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工房申請書を出したらラムセイル先生から呼び出しをくらった。放課後、職員室に行くと、生徒相談室に連れこまれる。
「工房申請は応用過程の魔術具師か薬師が申請するものと理解しているか?」
「基礎魔術具一と基礎調合一の単位とりましたので、専攻の最低条件は満たしてます」
コーデム先生を紹介してもらっててよかった。自作の胃薬と拡張魔術を負荷した採取用の小袋を持っていったら、担当の先生に交渉してくれた。
「何に使うつもりだ」
「寮の部屋、僕いそうろうみたいなものなんで、毎月学外実習の度に素材を集められるなら素材置き場がほしい」
「お前が、必要な学外実習の単位はあと一つだぞ」
「秋には二年生になりたいと思ってます」
魔術学院は通常五年制だか、効率よく単位を取得すれば三年で卒業できる。お金の計算は五年制でしているが、短縮できればその分ラクになる。
基礎過程で学びたいのは一般教養が中心で、魔術系は学ぶことがあんまりなかった。
「今のクラス不満か?」
「先生に不満はないですよ。ただ、士官学校卒業者六名は異常かと、あの人たちが守る人と一緒は怖いです」
ラムセイル先生はため息をつく。
「その話題は出すな、触れてはいけない」
「大変ですね。胃薬できたら持って来ます」
「前回の倍だ」
「はい。ありがとうございます」
先生って大変な仕事だな。僕は定期収入になるからいいけどね。
「技校のほうはどうだ?」
「革関係の単位取得終わりました。卒業制作がすんだら、ほかの技術を取得します」
「入学から二ヶ月たってないぞ」
「革職人として技校卒業するのが家出るときの条件だったんで、魔物素材が手にはいる度に遊んでましたから」
サムイルは素材に興味ないから、加工練習する材料はいくらでもあった。作った物を売って稼いだお金を技術学校の学費にしたわけだし、基礎はできていたと思う。
「それに、学校卒業程度の技術と工房を構えている本職の技術は違いますから」
魔術覚えたらただ加工するだけじゃ楽しくなくなった。作ったものに魔術負荷したくなる。技校では広く浅い技術を習得して、魔具作成で使う技術を深めていくつもりだ。
「一技能に特化している人には負けるので、将来有望そうな子とコネ作りたいですね。僕は魔術具師志望だし、外部発注できる人がほしい」
「魔物討伐から加工販売までやるのか?」
「学院で討伐が得意な人と仲良くなっておけば、素材は集められそうなんで、たまに採取、だいだい加工、販売は人を雇えるくらいになりたいです」
将来の夢を語っていると、ラムセイル先生が考える様子を見せた。
「季節ごとに物作り関係の競技会があったはずだ。学園区で販売する場所を借りられたり、どっかの店で商品を置いてもらえたりするのがあったな」
「先生、その情報詳しく」
応用過程の生徒対象らいしけど、調べてくれるそうだ。
僕の技能、迷宮都市では需要があったけど、流行やデザインがこれからお勉強状態なので、王都の人に受け入れられるものかどうか知りたい。
「実習態度はおかしいが、やる気はあるな」
「おかしいって、何がですか?」
「実習レポート、よくかけていたそうだ。ただ、いろいろ書きぬかりがあるみたいだな。軍と職能ギルドから問い合わせがあった」
「やらかしたのは先輩で、箝口令でてます」
書きぬかりじゃない。書いたらいけなかっただけ。
魔人は国が滅ぶこともある脅威だ。討伐した話なら大々的に流布されるが、いるかもしれないでは不安をあおる。
「そのあたりの詳しいことはいいが、実際には青色岩トカゲ何体倒した? レポートでは一匹になっているが、違うだろ?」
「実習課題として倒したのは一匹です」
食用にサムイルがちょっと張り切りすぎただけ。一緒にいたレオナは砂地で貝掘りに夢中。止める人がいなかったから、やっちゃった感がある。
一年生の抑止力である先輩はそれどころじゃなかったからね。
「お前の素材として狩ったのか?」
素材部分は全部もらったけど。
「違います。食用です」
うろんな目で見られた。
でも、ウソじゃない。
「なら、ガナンが憔悴している理由は?」
「あー、ガナン先輩は月末の演習の指導が不安なだけですよ。Aクラスの大当たりと一緒かもって」
「そういう案もあったが、今回はみおくられた」
演習のチームは前日まで非公開なのにその発言はいいのかな。
どうやらラムセイル先生は工房申請のことより、学外実習の話を聞きたかったようだ。
魔術学院の一角に無事工房は確保できた。
爆発はよくあること。異臭は常態化している工房長屋。別名、変人長屋の住人に僕は加わる。
「悪い子はいないわよ。のめり込んじゃうタイプの子が多いだけで」
鍵をくれた先生は目をそらしながら、ウワサよりはいいと主張する。
僕は隣人なんてどうでもいい。重要なのは条件を満たせばただで庭と土間のある部屋を使えることだ。
まずは防衛魔術を構築する。貴重な素材を置くのだ。盗難防止は重要。素材をどんな扱いするかわからないやつに触られたくもない。
致死性の魔術仕掛けたいけど学院内なので自重する。でも、死ななければいいよね。侵入者対策なんだし、勝手にはいるやつが悪い。
今日はレオナにワイロを贈る。
青色岩トカゲの革で作った鞄と胸部の防具だ。
サムイルとアルシェイドには青色岩トカゲの指と爪を利用して作った投げナイフ。渡したら僕は的にされた。
サムイルは使用感を確かめただけだろう。アルシェイドは実習で直ぐに食べれない果物と木の実を採取させたのがいけなかったらしい。
木の実はパン混ぜて焼いたし、果物はそのままだと微妙なのでジャムにした。ムダになんてしてないのに、しつこい。
「ありがとうございます」
「防具は演習に使って。レオナならいらないかもしれないけど、風王みたいに結界壊れるまで攻撃したあげく、制御が下手な人だと、メダル壊すついでにケガさせられるからね。肋骨骨折とか胸部裂傷で治療受ける人多いんだって」
今月末は学年別だから、先月よりはマシなはず。
午前中に場所分けて一年生と二年生が同時に、午後に三年生と四、五年生合同が場所を分けて同時に行われる。
五年生は参加人数が少ないので、単独では行われない。五年生は卒論のために現地採取や研究、調査で学院にいない生徒が多いらしい。五年生になる前に授業についていけなくて退学になる人もいるし、全学年合同演習ほど賞品がよくないので、ケガ回避にわざわざ予定を入れて参加を拒否している人も多いそうだ。
五年生だけの特権というのがずるい。
一年生にはケガより怖い存在がいるのに強制参加だ。
「しっかりと使わせてもらいます」
「ベルト調整して、サイズ合わせてもらえば大丈夫だと思うけど、使いにくかったら教えて。僕、男用しか作ったことないから、不具合の情報もほしいし」
レオナと話し終えると、ガタイのいいクラスメイトに囲まれた。彼ら、前回の演習は直ぐに退場になったらしい。
彼らは武器に魔術負荷や属性がついている戦闘には慣れているが、近距離で複数の魔術が降り注ぐ状況に対応できなかったようだ。
彼らからしたら僕は弱いけど、前回退場してないし、特にケガもない。結果だけみればチーム成績一位。開催の差し迫った演習のために情報がほしいようだ。
お話は、放課後にしてもらう。
情報提供くらいはいいのだが、何の利益もないのは嬉しくない。かといって、金品やコネで欲に目がくらむと破滅させられそう。
僕は授業の合間に頭を悩ませた。
放課後、僕と話をするのは二人。どっちも僕とは親子くらい体格差がある。教室から連れ出されて行く姿はいじめの呼び出しのようだ。一緒に歩いていると視線をそらす人がいる。
ちょっといたたまれない。
おどおどしてたら、正義感の強い人が現れるかも。なんて、少しばかり現実逃避してみた。
僕、鍛えてもあんまり筋肉つかないし、成長期終わってもこれだけ恵まれ体型にはないだろな。恨むがましく見つめていると不審な顔をされた。
「なんだ?」
「筋肉と身長の不公平さを見てただけです」
「お前小っちゃいもんな」
「あだ名がねずみだったか」
どっちも慰めの言葉はなく、心に刺さる発言をする。
「月末の演習は、大きいと不利なんで、大変ですね」
ちゃらけて笑っていたのが、獲物を見つけた猫のような笑みになった。彼らは強そうだし、怖い。でも、震えるほどじゃないし、僕も笑って見せた。
「お話は訓練棟でしようか?」
「いいですよ。でも、僕には何の利益もないんですよ」
感情の消された冷たい視線と蔑む視線を受ける。
「金か? 我が家の名か?」
「すいません。貴族さまの事情は詳しくないので、家名の価値がわかりません。お金は興味ありますが、そんなことよりあなたがたの技能を借りたいです」
僕、がんばった。
彼ら二人は僕が作成した魔物素材の武器で打ち合ってもらっている。大蜘蛛の足で作った魔剣に、カマキリぽかった魔物の足で作った魔槍。青色岩トカゲの手で作った魔杖。
いろいろ作ったから使用感が知りたかったんだよね。
「槍は気に入った。買ってやる」
「オレはこの黒い剣と朝お友だちにあげてた投げナイフがいい」
騎士は支払い能力が高いのがいいね。
ちょっとぼったくっても大丈夫だった。今回は情報料込みだからかもしれないけど。
口を軽くするには充分な利益だ。
「演習はですね、強い人から集団で狙うのが基本だそうです。なので、士官学校卒業者なんて怖いから、集中的に狙われたみたいですね」
狙われるのが常の上位陣はだからこそ共謀して、有象無象近づけないように、威嚇も兼ねて大魔術で撃退する。
「今回は学年別なんで、Aクラスは全員他クラスから集中的に狙われるものらしいです。安全優先なら、開始直後に計画的退場がいいですよ」
あと、雷女帝と風王何いってたかな。
「あー、今回チームの指導に上級生いるの知ってます?」
どっちもうなずいたのを確認してから告げる。
「来月の予行練習に、先月開始直後に見せた魔術使うらしいですよ。成績上位陣にうかつに近づくのは危険って体感させるために」
二人は対策を練るために慌てて訓練室から出て行った。
対策があるなら、彼らはたぶん常に成績上位にはいない。
月末の学年別演習前日、チーム発表が行われた。
最上位クラスの人がリーダーとなり、他のクラスのチームメイトを呼びに行く。だが、今回はリーダーと上級生がセットで集めに行く。
「運鼠、よろしくな」
四年生の人でチーム順位はだいたい三十番前後くらいの成績だそうだ。たまに十番以内にはいるそうで、あだ名もある。
楽罠。
どういう意味だろう?
「チームメイト集める前に話をしようぜ」
先輩は罠師として後継者を育てろと要請されたそうだ。
演習は力だけではない生き残れない。それを証明するのが罠師たちの力の見せどころ。
正攻法しか知らない士官学校卒業生はカモと、先輩はいい笑顔で言いきった。
演習だけは士官学校卒業生と一緒にいたらダメだ。とばっちりで危険な目に遭う。
彼らは頼れる盾じゃない。攻略対象として情熱をそそがれる実験対象だ。
あとで教えてあげよう。
黙ってて恨まれたくない。でも、先輩の話を聞いていると僕も実験してみたくなる。
午前中、僕と先輩は図書館で薬物談議を行なった。
チームメイトの存在なんてすっかり忘れ、お互い工房もあるし調合する約束を取りつける。
「工房長屋は罠師ばっかりだ。期待しているぞ、新人」
がっつり握手してわかりあっていた僕らに拳骨が落とされる。拳のもとを探せばエミール先生がいた。
「演習の作戦会議の前にチームメイトを向かえに行ってくれるかしら」
いつまでたっても現れない僕らを一年の先生みんなが探していたそうだ。
僕らは工房へ向うのをあきらめ、しぶしぶGクラスへ向かう。教室にたどり着くと、待ちぼうけしてた四人ににらまれた。
「我々の作戦は秘密であることが重要だ。チームメイトが誰か知られないとなおよい」
先輩は待たせていたのが明日の作戦だと説明する。作戦は明日の朝知らせるからとその場で解散となった。
「さあ、調合するぞ」
邪魔だったんですね。
僕も調合したいからいいですけど。
先輩の調合薬、楽しみです。
その日、僕らは笑い薬を作った。
翌日、それを使用する。一年生の演習は笑いに包まれた。
笑いすぎて動けなくなった人がたくさんでる。薬の調合は成功だ。
これでメダルを奪うなり壊すなりすれば撃破数になったのだが、僕はそのときすでに計画退場しており観戦するしかできない。
士官学校卒業生たちはがんばった。
チーム枠ムシして、一人一属性特化で多重結果を形成して護衛対象者を守ったのはさすがです。でも、薬物防御はできなかったんですね。
僕は退場しているから、攻撃したらダメですよ。
楽罠。
笑い薬を五種作れる先輩を僕は尊敬する。
演習に対しては愉快犯ですよね?
成績より実地実験ですよね?
散布協力したチームメイトは笑いながら怒っている。
先輩のハンカチをマスクにしたら防げる発言、完全なウソだったもんな。僕は黙っていただけなのに恨まれた。
しかたない。僕と先輩は中和薬を染み込ませたマスクをはずし、笑みをかわす。
効果が実証された笑い薬は、上級生相手によく売れた。中和薬を染み込ませたマスクは薬より高値で売れる。
僕らの笑いはとまらない。
罠師は成績より実利。今回の収益は次回演習のために、研究開発費として使われる。
罠は演習のだいご味だそうだ。
精進しよう。
一年生の演習、一位はサムイルだった。ダンジョンで状態異常の対処になれている。メダル回収作業になっていたようで、つまらなさそうだった。




