恨まれ度合いは僕が一番高いそうだ。次点で、女の子のレオナ。
三年になるときの専攻はAクラスの生徒が優先される。専攻で奨学生は卒業後の配属がだいたい決まってしまうので、切実な事情がある分恨みが深い。
月末の学年別演習は要注意だと、警告されていた。
「ルキノ、国外社会見学に行こう」
サムイルから選択授業を誘われたのは初めてだ。たいてい僕にとって都合のいい学外実習に誘うだけで、あとは互いに話すこともなく授業を選択している。
夏に稼いだので、別途料金の発生する授業でも大丈夫だ。外国に興味もある。
「いいけど、サムは選手だろ?」
「選手でも費用は自己負担。武器は向こうで用意されたのを使わなくちゃいけないから、調整してくれ」
今年、国際交流会の魔術学院に割り当てられた個人戦枠は二つ。サムイルはその一つに選ばれていた。
学院祭でサムイルの学年別で優勝している。学年無差別では準決勝進出。決勝にいけなかたのはガナンと時間制限いっぱいまでやりあい、引き分けとなった結果、くじで負けたからだ。
ガナンは去年活躍しすぎて、個人戦にはでられない。学年無差別で準優勝になった雷女帝は家柄が良すぎて、他国でケガをする危険の高い試合にはでられないらしい。
僕はあのものすごく高そうな杖が、国際交流会では使えないので、出場辞退につながっているのではないかと推測している。
そのため、サムイルは運で出場できるかのような扱いになっていた。準決勝の相手が雷女帝のほうならこんなこと言われないですんでいたはず。そういう意味ではサムイルにはくじ運がなかった。
「どんな武器か見てみたいから調整はやってもいいけど、選手以外の人が触っていいのか?」
「学生ならいい。規則本もらったからあとで渡す」
「わかった」
国際交流会の見学と現地観光で単位をもらえるので、富裕層の生徒はたいてい参加する。そこに武器の調整が増えたところで、相手がサムイルならたいした負担じゃない。
「来月のことはいいとして、来週学外実習行こう」
「いいぞ。何狙いだ?」
「秋の果実と肉。課題は牙猪」
「アルとレオナにも声かけるか?」
「うん。僕はレポート書くよ」
二人ともあっさり、学外実習と国外社会見学の参加に同意した。
学外実習はなんと二年生の半分くらいの人が参加する。僕らの向かう山でさえ、三十二人の大所帯だ。
牙猪は山村では害獣扱いされていると。単位を取るためなら一班一頭でいいが、今回は一人一頭くらい倒してほしいらしい。ただ、全体では百頭までにおさえてもらいたいそうだ。
六人班三つに、五人班二つに、四人班の僕ら。人数割ではなく、班割で討伐数十六頭以下で話はついている。
一部で人数割り当てにしろとごねられたが、僕らがAクラスなのでたいていの班は大人しい対応だった。
「肉ですわね」
「熟成鞄の出番だな」
「今回は村宿泊だから、村の設備使わせてもらえれば燻製も作れる」
村での交渉用に今回は薬類を多く持って来ている。
肉祭りは二人に任せて、僕は採取をしよう。討伐はサムイル一人で問題ない。
あと、村の特産品狙いでアルシェイドに買わせた砂糖や塩も多く持ってきている。
三班で一つの荷馬車を使う。人間も荷物扱いだ。
僕らをのぞくAクラスの人たちは不満を延々といい連ねている。彼らは第一グループでリーダー班。同じグループにいるのが、Bクラスの五人班とBとDクラス合同の五人班。彼らが上手くなだめるだろう。
僕らは第二グループのリーダー班。一緒に運ばれているのはEクラス以下の六人班、二つだ。全員奨学生で、地方出身者も多い。
「君らの班は何頭討伐予定?」
「課題プラス一かニです」
「オレらは一人一頭予定」
どっちも上限まで討伐するつもりはないようだ。
「村で肉加工場借りられたら、君らの班の討伐枠くれないか? 加工を手伝ってくれたらそっちにも肉渡すから。どうかな?」
第二グループは肉祭りにむけて結束した。
村に到着したのは太陽が峰にかかりだした頃。村長に挨拶をすませ、さっそく狩りにでる。罠も仕掛ける予定だ。
あっさり見つかったので、まずは課題用に狩っておく。狩った牙猪はアルシェイドとレオナに村へ持って帰ってもらい、僕とサムイルは地形を確認し、罠を仕掛けて戻る。
魔術学院から村へ滞在費が払われているので、朝と夜は作ってもらえた。毎食自炊ではないので、今回の実習は参加者が多いらしい。
初日夕飯と最終日一日前の夕飯だけ、実習参加者全員でとる。歓迎会と慰労会をしてくれるそうだ。あとはグループ別で、昼は班別になる。
村長のあいさつ聞いて、いかにも貴族な生徒代表があいさつを返して食事になった。山村では豪華な料理だが、首都の住人からすると質素な料理。僕として秋は食材が豊富で満足だ。
贅沢になれている第一グループの人たちがいなくなってから僕らは村長に交渉に行く。肉の提供と使った薪の補充で折り合いをつける。
翌日、早朝から仕掛けた罠を見に行く。三つの落とし穴にそれぞれ一頭づつひっかかっていたので、僕ら以外の班で討伐してもらう。
これですべての班の課題は終わったので、これから先の討伐は肉のためだ。レオナには他の班と一緒に村へ帰ってもらう。火炎魔石渡しているので、レオナの魔力があれば薪がいらない。
他の班の人には牙猪の解体をしてもらう。山村出身者もいるので問題ないはず。
僕らは牙猪を二頭倒し、サムイルとアルシェイドが一頭づつ持って、僕は自生植物を採取しながら村に戻る。昼は昨日倒した牙猪だ。
ちょっと熟成が足りないのでレオナにがんばってもらう。
肉のみの焼き肉をしていたら村の人が野菜をくれたので、肉をおすそ分けをする。ついでに肉加工の協力もお願いしてみた。
収穫期で忙しいが、冬に向けて肉がほしいらしく手伝ってくれるそうだ。他の班に運搬係を頼み、午後の狩りに向かう。
牙猪を見つけるのは簡単で、体当たりさえ気をつければ倒すのも簡単だ。問題は重いので村に運ぶのが大変なこと。午後は八頭を狩って、終わりにした。
まだ日が残っていたので僕は果樹園の手伝いに行く。収穫の手伝いをして、虫喰いや割れ、部分腐りなんかの売れない果実をもらう。
鍋を借りて、ダメな部分と皮を取り除く。夕食後はジャムを作ろう。あと、肉用のタレにして漬け込む。
三日目、十二頭を狩った。
肉は今ある分でいいという話しになり、明日以降の予定を話し合う。僕ら以外の班は明日は肉の加工をして、時間があれば農作業を手伝うそうだ。
明後日は課題の加点用に狩り組と村で作業組に分かれたいらしい。二つの班の意見を聞き、僕は村長に意見をもらいに行く。
「大牙猪がいるかも知れません」
名前の通り、牙猪が大きくなったような魔獣だ。ただ皮が厚くなり、力も大きくなるので退治は難しくなる。
「僕らが見かけたのは足あとなので、必ずいるとも限りませんが、山の奥へ調べに行ってもよろしいですか?」
村長が返事をくれるまでには時間がかかった。
「大牙猪を君らは退治できるのか?」
「できます。僕らの班には魔術学院の中でも優秀な生徒がいますから。あと、山育ちなので、足あとかもしれないというだけで、警戒しなくてはいけない危険性も理解してます」
明日、村の人と足あとの確認に行くことにする。大牙猪のものだと確認できれば、僕らはそのまま山の奥へ向かう。
他の班には足あと近くには近寄らないように情報を回し、明日の夜は戻らないかもしれないと連絡しておく。
テントすらない野宿になるかもしれないのに、レオナは一緒に来るようだ。肉加工の魔力供給係が抜けるので、小さい魔石を加工した火炎魔石を渡し、使い方を説明してする。
彼らじゃレオナほど魔力がないので、魔石は小さいほうが使いやすいはず。だめなら薪を集めてもらうしかない。
僕らは日の出とともに村を出た。
足あとの確認には村の男が三人に来てくれる。
「君の見間違いだといいんだが」
「忙しい時期にすみません。地元にいた頃、一度しか見たことないので」
「見たことあるのか? よく無事だったな」
「そこにいる友人と一緒だったので、退治してくれたんですよ。昔から大人より強いので」
サムイルの強さを語る。できれば、大牙猪はこっちに任せてもらいたい。村の人がいると足手まといだ。
背後からついて来ている気配も邪魔。第一グループの討伐数は現在二頭。例年、村にくるグループの中でも少ない分類に入る。
その分第二グループが狩っているので村としてはいいらしい。討伐数の上限は稀に討伐し過ぎる人がいるので、そのための保険だったようだ。
足あとを見つけた場所へ到着すると、村人たちの顔つきが変わる。村人たちが周囲を見てくるそうなので、少し離れた場所でお湯を沸かし簡単なスープを作った。
戻ってきた村人たちと朝食を取りながら話し合う。朝食と昼食はお弁当を作り、持って来ている。朝夕は冷え込むので、暖かいものを用意した。
「大牙猪で間違いない」
「そうですか。退治はこちらに任せてもらえませんか? 大牙猪は近づくと危険なので、遠距離から魔術を使いたいんですよ。ただ、その場合、あなた方がいると巻き添えになるかもしれません」
僕らが動けるのは今日と明日だけなので、村人には引いてもらう。大牙猪より魔術のほうが危険だし、僕らが退治出来なければ人を集めて狩りに出なくてはいけない。
危険な場所や水場の位置を聞きだす。このあたりの山には禁足地はないようだ。地元信仰の聖地とかあると、行動制限がかかる。そういった場がないのはありがたい。
村人には僕らをつけてきていた第一グループの生徒を回収して村に戻ってもらう。
彼らの気配が遠ざかると、そばにいる三人の視線が僕に集まる。
「何かな?」
「何かあるのはルキノだろ?」
「大牙猪います。大変だから、善意でのみ討伐しますではルキノくんらしくありません」
サムイルは無言で期待に目を輝かせている。
「大牙猪はいる。他にも狙いはあるんで、村に帰るのは明日の午後になります」
今晩は野宿と宣言したようなものだが、誰も村に帰るとは言わない。どうやら、あきれつつも僕の好きにさせてくれるようだ。
火始末をすると、僕らは山の奥へ向かう。
すでに知覚できている大牙猪はムシ。そっちは明日、村に帰る前でいい。僕は自らの感覚に従い、村へ来てからずっと気になっていた魔力の源へ向かう。
「精霊樹?」
「妖精までいるのか」
聖域と呼べるほど浄化された地。その中心にあるのは一本の巨木だ。そのそばには泉が三つある。
ここだけ、周囲と気候が違う。
“来たよ 来たよ 聖女が来たよ”
“聖女だ 聖女 魔も一緒”
“おかしいね おかしいよ”
いくつもね笑声が重複し、酔う。ふらついた僕をサムイルが支えてくれる。どうやら妖精の声には魔力が含まれているようだ。
サムイルが獰猛な気配をまきちらす。
“怒った? 怒った!”
“ダメだよ ダメ”
“剣はダメ 血はダメ”
「サム、落ち着け。害意はない」
悪意もないが、僕には有害だ。
そのあたりを飛び回るピカピカ光る妖精はほっといて、僕は巨木の前に移動する。木の枝が動いて、僕は泉の中に落とされた。
“あなだが稀な者たちを連れてきた探索者さんね”
僕は大きな気泡に包まれ、泉の底に立っていた。
“ここの魔力に魅せられて来てしまったのね”
“ここにきたのがあなた一人でなくてよかった”
“あなた一人なら、ここに囚われてしまうわ”
確かにここは居心地がいい。このまま眠りについて目覚めたくない誘惑にかられる。
囚われたから、どうしてもここへ来なくてはいけないと思い込んだようだ。
姿の見えない何かに僕は問う。
「僕は帰れる?」
“帰ってもらわないと、この地が滅ぶわ”
“妖精があなたをいじめたお詫びをあげるから、帰って”
「上で採取していい? あと、夜は泊まりたい」
“長いしてはダメよ。立ち去りなさい”
僕らはお土産を手に山に戻される。
「強制排除か」
「あそこはなんだったの?」
「人が立ち入ってはいけない場所だったみたい」
いつのまにかそれぞれ渡されていた袋を、互いに複雑な気分でみる。
「とりあえず昼メシにしよう」
食事をしながら中身を確認する。魔力がたっぷり込められた透き通った水色の石が入っていた。
レオナは髪飾りで、サムイルとアルシェイドは僕と色違いの石。僕が物欲しそうにしていると、サムイルが袋を投げてよこす。
「何か使えるようにして、残りはやる」
サムイルは言葉ひアルシェイドが苦笑して、僕に袋を投げてくる。
「オレもそれでいい」
気になっていた場所は調べられなくなったので、僕らは大牙猪を退治して、日が暮れたあと村に帰る。
翌朝、僕らが大牙猪を退治したと知ったクラスメイトともめた。




