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試験月間

入学三カ月目、定期試験がおこなわれた。

五年かけて卒業するものにとっては、五日で終わる。その後は半月ほど試験休みだ。


秋に進級を望む者にとっは、五日と半月が試験期間になる。授業で習ってなくても試験は受けられるので、手当たり次第受けた。


選択の一般教養なんて必要数があればなんだっていい。

必須単位の実技試験。食事マナー、礼儀、ダンスは難関だった。選択単位の実技試験でお茶会もとったが、僕の人生でいるものだとは思えない。


一般教養が終われは、専門教科の試験を受ける。実技試験で魔術連発は魔力的に厳しいので、僕は筆記試験で数を稼いだ。


毎日試験で、技術学校に近寄る時間はない。

一年生で必須な単位を八割から九割を今月とらないと、夏の長期休暇も試験ばかりになってしまう。

夏の長期休暇では授業と試験がセットだ。五回から十回の授業に出席しないと試験が受けられない。時間がかかるのでなるべく避けたかった。


「アルが秋の進級狙うとは思わなかった」

「ルキノの後輩になるのは嫌だからね」


どこまで本気かわからない発言で、アルシェイドは修得単位を積み上げている。


サムイルも進級を狙っている。魔術の単位を実技で全部修得できる魔力がうらやましい。

一年生の魔術なんて初級魔術ばかりだから、僕だってやれる。ただ試験で魔力を使い切ると、翌日の試験が筆記でもつらいからやらないだけだ。


僕、やればできる子。


試験に疲れて、自己暗示をかける。

実技なら魔術一発使えば終わるのに、筆記試験だと五十近い問題に答えなくてはいけない。拘束される時間も長いし、なんか痩せた気がする。


僕と同じくらいレオナは筆記試験を受けている。特定の魔術に特化しすぎて、魔力はあるが汎用性がきかないそうだ。


「試験終わったら、食っちゃ寝してやる」


叫ぶレオナの目の下にはくまがあった。


「筆記試験の多いお二人さん。夏期休暇も単位とれるんだが?」


ラムセイル先生が心配そうに声をかける。

僕とレオナは善意に対して座った目をむけるくらいにはすさんでいた。


「講義ナシで試験受けさせてくれるんですか?」

「講義の拘束時間を思えば、今ムリしたほうがいいですわ」


先生は僕らにクッキーを一袋ずつくれた。


「それ食べて休みなさい」


気をつかってもらっても、僕らにそれを受けとめる心のゆとりはない。




すべての試験終了後、僕は丸一日寝た。




試験休み開け、教室にクラスメイトが集まる。

実家に帰ったり、小旅行に出かけたり、充実した日々を笑いながら話すクラスメイトが憎い。

旅行土産と実家の特産品をもらい、恨むのはやめた。


試験結果発表日でもある今日の授業は自習。別室にて担任の先生と面談を行い、試験結果を受けとる。

成績の順位は教科ごとにはあるが、全体としてはない。演習のように成績が公開されることもなかった。ただ、成績結果によってはクラスが変わるので、相対評価は推測できる。


面談の順番が家名順なことに気づき、僕は図書館へ行くことにした。教科書以外の本はいい。

魔物分布図鑑なんて夢がある。地図と照らし合わせ、地域別植物図鑑や季節別魔草図鑑を開く。


視界が覆われた。


「ルキノ、昼休みになったからメシ行こう」


僕の目をふさいでいた手がのけられる。


「普通に声かけてほしい」

「三回までは普通に呼んだ」


そんなこと知らない。

一緒に本を片付けてくれるし、 いいやつではある。


「アル、来月の授業予定決めてる?」

「特には決めてない」

「なら、僕と学外実習に行こう」

「それはいいが、今度は何ねらいだ?」

「いろいろだよ」


アルシェイドは仕方なさそうに笑う。


「どこでも行ってやるよ」

「約束だよ」


念を押し、同意をとる。

僕は満面の笑みを浮かべた。


「じゃ、週一で四回頼むな」


いろいろ採取するには一回じゃ足りない。


「レポート作成は僕がするから心配しないで」


驚かれたが、拒否はされなかった。

一年生の学外実習は後一回でいいが、基礎過程の学外実習で考えるとあと六回から八回いる。冬場は採取できる物が少ないし、単位早取りで雪の降る前に終わらせておきたい。




午後、教室でレポート作成をした。

見えるとこで書いていたらサムイルとレオナがつれる。みんな食材がとぼしくなる冬場の学外実習は避けたいようだ。

レオナがいると拠点防衛がラクでいい。戦闘はサムイルとアルシェイドがいれば充分だし、ちょっと危険でも対処できるから、高品質魔獣素材が狙える。

道中でアルシェイドには素材採取のための魔獣の倒し方を覚えてもらうとして、機嫌とり用にちょっとだけ持って行く食材を増やそう。

レオナ用に甘味もいるかな。


予定を立てていると面談の順番になった。

特別教室が並ぶ一角に移動する。一部屋を一年のAクラスからDクラスまでの面談で使っていた。仕切りはないがそれぞれの席は離れており、手元の資料が見えるほど近くはない。


僕の順番は予想どおりAクラス最後だった。

貴族じゃないといっていたレオナが早いうちに面談しており、サムイルも午前中に面談だったのが気になる。


サムイルの家は母子家庭で、父親については知らない。ただ師匠たちはサムイルの父に頼まれて、サムイルを村から連れだした。

僕は同い年のお友だちがいたらお勉強にはいいか。くらいのオマケ弟子で、よくよく考えるとサムイルの父親は家庭教師兼護衛を三人も子どもために雇える人になる。


もしかして、いいとこの坊ちゃんか?

僕、将来の夢魔術具師じゃなくて、従者とか側仕えにならなくちゃいけないのかな?


趣味、魔具作成で、仕事は別でもいいか。

でも、師匠たちにはなんにもいわれてないし、サムイルからもなんの話もない。

勘違いかもしれないし、気にしなくていいか。

望まれてもサムイルの護衛だけはムリだし、そんな実力、僕にはない。努力したってどうにもならないこともある。

進路に迷いつつ、席に座る。


「これが試験結果と単位修得状況だ」


ラムセイル先生に渡された二枚の用紙をじっくり見る。


「受けた試験は全部取れてるから、演習と実習の必須単位を取りこぼさなければ、秋に二年生になれる」

「実習のレポート書いてきたので、許可ほしいです」


鞄からいそいそと出す。


「四つ? この班員全員の許可取ったか? お前の希望じゃないよな?」

「冬場は現地調達できる食材が少ないと説明したところ、夏場の実習つめこみに賛成してくれました」

「一、二年生は冬場の実習は軍施設内だ。食料の心配しなくていいぞ」

「知ってます」


僕以外の人が知ってるかどうかは知らないけどね。

そんなつまらん実習、必須単位分、一回やれば充分だ。


「先生、僕は素材採取できない実習は苦痛です」

「そ、そうか。安全には充分配慮しなさい」

「大丈夫です。あの三人ならなんでも狩れます」


ドラゴンスレイヤーに魔人殺しと強硬な防御。僕は一緒にいるだけで素材が手に入る。


「前回は不測の事態があったようだが、対処できていたか。だが、過信はいかんぞ」

「そうですね。魔物より、大魔術使う人のほうが危険ですから、注意します」


アルシェイドが魔人をやった火柱。あれを防ぐならドラゴンのブレスを防ぐくらいの魔術がいる。三人とも魔力が安定しているから暴走の心配はいらないだろうけど、備えはしておこう。


「技校でもらっている分もあるかもしれんが、物作り関連の募集要項だ」


作品競技会の募集要項、いっぱいある。入賞すると賞金や賞品がもらえるようだ。


「今月は技校に行けてないので助かります」


たぶん来月もいけないし、再来月は夏期休暇。休みはサムイルと師匠のとこへ行くことになっている。

あれ? 師匠たちのこと考えると手が震えた。


「どうした? 血の気引いてないか?」

「えっ、ああ、なんでもないです」


なんでもないよね?


「そうか」


心配してもらっても原因がわからない。

カゼかな?


それにしても授業料払っているのに、授業出れないなんて、損失しかない。卒業のために通年在籍が必要なのはわかっているが、ムダ費用に感じる。


「しかし、筆記試験すべて八割の得点だな」


試験結果に視線を戻したラムセイル先生が指差しながら得点を追って行く。

単位修得に必要なのは六割。Aクラス維持が八割前後の得点がいる。


「演習や実習の成績をたせば、Aクラスですよね?」


Bクラスでもいいけど、学生証の再発行が面倒だ。


「ルキノくん、筆記試験、真面目に全力でやったか?」

「あの試験数でふざけるなんて、できません」


疲れたから、解答に時間がかかるものをあきらめただけ。真面目な取捨選択の結果です。


「そうか? それならAクラス維持は大丈夫だろう。余裕がある状態ではないから油断しないように」


最近、僕を見るラムセイル先生の視線が冷たい気がする。


現在、エミール先生が行っている生徒の面倒が終わったところで、ラムセイル先生が実習のレポートを渡してくれた。レポートの合否は明日くれるらしい。


追試がないことに安心して、僕は面談を終えた。

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